Vous êtes sur la page 1sur 87

3

[コンピュータワールド]2008年3月号
月刊
発行・発売 (株) IDGジャパン 〒113-0033 東京都文京区本郷3-4-5
TEL:03-5800-2661(販売推進部) © 株式会社 アイ・ディ ・ジー・ジャパン
世界各国のComputerworldと提携

TM
contents
March 2008 Vol.5 No.52

Features 特集&特別企画
世界的課題をどうとらえ、何をなすべきか

2008年、
「グリーンIT」

取り組む
特集 28

に向けた多角的なアプローチを実践する
「地球にやさしいIT」
Part 1 30 グリーンITでIT 部門がなすべきこと
栗原 潔

コンポーネント/サーバ/ラック/設備から検証する
Part 2 40 グリーン・データセンターを実現するマルチレベル手法
渡邉利和

“ストレージのスリム化”
のための技術と運用管理手法
Part 3 48 「グリーン・ストレージ」
に取り組む
Mary K. Pratt

FAQと米国企業の先進事例に学ぶ
Part 4 56 着手する前に知っておきたいグリーンITの基礎知識
Robert Mitchell / Robert L. Mitchell

ITが環境に及ぼす影響を軽減するための第一歩
Part 5 62 グリーンITのアクション・プランを作成する
Christopher Mines

本格普及へのカウントダウンが始まった

特別企画
ユニファイド・コミュニケーション
実用化時代
71

過去のブームとは何が違うのか/導入のメリットは/普及への課題は……
い ま

Part 1 72 ユニファイド・コミュニケーションの現状を探る
岡崎勝己

サーバ・ソフト、クライアント・アプリ、Webカメラで構成されるUCプラットフォーム
Part 2 76 マイクロソフトが提唱するUC導入のメリットとは
山口 学

ビジネスの俊敏性を高めるネットワーク・インフラを構築する
Part 3 82 ユニファイド・コミュニケーション
[自社構築のシナリオ]
堀 勝雄

March 2008 Computerworld 3


contents
3

News & Topics ニュース&トピックス   6

Technology Focus テクノロジー・フォーカス


「シン vs. ファット」
──MS Officeの牙城に切り込むGoogle Apps
Applications 90

Randall C. Kennedy

96
実用化に向けて歩を進める
「ネットワーク・コーディング」
Networks
ck
Chew-Mo
Jim Duffy

Opinions 紙のブログ
101 インターネット劇場
佐々木俊尚

102 IT哲学
江島健太郎

103 テクノロジー・ランダムウォーク
栗原 潔

Information インフォメーション
表③ エンタープライズ・ムック のご案内
「ITマネジャーのための内部統制/日本版SOX法講座」
4 エンタープライズ・ムック のご案内
「SaaS研究読本」
100 IT KEYWORD
104 本誌読者コミュニティ&リサーチ のご案内
105 のご案内
「定期購読お申し込みでCD-ROM年鑑プレゼント」
106 バックナンバーのご案内
108 イベント・カレンダー
109 おすすめBOOKS
110 読者プレゼント
111 FROM READERS & EDITORS
112 次号予告/AD.INDEX

March 2008 Computerworld 5


グリーンITの普及/国際ハッカー集団の暗躍/Linux大躍進/
NEWS
デスクトップにも仮想化の波……「2008年のIT業界」を予測する
IDG News Serviceの各分野の記者による
「今年はこうなる」

 IDG News Serviceの各分野の記者が、 ンツ、検索、ソーシャル・ネットワーキング、 デスクトップにも仮想化の波


2008年にIT業界で起こりそうな出来事を ショッピングなどのサービスは、モバイル  仮想化技術がデスクトップPCにも利用
大胆予測している。その中から注目すべき 環境でも
“デフォルト”
となりそうだ。 されると予測するIT業界関係者は多い。ま
トピックをいくつか紹介しよう。 た、次世代のシン・クライアント技術
(シン・
Linux大躍進 クライアント2.0)
が普及すると予測するIT
国際ハッカー集団が暗躍  遅々として普及しないWindows Vista 専門家もいる。
 中国を拠点とした悪質なハッカー集団 を尻目に、多くの企業や政府機関でLinux  ベンチャー・キャピタルの米国Light
が、他国の政府機関や防衛システムのネッ を導入する動きが広がるかもしれない。ま speed Venture Partnersでゼネラル・パー
トワークに侵入する事件が増加し、国際問 た、米国Googleの
「Android」
などが
“起 トナーを務めるバリー・エッガース
(Barry
題に発展する可能性がある。国家機密級 爆剤”
となり、Linuxカーネルをベースにし Eggers)
氏は、
「コスト削減が目的のシン・
の極秘文書が漏洩し、国家レベルで容疑 た家電製品向けの軽量OSが脚光を浴びる クライアントに対して、デスクトップPCの
者を告発し合うような展開になれば、やっ 可能性もある。Linux Foundationのエグ 仮想化は、デスクトップ・ユーザーにアプ
かいな
“紛争”
に発展する危険性もある。 ゼクティブ・ディレクターであるジム・ゼム リケーションを提供する方法を改善するた
リン
(Jim Zemlin)
氏の「2008年はLinux めの技術だ」
と指摘する。ちなみに同氏は、
グリーンITの普及 にとって大きな飛躍の年になる」
ということ 仮想化サーバとデスクトップPCの仮想化
 前年に引き続き、2008年、グリーンIT ばは、現実のものとなりそうである。 技術を組み合わせた
“仮想化ハイブリッド・
はさらに注目されるだろう。特に2008年は、 モデル”
が2008年に登場すると予測して
環境問題と世界的な景気後退が大問題と 加速する業界再編 いる。 (IDG News Service)
なり、各国政府、企業、消費者はこの問  2008年も大手IT企業による積極的な
題を真剣に考えざるをえない状況に置かれ 買収活動は継続するだろう。米国Oracle
る。その際、政府機関の中では、EUが主 は新たな買収ターゲットを物色しているは
導的な役割を果たすことになるだろう。 ずである。ある分野に特化したソフトウェ
ア・ベンダーが生き残るのはますます難し
進化するワイヤレス・ネットワーク くなりそうだ。米国IDCは2008年の予測で、
 ワイヤレス・ネットワークを利用できる地 米国Salesforce.comが買収される可能性
域が拡大し、新しいデバイスやアプリケー を指摘している。ちなみにIDG News Ser
ションも多数登場するだろう。Wi-Fiなど、 viceは、Microsoftが
「BlackBerry」
を提 2007年5月に開催された 「LinuxWorld Conference
特定の地域内で提供されるサービスが充 供するカナダのResearch In Motion
(RIM) &Expo/Tok yo 2007」でLinux市場の拡大について
言及したLinux Foundationのエグゼクティブ・ディレ
実することも予想される。メディア・コンテ を買収するだろうと踏んでいる。 クター、Jim Zemlin氏

●Microsoft、Windows Home Server上のファ ●IBM、無料の電子メール検索エンジン 「IOPES」 ●三井物産セキュアとインフォコム、内部統制の評


N E W S H E AD L I NE

イルが破損する問題を警告 (12/27) をリリース (12/20) 価支援ツール/コンサルティングを提 供開始


●2008年のセキュリティ動向予想――モバイル機 ●Go o gleのDoubleClick買 収 をFTCが 承 認 (12/20)
器への脅威が深刻に (12/26) (12/20) ●次期ブラウザ 「IE 8」
がWeb標準テストをパス―
●NetSuite、IPOによる調達額は1億8,540万ド ●Yahoo! Chinaの著作権侵害上訴審、北京の裁 ―正確なサイト表示を重視 (12/19)
ルに(12/26) 判所が訴えを棄却 (12/20) ●SAPジャパン、統合アプリ基盤 「NetWeaver」

●IBM、インメモリDBベンダーのSolidを買 収 ●オラクル、SOAフレームワーク 「AIA」の取り組 新機能を発表 (12/19)
(12/21) みを披露 (12/20)⇒9ページ ●ラック、2007年のネット・セキュリティを総括 「一
●ブロケード、データセンター構想 「DCF」 推進を核 ●サイベースとジール、BIシステムの構築およびコ 般Webサイトでマルウェアに感染する被害が多
とする新事業戦略を発表 (12/21) ンサルティング・サービスの提供で協業 (12/20) 発」
(12/19)
⇒7ページ
●Microsoft、EU命令に従いWindows互換性情 ●Webを利 用するクライアント 数、iPhoneが ●Googleら検索大手3社、違法なネット賭博の広
報をSambaチームに開示 (12/20)⇒10ページ Windows Mobile端末の1.5倍に(12/20) 告問題で司法省と和解 (12/19)

6 Computerworld March 2008


D e c e m b e r, 2 0 0 7

ラック、2007年のネット・セキュリティを総括

NEWS
「一般Webサイトでマルウェアに感染する被害が多発」
バレたら
“自己削除”
するボットも登場、2008年も増殖の兆し

 セキュリティ・ベンダーのラックは2007 性を指摘した。 認されている。


年12月19日、2007年のインターネット・セ  また新井氏は、攻撃手口が巧妙になって  さらに新井氏は、
「2007年いちばん注目し
キュリティのトレンドと今後の対策に関する いる点にも言及した。同氏によると、一般 たマルウェア」
として
「自己削除型のボット」
報道関係者向け説明会を開いた。 企業や組織のWebサイトにスクリプト・タグ を挙げた。新井氏によると、このボットは特
 説明を行った同社研究開発部 先端技術 を混入させ、ユーザーに気づかれないように 定サーバと接続できない環境になった場合
開発部 部長の新井悠氏は、2007年のイン Webサイトを改竄することで、最終的にマ に、自動的に自己削除するというタイプのも
ターネット・セキュリティの傾向として、① ルウェアに感染させるという手口が急増して ので、ユーザーがマルウェアの感染を疑っ
マルウェアの大量感染の終焉、②Web 2.0 いるという。 たPCをネットワークから切り離すと、自動
時代への適応、③
「目くらまし」
手段の多様  
「感染するマルウェアは最初にアクセスし 的に検体も削除されるという。
化を挙げた。 たWebサイトではなく、複数のWebサイト  こうした攻撃から身を守る手段として新
 新井氏によると、Windows XP Service からリダイレクトされた先のWebサイトに仕 井氏は、企業や組織が被害を生むような
Pack
(SP)2の普及により、一般ユーザー 掛けられている。これにより、どのWebサイ Webサーバを構築しないこと、JavaScript
のほとんどがパーソナル・ファイアウォール トで感染したのかが特定されにくくなってい を無効にするプラグインを活用することの2
を利用するようになったため、インターネッ る」
(新井氏) 点を挙げた。 (Computerworld)
トに接続しただけでウイルス/ワームに感染  マルウェア自体が
“バージョン
するといった被害は少なくなったという。 アップ”
しているのも大きな特徴
 しかし、一方でWebを介したウイルスの だ。総務省と経済産業省が共同
感染が急増していると指摘。最も多いのは、 で行っているボット対策プロジェ
スパム・メールなどでウイルスを仕込んだ クト
「サイバー・クリーン・センター
Webサイトに誘導したり、検索エンジンの (CCC)
」によると、調査期間内に
検索結果にウイルスを仕込んだりしてユー 見つかったウイルスの総種類数
ザーをウイルスに感染させる手口だと語っ 1,921種類のうち、約70%はウ
た。 イルス対策ソフトで検知できな
 新井氏は、
「アンダーグラウンド・ビジネス かった未知の検体だったという。
では、Webブラウザの脆弱性を悪用するソ  ちなみにCCCが、インターネッ
フトが販売されている。しかも機能拡張でき ト業界団体がブラックリストとし
るモジュール・オプションを提供するソフト て指定した10万URLを巡回した
も存在する」
と、アンダーグラウンド市場の 結果、8.5%のWebサイトで何ら
“充実した”
サービスぶりを紹介し、その危険 かのウイルスに感染することが確 ラックで研究開発部 先端技術開発部 部長を務める新井悠氏

●世界PC出荷台数、2007年4Qも2ケタ成長が続 ●Google Toolbarで脆弱性発覚、データ盗難に ●Google、Wikipedia対抗サービス 「Knol」


の計
く(12/19) 遭うおそれも (12/18) 画を明らかに (12/13)
⇒8ページ

「Firefox 3.0」
がベータ2へ――データ漏洩防止 ●インサイト、DB監 査ツール 「PISO」のSymfo ●Apple、不正コピー防 止 技 術の 特許を申請
やクッキー管理の機能を強化 (12/18) ware対応版を出荷 (12/18) (12/13)⇒8ページ
●BEA、Genesis第1弾となるSaaSプラットフォー ●Intel、オープンソースのFCoEイニシエータを発 ●Cisco、メディア企業向けSNSプラットフォーム
ムの提供計画を国内で披露 (12/18)
⇒10ページ 表(12/18) 「EOS」 構想を披露 (12/11)
●オラクル、買収したAgile Software製品を軸に ●IBM、社内ソーシャル・データの視覚化ツールを ●SAPジャパン、CRMアプリの新版 「SAP CRM
PLM事業を強化 (12/18) リリース (12/18) 2007」
を発表 (12/11)⇒9ページ
●SPEC、サーバのエネルギー効率を評価するベン ●Microsoft、
「Dynamics CRM 4.0」
のRTM版を ●インフォア、自動車部品製造業向けのアプリ群を
チマークのテスト・スイートを公開 (12/18) リリース (12/17) 発表(12/11)⇒11ページ
●一般消費者を狙ったフィッシング詐欺、米国の年 ●IBMとACI Worldwide、電子決済システムの共 ●アークサイト、日本版SOX法対応のイベント管
間被害は360万人・32億ドルに (12/18) 同開発で提携 (12/17) 理ソフトなどを発表 (12/7)⇒11ページ

March 2008 Computerworld 7


Google、Wikipedia対抗サービス の計画を明らかに
「Knol」
NEWS
──各記事に著者名を明記するなどの新機軸を打ち出す
科学、医学、地理、歴史、娯楽など幅広いトピックの情報提供を目指す

 米国Googleは2007年12月13日、ユー トの名称であるのと同時に、各トピックの の広告掲載に同意した場合、Googleは、


ザーが記事を寄稿できるオンライン百科事 解説記事が掲載された個々のWebページ その広告の
「収入のかなりの部分」
を著者に
典的な新サイト
「Knol」
(unit of knowle も意味する)
は、あるトピックについて初め 分配するという。なおKnolでは、ユーザー
dgeを表す)
を立ち上げる計画を明らかに て検索する人が最初に読みたいと思うよう がコメントや質問、編集、追加コンテンツ
した。既存のオンライン百科事典
「Wiki なものにしていきたい」
と記している。 を提出できるWeb 2.0ツールも提供され
pedia」
とは異なり、Knolでは記事に著者  Googleによると、Knolは現在、招待者 る。 (Computerworld米国版)
名が記載され、著者だけが記事内容の編 限定のテスト段階にある
集に責任を持つという。 という。同社は、このプ
 Googleのエンジニアリング担当バイス ロジェクトの目的は、科
プレジデント、ウディ・マンバー(Udi 学や医学、地理、歴史、
Manber)
氏は自身のブログで、
「Knolプロ 娯楽など、幅広いトピッ
ジェクトのカギとなるアイデアは、著者を クの情報を提供すること
前面に押し出すことだ。書籍やニュース記 だと述べた。Manber氏は、
事、科学論文などとは異なり、Webは著 GoogleはKnolに一切編
者名を明記するという規範が確立しないま 集を加えないとしている。
ま進化してきた。特定のトピックについて  またManber氏による
Manber氏のブログに掲載されたKnolページのサンプル
のKnol
(Knolという単語はこのプロジェク と、著者が自分のKnolへ (http://www.google.com/help/knol_screenshot.html)

Apple、不正コピー防止技術の特許を申請
NEWS

──10分間に1回“抜き打ちチェック”
する可能性も示唆
不正ソフトウェア/アプリケーションの利用防止にようやく本腰

 米 国Appleは2007年12月13日、 製 品 容易であり、データを不正複製しないとい 実行コード・ストリームに特定のコードが挿


アクティベーションとソフトウェアの不正コ う約束をユーザー
(利用者)
は守っていない。 入される。そして生成したデータがデジタ
ピー防止技術に関する特許を、米国特許商 ドングルなどの不正コピー防止技術は、著 ル権利管理モジュールに送信され、署名さ
標局に申請した。この技術は米国Micro 作権侵害行為を阻止できなかった。既存 れたデータと暗号キーが比較される。両者
softの
「Windows Genuine Advantage の不正コピー防止技術で意図的な著作権 が一致すれば同アプリケーションは起動で
(WGA)
:正規Windows推奨プログラム」 侵害を阻止するのは、ほぼ不可能である」 きるが、一致しなかった場合は、アプリケー
と同様、AppleがMac OSなどのソフトウェ と記している。現時点でAppleは、Mac ションの起動
(および動作)
が中断されると
アを制御できるようにするものだ。 OSにコピー防止機能を実装しておらず、 いう仕組みだ。
 
「Run-Time Code Injection To Per 任意のMacBook/iMac/Mac Pro/Mac  こうした一連の確認作業は、断続的に行
form Checks」
という名称で申請された特 miniといったハードウェアと、特定のOSと われる可能性があるという。Appleは
「確認
許出願番号20070288886 には、
「特定 を関連づけるアクティベーションも行って 作業に要する時間は、不正ソフトウェア/
のハードウェア・プラットフォームに対する いない。 アプリケーションの利用を防止し、かつシ
アプリケーション実行の制限」
と「デジタル  Run-Time Code Injection To Perform ステムのパフォーマンスを阻害しないように
権利管理システム」
に関する技術であると Checksは、該当するハードウェアを起動し 設定されるべきである」
という見解を示し、
記されている。 た際に生成される暗号キーを利用するとい 一例として5分から10分の間に1回という確
 Appleは特許商標局に提出した申請書 う。その該当ハードウェア上でアプリケー 認頻度で行う可能性もあることを示唆して
の中で、
「デジタル情報は複製することが ションを起動すると、同アプリケーションの いる。 (Computerworld米国版)

8 Computerworld March 2008


D e c e m b e r, 2 0 0 7

オラクル、SOAフレームワーク の取り組みを国内で披露
「AIA」

PRODUCTS
──ビジネス・ニーズとテクノロジーのギャップを埋めるとアピール
「フレームワークが存在しなかったSOAの初期段階で、アーリー・アダプターが失敗したのは当然」

 日本オラクルは2007年12月20日、同  ビジネス・プロセスを確立したいという 20人日と、AIAを利用することで96%の


社のSOA
(サービス指向アーキテクチャ)
フ ニーズとともに、ESBやBPELといった 工数削減を果たしたとの結果が出た。また、
レームワーク
「AIA
(Application Integra SOA構築のための技術が登場するなか、 コストの合計を見ると、カスタム開発の
tion Architecture)
」に関する記者説明会 SOAのアーリー・アダプターが失敗した理 5,200万円に対し、AIAを利用した場合で
を開催し、SOA導入における同フレーム 由について三澤氏は、ニーズと技術の間 800万円と85%のコスト削減を実現した
ワークの有効性をアピールした。 のギャップを埋めるフレームワークが存在 という。 (Computerworld)
 説明会に際し、日本オラクルの常務執 しなかったことが大きいと指摘した。フレー
行役員で製品戦略統括本部長の三澤智光 ムワークの必要性が特に顕著な課題には、
氏は、SOAが注目され始めた2004年ご サービス粒度の決定、共通データ・モデル
ろについて、
「ベンダーやコンサルティング・ の設計、SOAガバナンスがあり、こうした
ファームに後押しされる形でSOAの全社 部分をカバーするのがAIAであると同氏は
的な導入を検討するユーザー企業が数多 強調した。
く登場した」
と振り返った。同氏によれば、  また、三澤氏は、BPELプロセスをすべ
その当時にSOAを導入したアーリー・アダ てカスタム開発したケースと、AIAを利用
プターは、
「業務プロセスを定義するところ したケースとの比較を行った検証結果を披
までは何とかできたが、そのプロセスを実 露した。この検証における工数の比較では、
日本オラクルの常務執行役員製品戦略統括本部長、
装しようとする段階でつまずいた」
という。 カスタム開発が520人日、AIAの場合が 三澤智光氏

SAPジャパン、CRMアプリケーションの新バージョン

PRODUCTS
「SAP Customer Relationship Management 2007」
を発表
前面刷新したユーザー・インタフェースについて、iGoogleなどと同等の操作性を実現とアピール

 SAPジャパンは2007年12月11日、同 し、My Yahoo!やiGoogleなどと同様の き、SAP CRM 2007の導入効果を試算


社のCRM
(顧客関係管理)
アプリケーショ 柔軟な使い勝手を実現した」
と力説した。 する
「バリュー・アセスメント・サービス」

ンの新版
「SAP Customer Relationship  また、SAPが提唱する
「エンタープライ 提供し、SAP製品の導入価値を対象企業
Management
(CRM)2007」
を発表した。 ズSOA」
の概念に基づき、ほぼすべての機 ごとに算出・提示することで、顧客獲得に
 SAP CRM 2007は、SAPが提供する 能をサービス化
(部品化)
し、SAP Net つなげていく計画だ。
第7世代のCRMアプリケーション。
「SAP Weaver上で他のシステムと連携させるこ (Computerworld)
CRM 2006」
の発売が見送られた日本に とが可能となっている。
SAP CRM 2007の画面。今回のバージョンからWeb 2.0ス
おいては、
「SAP CRM 2005」
以来、約2  今後、SAPジャパンは、国内の タイルのUIを採用している
年ぶりのメジャー・バージョンアップとな CRM市場におけるさらなるシェア拡
る。SAP CRM 2007では、操作性の向 大に向けて、エンタープライズSOA
上に重点を置いたユーザー・インタフェー の推進とともに、ビジネス・パート

(UI)
の全面刷新が施された。例えば、
デー ナーとの協業を強化し、約200社の
タ項目のカスタマイズなどはドラッグ&ド 既存パートナーとの連携に加え、従
ロップ中心の操作で行うことが可能だ。 来の作り込み型の開発や他社パッ
 SAPジャパンのソリューション本部で ケージを手がけるパートナーを取り
CRM担当部長を務める桃木継之助氏は、 込んでいくという。また、バリュー・
「UIの刷新にあたって数百の画面を作り直 エンジニアリング
(VE)
の考えに基づ

March 2008 Computerworld 9


BEA、Genesisプロジェクト第1弾となるSaaSプラットフォームの
PRODUCTS
提供計画を国内で披露
リリース時期は2008年第2四半期の予定

 日本BEAシステムズは2007年12月18 ン」
を提供しようとしている。説明会に際し、 フェーズとして2008年第2四半期をめどに
日、同社の戦略とビジョンに関する記者説 来日した米国BEA SystemsのAquaLogic SaaS
(Software as a Service)
プラット
明会を開催し、2007年9月に立ち上げた 製品担当バイスプレジデント、サンジェイ・ フォームのリリースを計画している。この
「Genesis」
プロジェクトを含む、同社の取 チカマニ
(Sanjay Chikarmane)
氏は、ダ SaaSプラットフォームでは、マルチテナ
り組みについてアピールした。 イナミック・ビジネス・アプリケーションに ントに対応したサービス・プロビジョニング
 BEAは現在、Genesisプロジェクトの下 ついて、
「企業を取り巻く環境が変化する 機能や課金サービスなど、SaaSの提供に

「ダイナミック・ビジネス・アプリケーショ ことを前提にしたもの」
と説明した。 必要な機能が用意され、必要に応じて
 同アプリケーションのためにGenesisで WebLogicやAquaLogicといった同社既
は、SOA
(サービス指向アーキテクチャ)
と 存製品と組み合わせて利用する形になる。
BP M
(B u s i n e s s P r o c e s s M a n a g e  なお、日本BEAによれば、国内展開に
ment)
により、変化への迅速な対応が可 ついては現時点でビジネス・モデルが固
能なプラットフォームを実現するという。 まっているわけではないが、ISVが、SaaS
また、Ajax
(Asynchronous JavaScript アプリケーションの提供基盤として利用す
+XML)
やマッシュアップといったWeb2.0 るケ ースや、 他 のISVやSIerに 対 する
系の技術を用いて操作性を高め、ユーザー SaaSプラットフォーム提供サービスに利
ごとのカスタマイズの柔軟性を確保する。 用するケースが想定されるという。
米国BEA SystemsのAquaLogic製品担当バイスプ
レジデント、Sanjay Chikarmane氏  BEAでは、Genesisプロジェクトの第1 (Computerworld)

Microsoft、EU命令に従いWindows互換性情報をSambaチームに開示
NEWS

サーバ通信プロトコル関連のドキュメントを提供する契約をPFIFと締結

 米国Microsoftと非営利団体のPFIF 年7月、MicrosoftがWindowsプロトコル ないSamba開発チームに代わって契約交


(P r o t o c o l F r e e d o m I n f o r m a t i o n に関するドキュメントを競合他社に開示し 渉を行い、20日の契約締結に至った。同
Foundation)
は2007年12月20日、これ ていないとして、2億8,050万ユーロの制 契約の下、PFIFは1万ユーロをMicrosoft
まで非開示だったWindowsサーバの通信 裁金を同社に科した。 に支払い、その引き換えに、Sambaチーム
プロトコル情報の開示に関する契約を結ん  Microsoftは当初、こうした是正命令や を含むオープンソース開発者がWindows
だと発表した。この契約は、Microsoftに 制裁金などを不服として欧州司法裁判所 プロトコルに関するドキュメントにアクセス
対する欧州委員会の是正命令に基づくも に訴訟を提起した。だが、同社は2007年 できるようにした。
ので、オープンソースのファイル/プリン 10月にそれらの訴訟を取り下げると発表。  今回の契約で、Windows Vistaで使わ
タ共有ソフト
「Samba」
の開発者らは今後、 是正命令で義務づけられた技術情報の開 れるSMB 2.0プロトコルを実装した次世
開示された内容に基づいて同プロトコルを 示に応じることなどを明らかにした。 代版Sambaの開発にも弾みがつくと見ら
実装することが可能になる。  これを受け、PFIFは企業体の管理下に れている。 (IDG News Service)
 欧州連合
(EU)
の欧州委員会は2004年
Microsoftがサーバ通信プロトコル情報を開示するまでの主な経緯
3月24日、Microsoftが欧州独占禁止法
2004年3月 欧州連合
(EU)
の欧州委員会がMicrosoftを欧州独占禁止法違反と認定
に違反していると認定し、是正するよう同
2006年7月 Windowsプロトコルに関する情報を開示していないとしてEUがMicrosoftに制裁金を科す
社に命令した。これにより、Microsoftは 2007年9月 Microsoftが制裁金などを不服として欧州司法裁判所に提起した訴訟の控訴審で同社が敗訴
Windows技術情報の開示を義務づけられ 2007年10月 Microsoftが欧州司法裁判所に提起していた訴訟を取り下げると発表

た。EUは、それから2年以上たった2006 2007年12月 MicrosoftがWindowsサーバの通信プロトコル情報を開示する契約をPFIFと締結

10 Computerworld March 2008


D e c e m b e r, 2 0 0 7

インフォア、自動車部品製造業の業務プロセスを包括する

PRODUCTS
アプリケーション製品群
「Infor Automotive Essentials」
を販売開始
31社の買収で獲得してきた製品群を整理統合して新たに提供

 日本インフォア・グローバル・ソリュー  同製品群の1つである
「Infor CRM AC ソリューション・ビジネスコンサルティング
ションズは2007年12月11日、自動車部 Manager」
は、受注から出荷の流れを管理 本 部でビジネスコンサルティングマネ
品製造業向け業務アプリケーション製品 する製品。同社によれば、自動車メーカー ジャーを務める佐藤幸樹氏は、
「他社はコ

「Infor Automotive Essentials」
を販 によって通信手段や業務プロセスが異な ントロールとオペレーションの統合に終始
売開始した。 るため、これまでサプライヤーは各メーカー しているが、自動車製造業のビジネスを熟
 同社は、米国Infor Global Solutions ごとに個別対応してきたという。同製品は、 知した当社は、ビジネスの統合にフォーカ
の日本法人。Inforは2002年の設立以来、 異なる通信手段/業務プロセスを統合的 スできる」
と、新製品群の優位性を強調し
製造業や流通業など特定業種に特化した に管理し、さまざまな自動車メーカーとの た。 (Computerworld)
アプリケーション・ベンダーを中心に31社 取引を迅速化する。
を買収し、企業規模を拡大してきた。  発表に際し、米国Inforのシニア・バイ
 Automotive Essentialsは、これまで スプレジデント、ジョン・フラヴィン
(John
の買収で獲得した製品を整理統合し、自 Flavin)
氏は、
「当社自体の歴史は5年だが、
動車部品製造業向けにパッケージ化した 製品は25年間にわたり自動車関連業界で
もの。顧客管理、生産、サプライチェーン 活躍してきた実績があり、また、当社はこ
管理、品質管理など、自動車部品製造業 の分野だけで700名以上の専門家を擁し
の業務プロセスにおいて必要となる機能群 ている」
と、同市場に対する自信を見せた。
米国Infor Global Solutionsのシニア・バイスプレジ
を提供する。  一方、日本インフォアのインダストリー デント、John Flavin氏

アークサイト、日本版SOX法対応のイベント管理ソフトと

PRODUCTS
ログ管理アプライアンスを発表
ログ管理作業を自動化し、管理コスト削減を支援

 アークサイトは2007年12月7日、日本 ポートを作成できること。また、機密情報 能を装備する。


版SOX法の順守プロセスの効率化を支援 の漏洩や財務システムが打撃を受ける前  アークサイトのセールス・ディレクター、
するイベント管理ソフトウェア
「ArcSight に違反行為に対する措置を講じ、日本版 田中一成氏は、発表に際し、
「ArcSight
ESM コンプライアンス・インサイト・パッ SOX法が求める内部統制環境を継続的に Logger 2.0とArcSight ESM CIP日本版
ケージ
(CIP)
日本版SOX法」
と、ログの収 監視する機能を備える。 SOX法を組み合わせることで、ログの確
集/管理を支援するアプライアンス製品  ArcSight Logger 2.0は、企業内のさ 実な取得から、相関分析とリアルタイムな
「ArcSight Logger 2.0」
を発表した。 まざまなログを高速に収集/圧縮保存し、 アラートまでをカバーする包括的なログ管
 ArcSight ESM CIP日本版SOX法は、 容易な検索およびリポート作成を支援する 理プラットフォームを構築することができ
同社のセキュリティ情報/イベント管理 1Uサイズの統合ログ管理アプライアンス。 る」
とアピールした。 (Computerworld)
(SIEM)
ソフトウェア
「ArcSight ESM」
の 毎秒10万件以上のイベントを取り込むこと
オプション製品で、日本版SOX法の順守 ができ、収集した生ログは10分の1に圧縮
を支援する各種リポート作成機能やダッ して保存されるため、2TBのハードディス
シュボードなどの管理機能を提供する。最 クに約15TB分のログを保存することが可
大の特徴は、企業内のサーバ、クライアン 能だ。そのほか、スケジューリングによる
ト、ネットワーク機器など、180種類
(約 各種リポート
(CSV、Word、PDFなど)

300システム)
以上の製品ログを収集し、 自動作成やログ内フリーワード検索など、
日本版SOX法などの監査に対応可能なリ ログ・データの一元管理を支援する各種機 アークサイトのセールス・ディレクター、田中一成氏

March 2008 Computerworld 11


特集

2008年、
世界的課題をどうとらえ、
何をなすべきか

「グリーンIT」に
取り組む
企業経営において不可欠な存在となったITは、地球温暖化をはじめとする地球環境問題に、どのような
影響を及ぼしているのか。また、この問題に対してITは、どんな貢献ができるのか──。ITと地球環境と
のかかわりを考える というテーマは、今、まさに世界的な共通課題として、企業・組織に具
「グリーンIT」
体的なアクションを求めつつある。本特集では、このテーマにおける企業側の課題、ITベンダー各社の取
り組みなどを紹介・解説することで、 を明らかにしたい。
「グリーンITで企業が、IT部門がなすべきこと」

28 Computerworld March 2008


March 2008 Computerworld 29
Part

1
「地球にやさしいIT」
に向けた多角的なアプローチを実践する

グリーンITで
IT部門がなすべきこと
「グリーンIT」
が注目を集めている。欧米においては多くのIT市場調査会社が、このテーマを企業のCIO
(最高情報責
任者)
にとっての最重要案件の1つととらえており、国内においてもベンダーの単なるマーケティング・ハイプを越えた
取り組みが始まろうとしている。地球環境問題に取り組むことの重要性、特に、温室効果ガス排出の削減の重要性
については本パートで詳述しないが、ITにかかわる者としてこのテーマにどのように貢献できるのかを整理し、自社で
のアクション・プランを練ることはきわめて重要であるはずだ。

栗原 潔
テックバイザージェイピー 代表

われるほうが一般的と思われる。特に、IT機器製造
グリーンITのスコープ 業以外のユーザー企業にとってはITの利用段階にお
ける環境への貢献が最も重大な関心事であろう。さら
 最初に、グリーンIT
(あるいは
「グリーン・コンピュー に狭い意味で、データセンターにおける電力消費量の
ティング」
)ということばが意味するところを明確にし、 削減という意味でグリーンITということばが用いられ
スコープを示しておきたい
(図1)
。 ることも多い。本稿では、本誌読者の大多数にとっ
 広い意味で考えると、グリーンITには2つの概念が ての関心事に紙幅を割くため、また、不要に議論が
含まれる。第一は、ITを活用して環境問題への対応 拡散するのを防ぐために、この最も狭い意味における
に貢献すること。いわば、
「ITによるエコ」
である。例 グリーンITにフォーカスして論じていくこととする。
としては、オフィスのペーパーレス化、サプライチェー
ンの最適化による運輸負荷の軽減、テレワークや電
子会議による自動車の利用機会削減、ITS
(高度道 ITベンダーの動向
路交通システム)
による交通渋滞の緩和、オフィス・
ビルの空調や電力制御の最適化などによる電力消費  ご存じのように、現在、欧米を中心にほとんどの
量の低減などが挙げられる。 ITベンダーがグリーンITに向けた戦略を打ち出して
 もう1つの概念は、
「ITにおけるエコ」
である。こちら いる。例えば、IBMは
「Project Big Green」
(注1)

の意味で目指されるのは、IT機器製造段階における 呼ばれるプロジェクトに年額10億ドルを投資し、デー
環境配慮
(工場の電力消費量の低減、産業廃棄物の タセンターの電力消費と発熱を削減するための製品
最小化など)
、IT利用段階における環境配慮、IT機 やサービスを継続的に提供していくことを発表済み
器の廃棄段階における環境配慮
(いわゆる、リサイク だ。また、Hewlett-Packard
(HP)
は「CO2削減インセ
ル問題)
などだ。 ンティブプログラム」
として、消費電力の低減量に応
 広義のグリーンITはこれらの両方の概念を含むが、
注1:IBMの愛称
「Big Blue」
(同社製メインフレームの筐体色で青色が標準であ
より限定的に後者の
「ITにおけるエコ」
という意味で使 ったことから)のもじりである

30 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

図1:グリーンITのスコープ

広義のグリーンIT
狭義のグリーンIT

ITを活用した環境への貢献 IT利用における環境配慮
(ITによるエコ) (ITにおけるエコ)
(例)
●IT機器製造段階での環境配慮
サプライチェーン最適化
テレワーク
●オフィス内PCの電力消費量低減
テレビ会議
ITS
(高度道路交通システム)
●データセンターの電力消費量低減
空調制御

●IT機器廃棄段階での環境配慮

最も狭義のグリーンIT(本稿のフォーカス)

画面1:ベンダー中立の非営利団体
「The Green Grid」
のWebサイト
じてサーバの利用料金を割り引くというユニークな従 (http://www.thegreengrid.org/)

量課金体系を用意している。他のベンダーを見ても、
製品やサービスのプロモーションにおいてエコやグ
リーンを価値提案の1つに据えるところが増えている。
 国内ベンダーにおいても、日立製作所の
「Cool
Center50」
や「Harmonious Green」
、NECの
「REAL
IT COOL PROJECT」
、富士通の
「Green Policy
Innovation」
など、ユーザー企業の電力消費量低減
に貢献する製品/サービスの提供や、ベンダー自身
のデータセンターの電力消費量低減を図るための取り
組みを発表している。
 さらに、経済産業省も2007年12月、JEITA
(社団
法人電子情報技術産業協会)
、JUAS
(社団法人日本
情報システム・ユーザー協会)
、JISA
(社団法人情報
サービス産業協会)
などの業界団体と共に
「グリーン
ITイニシアティブ」
(注2)
を立ち上げた。総合的なハー
ドウェアやソフトウェアの開発製造能力を有すること、 上を目指して、WWF
(世界自然保護基金)
の下部組
また、
「MOTTAINAI
(もったいない)
」の国際語化運 織
「Climate Savers Computing Initiative」
が立ち
動に見られるような節約を美徳とする国民性を考えて 上げられている。また、本稿でフォーカスするデータ
も、国内企業はグリーンITにおいて世界をリードでき センターにおける電力消費量の低減という観点では、
る存在になりうる、そして、そうなるべきであると言え 2007年2月にベンダー中立の非営利団体として結成さ
よう。 れた
「The Green Grid」
コンソーシアム
(画面1)
に注目
 2007年は、国際レベルでこのテーマに取り組む業 すべきである。同コンソーシアムは、データセンター
界団体設立の動きが活発化した年だった。同年6月に
注2:グリーンITイニシアティブは、前述した
「ITによるエコ」
と「ITにおけるエコ」
は、GoogleとIntelにより、主にPCの電力効率の向 の両方を対象としている

March 2008 Computerworld 31


Part 1  グ リ ー ン I T で I T 部 門 が な す べ き こ と

の電力効率性を向上するためのベスト・プラクティス、 (Corporate Social Responsibility:企業の社会的


評価基準、技術情報の提供を行っており、AMD、 責任)
の重要性が増している。企業が単に法律を守り、
D e l l、H P、I B M、I n t e l、M i c r o s o f t、S u n 利益を上げるだけではなく、さらに一歩進んで社会的
Microsystems、VMwareなどがボード・メンバーと な貢献をすべきという考え方だ。そして、CSRは倫理
して名を連ねている。なお、参加ベンダーはシステム・ 的な観点から重要であるだけではなく、マーケティン
ベンダーだけではなく、SIerや設備系のサービス・プ グの観点からも重要であることを理解する必要がある。
ロバイダーも含まれる。日本からも、伊藤忠テクノソ CSRの推進には、企業イメージを向上するという重要、
リューションズ
(CTC)
やNTTデータ、NTTコムウェ かつ、現実的な効果がある。世間からすぐれた企業と
アが参加している。 認知されるまでには、長い期間をかけた地道な作業が
欠かせない。グリーンITにおいても、精神的・倫理的

ユーザー企業がグリーンITに な観点以上に、企業イメージの向上という実利的なメ

着手すべき理由 リットがあることを忘れてはならないだろう。

 欧米では、ITベンダーはもちろん、ユーザー企業 理由②:差し迫ったデータセンターの電力問題へ
においても多くがグリーンITを重要な課題として認識 の対処
し取り組み始めている。一方、国内のユーザー企業  過去、データセンターの電力問題が大きな課題と
のIT担当者にとっては、現在のところ、グリーンIT なることは、皆無ではないものの比較的少なかった。
はまだ差し迫った課題にはなっていない印象がある。 しかし、ここにきて状況は大きく変わっている。特に、
 例えば、筆者が非公式に行った聞き取り調査では、 多数のサーバ上で稼働するWebアプリケーションを中
上記のGreen Gridの認知度はきわめて低かった。こ 心に、データセンターに必要とされる電力量が急激に
の理由の1つとしては、国内の企業の場合、データセ 増大している。
「業務の需要にこたえられるサーバの
ンターの電気料金経費が必ずしもIT部門の管理対象 購買予算は確保し、設置スペースも十分にある。し
の予算とされていないことが挙げられるだろう。
つまり、 かし、データセンターの電源や空調設備の容量不足
IT部門がデータセンターの消費電力量低減の
“当事 のために、サーバを導入できない」
といった笑えない
者”
となっていないというわけだ。 状況も十分に考えられるのである。このような企業に
 また、非製造企業においては、IT関連の消費電力 とっては、グリーンITはより差し迫った課題となる。
量が項目別で最大を占めるにもかかわらず、
「エコより
も直近のビジネスのほうが重要だ」
「エコは単なる流行 理由③:IT基盤の最適化に結び付く施策
や特定の団体や政治家の売名行為にすぎない」
「教条  電力効率を最適化したシステムは、その他の面で
主義的なお説教をされるのには抵抗がある」
などと も効率性が高いことが多いというのも理由となる。電
いった考えが依然として多いようだ。 力効率の向上には、消費電力が小さい機器を用いる
 しかしながら、IT担当者は、グリーンITをより現 ことも重要だが、ハードウェア・リソースの利用率を
実的な視点から見つめ、自社での取り組みについて 向上させることこそが最も効果を発揮する。すなわち、
じっくり検討を行うべき段階にきている。一般的な企 仮想化やサーバ統合がITのグリーン化に大きく貢献
業のIT部門がグリーンITに着手すべき理由は、大き するのである。そして、このように集約されたIT基盤
く以下の3点に集約できる。 は、利用率向上によるハードウェア・コストの削減、
運用管理負荷の軽減、サービス・レベルの向上といっ
理由①:CSRの推進による企業イメージの向上 た点でも有利だ。この点については後にも詳しく述べ
 今日、企業経営における課題の1つとして、CSR たい。

32 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

 
「サーバ統合が大きなメリットをもたらすことは理解 ジェクトとして、とるべき具体的なアクションについて
しているのだが、なかなか実施に踏み切れない」
とい 見ていくことにする
(34ページの図2)

う企業にとっては、グリーンITが最後の一押しになる
可能性もあろう。少し語弊はあるかもしれないが、グ プロジェクト・チームを結成する
リーンITという施策は、エコという
“大義名分”
の下に  まず、グリーンITプロジェクトの管理と報告に責任
IT基盤の最適化を達成できる
“チャンス”
であるとも言 を持つ組織作りを行う必要がある。ここで重要となる
えるのではないだろうか。 のは、企業全体の活動との整合性をとることだ。多く
の企業が何らかの
“エコ的な取り組み”
をすでに行っ

グリーンITプロジェクトの ているはずである。データセンターのグリーン化を進

進め方 めるのであれば、IT部門内に閉じた取り組みではなく、
そのような全社的な取り組みのうちの1つとして位置
 ここからは、データセンターにおける電力消費量の づけるべきだ。
低減に的を絞ったユーザー企業のグリーンITプロ  これは、企業イメージの向上がグリーンITの大き

pi c s
n IT To
Gr e e

高まるグリーンITへの関心、
7割の企業はデータセンターの環境対策に前向き Maxine Cheung
取り組みのトップ3は
「サーバ統合」
「仮想化」
「省エネ機器へのリプレース」 ITBusinessカナダ版

 世界14カ国800社以上を対象にした米国Symantecの国際リポート ポートには記されている。 「グリーンITへの注目が高まったことは、特に在


「Green Data Report 2007」
によると、調査対象企業/組織の7割がデー カナダ企業にとって本格的に取り組むよい機会だと言える。カナダでは、
タセンターのグリーン化に前向きだという。 半数近くの企業が何らかのグリーン・ポリシーを施行している」 (Derrington
 同調査は、Symantecが発表した 「State of the Data Center」
への補 氏)
足として2007年9月に実施されたもの。Forbes誌の 「グローバル2000」 に  回答者はグリーン化に向けた自社の取り組みをそれぞれ挙げており、そ
名を連ねる大企業から公共機関に至る世界14カ国800以上の企業・組織 のトップ3は、サーバ統合、サーバ仮想化、古い機器から省エネ製品への
のデータセンター担当マネジャーに回答を依頼した。 入れ替えだった。
 調査結果を基に作成された同リポートによると、データセンターのグリー  Derrington氏によると、企業のグリーン化戦略にはソフトウェアも重要
ン化を前向きに考えているのは71%に上っている。また約半数 (46%) は検 な役割を果たすという。グリーン・ポリシーを定めているデータセンターは、
討中もしくは計画/試験段階にあるが、実際に着手したのは14%にすぎな サーバの仮想化、サーバの統合、データの重複除外、ストレージの仮想
い。 化なども実施することが多い。
 Symantecのストレージ管理担当ディレクター、ショーン・デリントン  Symantec自身については、 梱包材を極力減らし、 顧客にライセンス・キー
(Sean Derrington)
氏は、 「グリーン・イニシアチブの難点は実現に手間が をオンラインで発行するなどの電子的な方法に移行することで、グリーン
かかること」 と前置きしたうえで、 「サーバの統合、サーバの仮想化、そして 化を図っている。
古い機器をより省エネ型の製品に入れ替えるなど、さまざまなデータセン  「Symantecが2005年に買収したVeritasのストレージ製品ラインは、 チャ
ター環境対策を多くの企業は真剣に検討中だ」 と述べている。 ネルと企業にぜひ活用してほしいソリューションだ」 とDerrington氏は言う。
 企業がグリーン化に取り組んでいるのは、環境保護という観点からだけ Symantecは現在、顧客がストレージ利用率を30〜80%改善できるよう、
ではない。データセンターのマネジャーが省エネ製品への移行を検討する さまざまな方法を検討中だ。 「今後は階層型ストレージとサーバの統合方
ようになったのは、電力料金の上昇も一因だ。グリーンITを促す要因とし 法を改善することで、Veritasデータセンター・ソフトウェアの機能追加に
ては、ほかにもコスト節約というメリットの享受や、ビジネス部門に対する 引き続き力を入れていく」 と同氏は語る。
SLAの達成というプレッシャーもある。  企業にも、またグリーン化運動全体にも課題は残っている。だが、ど
 グリーン・プラクティス/製品への取り組みは国や地域によって異なっ の組織であれ、貢献できる分野はあるというのがDerrington氏の考えだ。
ている。例えば米国では29%の企業しか採用していないのに対し、日本を  「製品の梱包方法を変えるというように、改善できる分野はたくさんある。
含むアジア太平洋地域では約60%、欧州では55%の企業がグリーン・ポ 人手に頼ってきた作業をオンライン化したり、もっと環境に優しい製品が
リシーを策定済みだ。 開発できるようにベンダーと協力したりするのも、グリーン化への立派な
 カナダ国内のデータセンターはおよそ半数がグリーン化されたと、同リ 取り組みの1つだ」

March 2008 Computerworld 33


Part 1  グ リ ー ン I T で I T 部 門 が な す べ き こ と

図2:グリーンITプロジェクトの進め方

グリーンITプロジェクト・チームの結成
全社的なエコ・プロジェクトとの整合性確保

定量的指標の確定と現状評価

データセンター設備のグリーン化 データセンター機器のグリーン化
・効率が高い配電・冷却・照明機器の採用 ・電力消費量が小さいテクノロジーの採用
・エアフロー設計の見直し ・仮想化と集約による資源利用率向上
・機器配置の見直し ・管理ソフトウェアの採用

モニタリングとフィードバック

な目的の1つとなることを考えれば当然のことである。 当たり前のこと/簡単なことから始める
例えば、データセンターの消費電力量低減に苦慮し  言うまでもないことではあるが、グリーンITに向け
ながら、その一方では配送車が長時間アイドリングを た第一歩として、余分な紙を使用しない/照明や空
続けているといった状況では、せっかくの努力が報わ 調を最低限に抑える/IT機器の電源オン・オフをこ
れないだけでなく、社員の意識向上も難しくなるし、 まめに行うといった、当たり前のこと、簡単なことは
企業イメージ向上という点でも逆効果になりかねない 可能なかぎり行うべきだ。前述のケースと同様に、い
だろう。 かにサーバの消費電力量の低減に多大な努力を傾け
 企業内にすでにCSRを担当する組織あるいは役員 ていても、人がいないサーバ・ルームにこうこうと電灯
が存在するのであれば、グリーンITプロジェクトの推 がともっているような状況に問題があるのは自明だ。
進組織もその管理下に置くべきだ。また、IT部門は、  なお、
未使用機器の電源をオフにするという行為は、
少なくとも総務
(施設部門)
、広報、購買、人事、財務・ オフィス内の機器であれば大きな問題にはならないこ
会計部門との密接な協業を行うべきだろう。具体的 とが多いが、データセンター内のIT機器の場合、慎
には、購入部門と協業し、機器購入の際によりグリー 重さが求められることがある。IT部門担当者にとって
ンITを指向したルール、例えば、初期価格だけでは はこれも常識ではあるが注意が必要だ。特に、旧型
なくライフサイクルを通じた電気料金を考慮すると の機器だと過剰な電源のオン・オフがハードウェア障
いったルールを設けることなどだ。 害の原因につながるおそれがないとは言えない。本稿
 加えて、広報部門の関与も重要だ。もちろん、世 で一般的なガイドラインを示すことができないため、
の中の注目を浴びることばかりがグリーンITの目的で この点については、該当しそうな製品の開発元/販
はない。だが、地球環境や社会に対して自社が正し 売元に問い合わせていただきたい。
いことを行っているのであれば、それを世間に対して
適切にアピールすることで、企業イメージの向上に結 定量的指標に基づいて管理する
び付けていくというのは、広報としての当然の活動と  グリーンITへの取り組みをかけ声だけで終わらせ
言える。 ないためには、定量的な指標による管理が重要だ。

34 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

図3:Green Gridが提唱するデータセンターの電力効率の指標

X
(データセンター全体の電力消費量) 1
PUE= Y
(データセンター内機器の電力消費量) DCiE= PUE
(Power Usage Effectiveness) (Data Center infrastructure Efficiency)

データセンター設備 データセンター内機器

サーバ
配電

X Y ストレージ
空調

照明 ネットワーク機器

*資料:The Green Grid

詳しくは後述するが、データセンターの電力削減には 3以上になると推定したうえで、PUE= 1.6を目標値


2つの方向からアプローチすることができる。それは、 の1つとして設定している。
設備面からのアプローチと機器面からのアプローチ  なお、PUE値が大きすぎるのは問題だが小さけれ
だ。それぞれに対して適切な定量的指標を定め、適 ばよいというものでもない。例えば、障害対策のため
用すべきである。 に電源系統の冗長性を高めた場合、PUE値は上昇
 まず、設備面について見ていく。ここで重要となる することになるが、これはやむをえないことである。
指標として、前述のGreen Gridが提唱する
「PUE Green Gridは今後、調査を進め、典型的なデータセ
(Power Usage Effectiveness)
」と「DCiE
(Data Center ンターのタイプごとにPUEのベンチマーク値を発表す
infrastructure Efficiency)
」がある
(図3)
。PUEはデー る意向を表明している。ユーザー企業としては当面の
タセンター設備全体の電力消費量をデータセンター内 間、グループ企業内あるいは同一業種内の企業で
のIT機器
(サーバ、ストレージ、モニタ、管理用PC) PUEの概算値を算出し比較することが有効であると
の電力消費量で割った値で、
DCiEはその逆数である。 思われる。
例えば、PUEが3.0である
(DCiEが33%である)
とい  次に、機器面からのアプローチとして、データセン
うことは、IT機器に要する電力量の3倍の電力をデー ター内に設置されたIT機器の電力効率性について検
タセンター設備全体に供給する必要があることを意味 討したい。大規模なデータセンターと小規模なデータ
する。 センターとで、機器の電力消費量の絶対値
(図3にお
 この指標における理想値は、PUE= 1(DCiE= けるYに相当)
を比較することにはあまり意味がない。
100%)
となるが、空調、配電、照明などデータセンター そのため、機器の電力効率を把握するためには電力
の設備にかかる電力消費量をゼロにすることは不可 消費量を正規化することが必要になる。理想的には、
能であるため、現実にその値が達成されることはない。 データセンターが提供する業務量を機器の総電力量
現在のところ、米国においても、PUEの企業ごとの で割ることで、このような正規化
(いわば、単位電力
具体的な数値について詳細な調査はまだ行われてい 当たりのITの価値)
が行えるはずだが、当然ながら、
ないが、Green Gridは、一般的なケースではPUEが データセンターで稼働されるアプリケーションはさまざ

March 2008 Computerworld 35


Part 1  グ リ ー ン I T で I T 部 門 が な す べ き こ と

まであり、比較が可能な形で業務量を数値化するこ ■データセンターの冷却効率最適化支援サービスの
とは不可能だ。 利用
 よって、ここでも妥協案として、同等規模のデータ  図4に、データセンターの電力消費量の内訳の典型
センターの典型的な電力消費量を測定し、それをベ 例を示した。この図にあるように、一般には機器冷却
ンチマーク値としてベスト・ケースに近づける努力を に要する電力が最も大きな割合を占める。しかし、新
するしかないだろう。近い将来、中立的機関によるベ たにデータセンターを構築、あるいは全面改装するの
ンチマーキングの登場が期待されるところだ。もちろ でないかぎり、配電や冷却の設備をより高効率なもの
ん、他社との公平な比較が困難ではあっても、同一 に取り替えることは設備投資の観点から言って困難
のデータセンターにおいてIT機器の総電力消費量を なケースが多いだろう。したがって、短期的な手法で
低下させていくこと、あるいは、業務量の増加にかか はあるが、サーバ・ルームのレイアウトなどの変更に
わらず電力消費量を一定範囲に抑えていくことには十 よって冷却効率の向上を図ることが挙げられる。
分な意味がある。ゆえに、IT機器の総電力消費量を  データセンター内の機器を提供するベンダーは通
定量的基準の1つとして管理していかなければならな 常、サーバ・ルームの効率的なレイアウトに関するノ
いという事実に変わりはない。 ウハウを持っているはずである。しかし、特にマルチ
ベンダー環境のデータセンターにおいては、フロア・レ
データセンター設備の効率改善のための具体的手法 イアウトの全体最適が行われていない可能性がある。
 定量的指標が定まったら、その最適化に向かって 例えば、機器を冷却した後の温風がスムーズに室外
具体的な手段を講じることになる。前述したとおり、 に排出されず、再度循環するようになっていると冷却
データセンターのグリーン化は、設備面、機器面の両 効率は著しく悪化する。機器のレイアウトを少し工夫
方からのアプローチをとることになる。まず、設備面 しただけで、冷却効率が大きく改善された事例もある。
ではどうか。前述のPUEを最適化するための手法に 今日では、多くのベンダーがこのようなデータセンター
ついて見ていこう。 の冷却効率に関する現状調査
(サーマル・アセスメン
ト)
のサービスを提供している。現時点において、こう
図4:データセンターにおける電力消費内訳の典型例 いったサービスの採用は十分検討に値するだろう。
開閉器・発電機 1%
照明 1% データセンター機器の電力消費量削減のための具
UPS 体的手法
(無停電電源装置)
18%  次に、機器面、すなわちデータセンター内機器レベ
ルの電力消費量低減のための具体的手法について見
てみよう。
PDU
(配電ユニット) 5% 33% 機器冷却

■低消費電力技術の採用
 今日では、どのベンダーも消費電力および発熱量
の低減を図る技術を開発し、製品に搭載している。
よって、サーバやストレージ、ネットワーク機器など
IT機器 30% 3% の選定時には、これらの技術を判断基準の1つとして
除湿
とらえるべきだ。
9%
冷房  CPUの低消費電力化は最も顕著なトレンドの1つで
*資料 : The Green Grid
ある。CPUはサーバの構成要素の中でも大きな電力

36 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

を消費するだけではなく
(図5)
、消費電力の低減が性 図5:典型的なサーバ・マシンの電力消費量内訳

能向上に直接的に結び付くからである。CPUの世界 ・典型的な2Uサーバ (消費電力450W)


の電力消費内訳
では、
半導体の微細化に伴う消費電力の増大が
「ムー ・約160W(33%分)
の電力(グラフの赤部分)は熱損失となる

アの法則」
にしたがった性能向上の阻害要因となっ
ており、電力消費量の低減がプロセッサ・アーキテク
AC-DC変換ロス 131W
チャの長期的存続性を決定する要素の1つにもなっ DC-DC変換ロス 32W
ている。 ファン 32W
 この目標に向かうため、CPUベンダー各社は、トラ
ンジスタのスイッチがオフになっている時にも流れる
ドライブ類 72W
リーク電流を最小化するための半導体技術、内部動 PCIカード 43W
作電圧を低減するための技術、処理負荷に応じて動 CPU 85W
作電圧とクロック周波数を動的に調整する技術
(Intel メモリ 27W

「SpeedStep」
やAMDの
「Cool'n'Quiet」
など)
といっ
たさまざまな技術を編み出している。また、マルチコ
チップセット 32W
アもクロック周波数を大きく引き上げることなく性能 *資料 : Intel、EXP Critical Facilities

向上が図れることから、電力消費量の低減に貢献す
る技術と言える。 ケースはほとんどなかったので、ベンダーもそれほど
 また、図5からわかるように、CPU以外の構成要素 この分野には力を入れてこなかった。だが、このよう
においてもサーバの消費電力低減の余地は十分にあ な状況も今後は変わっていくだろう。また、水冷技術
る。例えば、パワー・サプライ
( 電 源ユニット)の も効率的な排熱が行えることから、冷却ファンの消費
AC-DC変換の効率性も重要だ。これまで、パワー・ 電力の低減、そして、データセンターの冷却設備の
サプライの効率性がサーバ選択における基準となる 消費電力低減に貢献できる。

pi c s
n IT To
Gr e e

Google、再生可能エネルギーを用いた
発電技術を開発へ Linda Rosencrance
石炭よりも安価でクリーンな発電に向け年間数千万ドルを投資 Computerworld米国版

 米国Googleは2007年11月27日、再生可能エネルギー(Renewable く数年で実現できる」 (Page氏)


と見通しを示した。
Energy:RE)
を使った発電技術の開発に取り組むと発表した。石炭 (Coal)  Googleがこの目標を達成し、再生可能エネルギーの大規模な導入が
よりも安価なエネルギー源を目指すことから、同社ではこの開発プロジェ 石炭よりも安価であれば、全世界の電力需要の大部分をそのエネルギー
クトを「RE<C」 と命名している。 源でまかなうことが可能になり、炭酸ガス放出を大幅に削減できると、
 Googleの共同設立者であるラリー・ページ (Larry Page)
氏が電話会見 Page氏は見込んでいる。 「これは当社にとってもよいビジネスになると期
で明らかにしたところによると、同社は再生可能エネルギーの研究開発や 待している」 と同氏は述べた。
その他の関連投資に年間数千万ドルを支出する方針だ。  RE<Cプロジェクトへの投資を担当するのはGoogle.orgとなる。
 「当社は、データセンターの建設を通じて、大規模エネルギー集約型の Google.orgはGoogleの慈善事業部門で、現在は2社と共同で再生可能
設備の設計と建築技術に関する専門的な知識を獲得した。この創造力と エネルギー技術の開発に取り組んでいる。2社とは、従来の発電所の燃
イノベーションを生かして、地球規模で意義のある再生可能な発電に挑 料の代わりに太陽エネルギーが生み出す熱を用いる太陽熱発電を専門と
戦し、石炭よりも安価に電力を生産したい」 (Page氏) する米国eSolarと、風力エネルギーの利用技術を開発している米国
 Googleによると、現在のところ全世界の電力の40%は石炭を使って Makani Powerである。
発電されているという。同社の目標は、1GW (ギガワット) の再生可能エネ  Googleでは、今回の発表は 「クリーンかつグリーンなエネルギー」
を生
ルギー容量を石炭よりも安価に作り出すことだ。同社では 「数十年ではな み出す同社の取り組みの1つにすぎないとしている。

March 2008 Computerworld 37


Part 1  グ リ ー ン I T で I T 部 門 が な す べ き こ と

 一方、ストレージの世界では、小容量のハードディ 全体的に見ればグリーンITに大きく貢献できる可能
スク・ドライブ
(HDD)
をソリッドステート・ディスク 性が高い。
(SSD)
に置き換える動きも出ている。また、現時点で
はまだ一般化したとは言えないが、MAID
(Massive ■サーバ統合とサーバ仮想化によるハードウェア利用
Array of Inactive Disks)
も注目に値する。MAID 率の向上
とは、安価なSATA
(Serial ATA)
ディスクを多数使  上記のような、個々の機器ベースで低消費電力化
用し、かつ、使用していないドライブの電源をオフ状 を目指すアプローチは試みてしかるべきだが、これだ
態にすることで電力消費を最適化したディスクアレイ けでは十分とは言えない。いかに消費電力が小さい
技術
(注3)
である。実際にアクセスが行われてからド 機器であっても、有効な業務処理を行わず、電源が
ライブが起動されるため、データのアクセス速度は犠 投入されているだけの状況であれば、むだな電力を
牲になるが、テープと通常のディスク・ドライブの間を 消費していることに変わりはない。つまり、真の意味
埋めるいわゆるニアライン・ストレージとしての活用が で電力の有効活用/最適化を達成するためにはハー
期待されている。 ドウェア・リソースの利用率を向上することが求められ
 さらに、機器のフォームファクターやコンピューティ る。
ング・モデルに目を向けると、ブレードというフォーム  ここでの最善策はサーバ統合である。よく指摘され
ファクターは、複数のサーバやストレージでファンや る点だが、一般的な企業で社内に分散したサーバの
電源を共用していることから、本質的には電力効率が 平均利用率はきわめて低く、15%から30%であること
高い技術と言える。ただし、その一方で、高密度実 が通常である。つまり、
70%以上に相当するハードウェ
装が行われていることから熱の発生源が集中するとい ア・リソースが業務上の価値を生み出すことなく、電
う点で、データセンターの冷却設計面での考慮が必 力を消費し、熱を発生しているのである
(注4)

要になることもある。また、シン・クライアント・モデル
注3:なお、このような設計をとることで、ディスクへアクセスする際のパスの設
の場合は、社員個々のデスクトップ/ノートPCにか 計も簡素化できるため、ハードウェア・コスト削減のメリットも得られる
注4:処理が行われていなければCPUの電力消費はある程度低下する。しかし、
かっていた電力消費と発熱を削減し、データセンター 図4からもわかるとおり、サーバの電力消費にはCPU以外の構成要素も
大きく影響する。そして、これらの他の構成要素は業務上の処理が行わ
環境における効率的な冷却に置き換えるわけなので、 れているか否かにかかわらず電力を消費し熱を発し続ける

図6:仮想化技術によるサーバ統合時の電力消費量低減効果
(試算)

小型サーバ 大型サーバ(+仮想化)
電力消費量 300W 電力消費量 20,000W
処理能力指数 1 処理能力指数 60
プロセッサ使用率 15% プロセッサ使用率 90%

小型サーバ
360台を
大型サーバ1台に
集約可能

電力消費量:20,000W
電力消費量:300W×360台=108,000W
電力消費量がおよそ5分の1に

*現実の事例とおおよその仕様に基づいた試算値であり、
実際の数値ではないことに注意されたい

38 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

 サーバ統合、特に、サーバ仮想化を組み合わせた 例えば、ブレード・サーバ内の各ブレードの負荷を総
サーバの台数削減を実施することで、サーバ・リソー 合的に監視し、未使用のブレードの電源を自動的に
ス利用率を大幅に向上でき、結果的に処理能力当た オフにできる管理機能を用いれば、機器の電力効率
りの電力効率を高めることが可能になる
(図6)
。例え を大きく向上できる。IT基盤の差別化要素が機器本
ば、IBMは前述のProject Big Greenの一環として、 体の機能や性能から管理機能へとシフトしていく中
世界中に分散した社内の3,900台のサーバを、Linux で、電力管理はベンダーが差別化のための投資を集
が稼働する30台のメインフレームに統合することで 中する領域となっていくだろう。IT部門は、運用管
80%の電力消費を削減する計画だ。これだけの規模 理ソフトウェアの選択における基準として電力管理を
の電力消費量低減プロジェクトは、個別機器の単純 含めるべきだ。
な置き換えだけでは不可能であり、仮想化技術も活
用した大規模なサーバ統合によってはじめて実現可 指標のモニタリングと継続的改善
能なものだ。  当然ながら、グリーンITは1度限りのプロジェクト
 さて、これまでには、サーバ統合とサーバ仮想化 ではなく継続的な改善活動を要するプロジェクトであ
によるハードウェア・リソース利用率向上というメリッ る。前述の定量的指標および定性的フィードバックを
トに対して、
「どうせハードウェアは安価であり、今後 モニタリングしながら、グリーン化を継続していく必
も価格性能比の向上は継続していくのであるから、苦 要がある。PUEやデータセンター機器の総電力消費
労してハードウェア利用効率を向上するよりも、どん 量などの数値をKPI
(注6)
の1つとして、他の経営的
どんハードウェアを追加購入していったほうが安上が 指標と共BSC
(バランス・スコアカード)
やCPM
(企業
りである」
という意見が聞かれることがあったが、
グリー パフォーマンス管理)
などの枠組みで管理していくこ
ンITという観点からは決して健全な考え方とは言えな とも十分検討に値するだろう。
いだろう
(注5)

*  *  *
 なお、当然ながら、この議論はサーバだけではなく、
ストレージにおいても成り立つ。また、ストレージ・ハー  グリーンITは長期的に重要なトレンドである。社会
ドウェアの実質的なリソース利用効率を大きく向上す 的責任を果たすというだけではなく、情報システムの
るための技術であるシン・プロビジョニングも有効な TCOを削減し、
より効率性を高めるという効果もある。
解決策の1つである。 いわば、IT基盤の最適化を別の観点から追求する取
り組みとも言える。IT部門がなすべき電力消費量の
■運用管理ソフトの電力管理系機能の利用 低減においては、設備面、機器面の両アプローチに
 ハードウェアの運用管理機能の改善により電力消 加えて、仮想化技術を活用したサーバ統合によりハー
費量を低減する余地も十分にある。機器の負荷に応 ドウェア・リソースの利用率向上も図ることで最大の
じてファンの回転数を動的に調整する機能などはその 効果を発揮する。電力効率性が高い技術/製品を採
好例だ。こうした機能に加えて、より全体的な見地か 用することは当然のこととして、グリーンITという視
ら、自動化されたポリシー・ベースの管理を行うことで、 点から再度、仮想化技術とサーバ統合の有効性につ
電力消費量の最適化を達成することが可能だ。QoS いて検討してみるべきだろう。
(サービス品質)
やSLA
(サービス・レベル条項)
におい
て、消費電力を指標の1つとすることも考えられるだ 注5:もちろん、管理コストを含めたTCO
(総所有コスト)
、セキュリティやサー
ビス・レベルの維持、災害対策などさまざまな理由により、利用率が低い
ろう。 サーバが乱立する状況は望ましいとは言えない

 現在、多くのベンダーが電力消費量の最適化を図 注6:なお、電力消費量は 「業績」とは言い難いため、KPI


(Key Performance
Indicator)
の訳語としてよく用いられる
「主要業績評価指標」 が、あまり適
るための運用管理ソフトウェア製品を提供している。 切な訳語とは言えないことがわかる

March 2008 Computerworld 39


Part

2
コンポーネント/サーバ/ラック/設備から検証する

グリーン・データセンターを
実現するマルチレベル手法
環境問題への関心が一般的にも高まってきていることを受け、IT業界でも
“グリーン”
や“エコ”
がキーワードとして急
浮上してきた。一言で
「グリーンIT」
と総称されているが、製造工程での有害物質排除からリサイクルによる再資源化、
さらには電力効率の向上などアプローチは多岐にわたっている。本パートでは、特にデータセンターを取り巻くグリー
ンITに着目し、その中でも電力効率の向上を実現するマルチレベルでの取り組みを紹介していく。
「グリーン・データ
センター」
を考える際に、現状で特に注目度が高く、各社からさまざまな取り組みが発表されているため、いわば最も
わかりやすいテーマと言えるだろう。

渡邉利和

注目が集まるデータセンター 過状況にある。分野別に見た場合、ITにおける電力


“グリーン化” 消費が含まれる
「業務その他部門」
では排出量の増加
が目立ち、他の分野がCO2排出量削減に努力してい
 データセンターの電力効率が注目されるようになっ るのに比べて、IT分野での取り組みが立ち後れてい
た背景には、この分野で
“グリーン化”
の取り組みがま るように見える。このことが、グリーンITに注目が集
だ始まったばかりだという事情がある。環境省が公表 まる背景となっている。
している (表1)
「温室効果ガス排出量速報値」 を見ると、  コンピュータやIT機器は直接CO2を排出するわけ
2005年に比べて2006年はCO2の排出量がやや減少し ではないが、電力を消費することで排出されるCO2量
ていることがわかるが、それでも京都議定書で定めら に対して間接的に責任を負う形となる。コンピュータ
れた基準年である1990年と比較すると、11.4%の超 は事実上、
“演算処理を実行する電気ストーブ”
であり、

表1:分野別の二酸化炭素
(CO2)
排出量 (単位:百万t)
京都議定書の基準年
[シェア] 2005年度
(基準年比) 2006年度速報値
(基準年比)
合計 1,144[100%] 1,292(+ 12.9%) 1,275(+ 11.4%)
小計 1,059[92.6%] 1,201(+ 13.4%) 1,184(+ 11.8%)
産業部門
(工場など) 482[42.1%] 452(-6.1%) 455(-5.6%)
エネルギー起源

運輸部門
(自動車・船舶など) 217[19.0%] 257(+ 18.1%) 254(+ 17.0%)
業務その他部門
(商業・サービス・事
164[14.4%] 239(+ 45.4%) 233(+ 41.7%)
業所など)
家庭部門 127[11.1%] 174(+ 36.4%) 166(+ 30.4%)
エネルギー転換部門
(発電所など) 67.9[5.9%] 79.0(+ 16.5%) 75.5(+ 11.3%)
非エネルギー起源

小計 85.1[7.4%] 90.7(+ 6.6%) 91.1(+ 7.1%)


工業プロセス 62.3[5.4%] 53.9(-13.5%) 54.1(-13.2%)
廃棄物
(焼却など) 22.7[2.0%] 36.7(+ 61.7%) 36.9(+ 62.7%)
燃料からの漏出 0.04[0.0%] 0.04(+ 2.7%) 0.04(-2.0%)
*資料:環境省

40 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

消費した電力は最終的には熱に変換される。 しないが、データセンターでは、不燃性ガスを使い酸
 電力効率の向上は、基本的に機器の稼働において 素を遮断して消火する消火設備が一般的で、通常の
必要最小限の電力利用だけで済むようにしようという 店舗やオフィスにあるような、スプリンクラーで散水す
発想である。効率改善にはマイナス要素があまり見当 る消火手法は使われない。これも、IT機器に水をか
たらないこともあって、各社が積極的に取り組んでい けると被害が拡大するという不安があってのことだ。
る。ただし、家電製品とは異なり、単純に最新の省エ 冷却水は外部に漏れないように細心の注意を払って
ネ・モデルへの買い替えにはつながらない点がデータ 運用されているが、それでもユーザーの警戒心を払拭
センターの特徴だろう。 するには至っていない。
 というのも、データセンターの総電力消費量のうち、  とはいえ、クーラーを使用して空気を冷やし、冷気
IT機器が直接消費している割合は30%程度であるか をIT機器に吹き付ける空冷システムは、水と空気の
らだ。残る70%は、電源や空調といった設備側で消 比熱の違いから、冷却効率に大きな差がある。この差
費されている。つまり、データセンター全体での消費 はそのまま冷媒の流量の差につながってしまう。つま
電力を考える場合、電源設備や空調設備で効率改善 り、空冷システムでは大量の冷気を流し続けるために
を図るほうが、
より大きな成果が期待できることになる。 送風機の出力を大きくする必要があり、その分、電力
このため、データセンターのグリーン化に関しては、単 消費量も大きくなるわけだ。
にデバイス・レベルで電力効率を考えるだけでなく、  また、メインフレームやスーパーコンピュータで水冷
全体的な視点で実情を把握することが重要であり、レ システムが使われなくなった理由は、水が嫌われるこ
イヤごとに分析していくマルチレベルでの取り組みが と以外にも配管工事が必要であったり、機器の移動
必要となる。 が困難になったりといった問題も関係している。冷却
能力の点では空冷に対するメリットは大きいが、こう

データセンター・レベル した点からも、水冷方式が急速に普及するとは言い難

──設備面からのアプローチ い。ただ、米国では、
“水アレルギー”
に対する反応が
日本ほど強くなく、水冷を採用するデータセンターも
 データセンター・レベルで重要となるのは、建物そ 少しずつ増えていると言われている。ブレード・サー
のものや空調設備、
配電設備などである。そもそもデー バを筆頭にIT機器の高密度実装が進み、局所的に大
タセンターの総電力消費量のうち、70%程度がIT機 量の熱を発生するようになると水冷化は不可避だとい
器以外で利用されているため、設備面の効率化で得 う予測もある。そのため、将来的に水冷システムの採
られる効果は非常に大きいと言える。なかでも注目ト 用が拡大していくことはまちがいないだろう。
ピックとして挙げられるのは、
「水冷システム」
と「直流
給電システム」
である。 ■直流給電システム
 発電所から送られてくる電力は、そのままIT機器で
■水冷システム 利用されるわけではない。家庭用の電力は交流100V
 水冷システムは、発熱しているIT機器の冷却に水を になっており、壁のコンセントにプラグを挿すだけで利
利用する方式である。メインフレームやスーパーコン 用できるが、それでも電子機器が実際に利用する電
ピュータで以前から使用されてきた方式であり、新し 圧に変換するための電源ユニットなどが機器に内蔵さ
い技術というわけではないのだが、データセンターの電 れているのが普通だ。
力効率改善を考えるうえで再評価され始めている。  データセンターの場合、産業用の高圧電流の給電
 IT機器は水を嫌うため、水冷システムに対するユー を受け、内部に電圧変換や配電設備を設置して各フ
ザーの不安は少なくない。電力の効率化と直接関係 ロアに給電するのが一般的である。当然、電圧変換

March 2008 Computerworld 41


Part 2  グ リ ー ン・デ ー タ セ ン タ ー を 実 現 す る マ ル チ レ ベ ル 手 法

の際には電力ロスが発生することになる。 いうのも、電力伝送に関する電圧と電流の関係性が問
 IT機器は最終的に電圧が数V程度の直流を利用し 題となるからだ。電力は電圧と電流の積になるため、
ている。電力会社から供給される交流高圧電流をIT 電力を一定とした場合、電圧を上げるほど電流量は少
機器に給電するためには、電圧や直流への変換処理 なくなる。また、伝送ロスは基本的に電流量に比例す
が必要となる。この変換効率が100%であれば問題は るため、一定の電力を供給する場合、電圧を上げて
ないが、
実際には70%程度の変換効率が一般的であり、 電流量を減らすほうが効率的な伝送が可能になる。こ
変換に際して電力ロスが発生している。変換効率を高 れが高圧線を使って長距離伝送を行う理由である。
めるために電源装置の改良に取り組むベンダーも増え ただし、ショートといった万一の事故が発生した場合
てきており、最新の電源装置では変換効率90%以上 には、交流と直流でその対処方法が異なってくる。
をうたう高効率製品も出てきている。  交流では電圧が正弦波に沿って変動し、プラス/
 一方、電流変換の回数を減らすことでロスを回避し マイナスが切り替わるタイミングで電圧が
「0」
になる。
ようという動きもある。通常のデータセンターでは、電 常に一定の電圧がかかっているわけではないため、こ
力会社から給電された電力を屋内の変電設備に引き れが一種の安全装置となる。しかし、直流の場合は
込み、そこで電圧を200Vや100Vといった値に下げ 電圧が一定であるため、漏電対策はより厳密なものが
てフロアに給電する。この際に、変電設備の内部で交 求められる。コンセントへの差し込みプラグに関しても
流から直流への変換処理が何度か発生している。さ 配慮が必要だという。
らに、各フロアに給電された交流は、サーバなどが内  例えば、コンセントにプラグを差し込んで回路が形
蔵する電源ユニットで直流に変換されている。これを、 成される際に、一定の確率でアークが飛ぶことがある。
最初から直流に変換して給電してやれば変換回数が 一般家庭でもコンセントにプラグを差し込む際に
「パ
減少し、変換に伴う電力ロスを回避できるというのが チッ」
と火花が散ることがあるのを思い浮かべていただ
直流給電システム
(図1)
の基本的なアイデアである。 きたい。これは確率的な現象であり、完全に抑制する
 一見、合理的で有効な電力利用の効率化策に思え ことは不可能だそうだが、この挙動も交流と直流とで
るのだが、直流給電に関しては反対論も多い。それと は大きく変わってくる。交流の場合は電圧が
「0」
に落

図1:直流
(DC)
給電と交流
(AC)
給電の比較

発熱量が少ない 発熱量が少ない
直流給電システム

直流電源装置 サーバ・ルータ
商用電源

AC/DC DC/DC CPU

DC給電
変換回路が1段のみ バッテリー 故障時直接給電

AC DC

発熱量が多い 交流 AC給電 発熱量が多い サーバ・ルータ


交流給電システム

切替回路
整流部 INV部
商用電源
AC/DC DC/DC CPU
AC/DC DC/AC
故障時切替不可
変換回路が3段
バッテリー

AC DC AC DC

*資料:NTTファシリティーズ

42 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

ちた段階でアークも止まるが、直流の場合は電圧が一 タセンターの消費電力を最大50%削減することを目標
定であるために一度発生したアークが長時間持続して に掲げた
「CoolCenter50」
プロジェクトを開始している。
しまう可能性があるという。この現象を未然に防ぐた これについて同社は、データセンター内で使用される
めには、プラグ側で何らかの安全対策を施す必要が IT機器のほか、給配電設備や空調設備など、データ
ある。こうした周辺対策や安全基準の見直しなどを加 センターで使用されるほとんどの機器を自社グループ
味すると、
「効率化のためにすぐに導入できる対策とは 内で手がけているため、総合的に取り組める点が強み
言えないのではないか」
というのが筆者の正直な感想 だとしている。IT機器と設備側の両方にノウハウを持
だ。また、前述のとおり、データセンター全体に占め つ企業は世界的に見てもほとんど存在しないため、そ
るIT機器の電力消費量は30%程度と言われており、 の点でユニークな取り組みであることはまちがいない。
ここを直流給電化して効率改善を図っても、効果はさ  また、同社によれば、データセンター全体を考えた
ほど大きくないという指摘もある。 場合、グリーン化はそう簡単に実現できるものではな
 米国では、Yahoo!がIntelなどと共同で直流給電シ いという。例えば、建物について考えると、日本は世
ステムを開発し、各サーバの電源ユニットを直流電源 界有数の地震国であるため、耐震性への配慮が必要
に交換することで電力消費量の削減に成功したという となる。現在、主流となっている建物の構造は、揺れ
事例も紹介されており、コンポーネント単位で低消費 に耐えるのではなく、揺れを受け流して被害を避ける
電力化を推進する場合には改善が見込めるようだ。し 「免震」
である。免震構造を実現するためには建物を軽
かし、データセンター全体という視点で見た場合には、 くする必要がある。しかし、ブレード・サーバの利用拡
給配電設備や屋内配線の全面的な刷新・交換、安全 大などによってラックの重量は増加傾向にあり、より
対策の整備などが必要不可欠であり、既存設備との 高い強度が求められるようになってきている。
ギャップが大きくなる。そのため、一般的なデータセ  上記のように、データセンター内のあちこちで相反
ンターが足並みそろえて直流給電に向かう可能性は低 する要件がぶつかり合っているのが実情のようだ。IT
いと思われる。 業界のトレンドは米国主導で動く傾向が強く、グリー
 なお、直流給電に関してはもう1つ考慮すべき点が ンITもその例に漏れないが、建物までを含めて考える
ある。それは、アナログ電話のシステムはすべて直流 と、日本の地理的特性や建築基準、安全対策、保安
を前提に構築されているということだ。
IT機器ベンダー 基準といった国内の法規制への対応も考慮する必要
もテレコム業界向けとして直流モデルをラインアップし がある。そのため、国内で経験を積んだベンダーの担
ており、直流電源を扱うノウハウをそれなりに蓄積し うべき役割も大きなものがあると言えよう。
ている企業もある。地域の通信拠点として運用されて
いた電話局の設備がデータセンターに転用されるケー ■IBM
スがあることを考えると、直流電源の利用に関しては  米国IBMは、グリーンITを実現するための包括的
現実味があるとも言える。しかし、現状では直流電源 なプロジェクト
「Project Big Green」
を展開している。
に関する設備やノウハウが一般化しておらず、ノウハ 同社もまた、IT機器に限定されず、設備まで含めた
ウを持った企業とそうでない企業との差が大きいこと 包括的な取り組みが行える数少ない企業である。IBM
も問題だと言えるだろう。 の場合は自社のデータセンターで稼働している3,900
台のサーバを30台のメインフレームに統合することで
加速するベンダー各社の取り組み 電力消費量を80%削減する計画も明らかにしている。
■日立製作所 これが成功すれば、安価なIAサーバを多数分散する
 日立製作所では10年ほど前からデータセンター事業 ことでコスト削減を実現する
「スケールアウト・モデル」
に取り組んでおり、2007年秋には、今後5年間でデー から、再度大規模統合へ移行するパラダイム・チェン

March 2008 Computerworld 43


Part 2  グ リ ー ン・デ ー タ セ ン タ ー を 実 現 す る マ ル チ レ ベ ル 手 法

ジを引き起こす可能性も考えられそうだ。  また、IT機器の高密度実装による局所的な
「熱だま
り」
の発生が新たな問題として浮上してきた。省スペー

ラック・レベル ス型サーバやブレード・サーバなど、小さな設置スペー

──局所冷却がカギ スに多数のサーバを配置する技術が確立されたことで
サーバの実装密度が高まり、局所的に高温になるケー
 ここでは、データセンター・レベルの下層に当たる、 スが増えてきている。こうした状況に対応するために
ラック・レベルでの電力効率向上に向けた取り組みを 部屋全体の温度をさらに下げると、過剰冷却によるむ
解説する。 だはさらに拡大してしまう。また、
室温による管理では、
 サーバやストレージなどを収容するラックは、グリー こうした局所的な温度上昇を把握できず、結果として
ン・データセンターを実現する際に重要な役割を果た サーバの熱暴走などが発生する可能性もあるだろう。
す。ラック・レベルでのグリーン化への取り組みはほ

「冷却効率の向上」
に絞られ、IT機器の発熱をどう ベンダーごとに異なるラック単位の冷却手法
やって効率よく冷却するかという点が焦点となる。  サーバの高密度実装が進んだことにより、ラックご
 データセンター全体における冷却システムは、基本 との発熱量のバラツキが大きくなってきている。
一方で、
的にIT機器の前面から冷気を吸気して背面に熱気を 部屋単位で均一に冷却することのむだが指摘されてお
排気するというエア・フローになるよう配置・制御され り、冷却能力を最適化することでむだな過冷却を避け、
ている。そのため、ラック単位で見ても、ラックの前 電力消費量を削減しようという動きが活発化してきた。
面から冷気を吸気し、背面から熱気が出ることになる。 この両者が相まって、ラック単位で緻密に冷却する
「個
そこで、ラックを並べる場合に通路を挟んでラックの 別冷却」
の動きが顕著になってきている。
前面および背面どうしが向かい合うように配列すると、  最も単純な手法としては、ラックの前面に温度セン
通路ごとに冷気の通路
(コールド・アイル)
と熱気の通 サーを設置して吸気温を測定し、一定以上に温度が

(ホット・アイル)
を明確に分離することができる。 上昇したら警告するという手法が考えられる。これを
 ホット・アイルの温度が上がっても、コールド・アイ さらに発展させると、ホット・アイルとコールド・アイル
ルが十分低温に保たれていれば、実用上、機器の稼 の気流を分離して相互に混合しないようにしたうえで、
働には影響しない。そのため、ラック単位でデータセ ホット・アイルの熱気は速やかに室外に排出して冷却
ンターの冷却システムを考える場合、部屋全体の温度 器に送り、冷却器からの冷気はコールド・アイルだけ
ではなく、各ラックの吸気温度の管理をきちんと行っ に供給して効率よく機器を冷却するという、データセ
ていればよいことになる。 ンターのマシン・ルーム内における気流管理の精緻化
 ただし、こうした考え方が一般化してきたのはごく につながっていく。
最近のことだ。ラックの配置を工夫してホット・アイル  ラック単位で冷却を考える場合、実現手法はさまざ
とコールド・アイルを明確に分離することは一般的に まなバリエーションがあり、ベンダーごとに考え方の違
なってきたが、熱気と冷気の分離や熱分布を厳密に いが顕著に表われている。
管理する体制は、先進的な一部のデータセンターを除
き、まだまだ着手されていないのが現状だ。熱気と冷 ■APC
気の分離も厳密に行われてはいないため、両者が混  UPS製品で知られるAPCは、ラックなどのデータ
合した状態の室温を管理し、その室温を低く保つこと センター向け設備に関しても実績のあるベンダーであ
で機器の安定稼働を目指すデータセンターが依然とし り、独自の
「モジュラー・データセンター」
構想を推進し
て多数を占めている。この結果必要以上に冷却してし ている
(図2)
。そこで取り入れられた
「InRow Cooling」
まい、むだが生じていると言わざるをえない。 は、複数のラックからなるラック列を対象に冷却を最

44 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

適化する試みだ。基本的には3本程度のラックに対し クーリング・ソリューション」
では、ラックに多数の温度
て1台の冷却ユニットを配置するモジュラー型の冷却 センサーを設置することで、
ラック列およびマシン・ルー
システムとなる。例えば、ホット・アイルを挟んで向か ム内の温度分布を正確に把握することが可能になる
い合う2列12本のラックに対して、4台の冷却ユニット (46ページの図3)
。冷却システム自体は部屋単位での
が冷気を供給するようなイメージだ。 冷却を前提としているが、ラック単位で細かく温度セ
 冷却ユニットのエアフローは当然ながら通常のラッ ンサーを配置しており、部屋に配置された各空調機の
クとは逆になっており、ラック背面のホット・アイルか 運転量による室温変化に関して、きめ細かなデータが
ら熱気を吸気し、ラック前面のコールド・アイルに冷 得られるようになっている。そのため、サーバの稼働
気を送り出す。また、サーバ・ラックに空きスペースが 状況などに応じて空調機の運転レベルを緻密に制御
ある場合、ここが通気口となってしまいホット・アイル でき、それによって空調の最適化が実現できるという。
の熱気がラック前面に回り込んだり、コールド・アイル
の冷気が冷却に寄与することなくホット・アイルに通過 ■日本IBM
してしまったりすることがある。こうした事態を避ける  日本IBMは三洋電機と共同で
「Rear Door Heat
ために、ラックの空きスペースをふさぐふたなども用意 eXchanger」
の冷媒仕様を開発している。これは、ラッ
されており、気流管理にも配慮が行き届いていること クの背面パネルに熱交換機を内蔵したもので、米国で
がうかがえる。 は水冷方式の熱交換機を使用したモデルが提供され
 InRow方式のメリットは、ラックの発熱量に応じて ているが、水冷に拒否感が強い日本市場向けに通常
冷却ユニットの配置を変更することで、熱源近くで効 のエアコンと同じ冷媒を使用したモデルを新たに開発
率よく冷却することが可能になる点だ。ブレード・サー したものだ。
バなど発熱量の大きな機器に対しては、冷却ユニット  同製品はホット・アイルに排出する熱気を排出時点
を増やすことで対応できるようになる。 で冷却することが可能で、ホット・アイル、ひいてはサー
バ・ルーム全体の室温を抑制できる。このシステムで
■日本HP は吸気側の冷却は行わないため、部屋全体を対象と
 日本ヒューレット・パッカード
(HP)
の「HPスマート・ した冷却装置との併用が想定されているが、特に高

図2:モジュラー・データセンターの概念図
モジュール化されているため、段階的な機能拡張が可能

UPS、分電盤、
ラック、冷却装置、
ケーブル・マネジメントをモジュール化
*資料:APC

March 2008 Computerworld 45


Part 2  グ リ ー ン・デ ー タ セ ン タ ー を 実 現 す る マ ル チ レ ベ ル 手 法

温になるラックに対して設置することで室内の他の部 とで問題を回避していた。そして、これが電力消費量
分に影響が及ぶことを防ぐことができる。そのため、 のむだにつながっていたわけである。
全体の冷却能力を過度に強化することなく、高密度化  CFDは従来、航空機やF1マシンといった高価かつ
に対応できるというメリットがある。 高速な乗り物の空力設計や、気象解析などに利用さ
れていた高価なソリューションだった。しかし、コン
 このように、さまざまな手法が各ベンダーから提案 ピュータの演算性能の向上などにより、現在ではサー
されており、現在は選択肢が一挙に拡大した状況と バ・ルームの温度分布を把握し、空調設計を行うため
言える。こうした背景には、サーバ・ルームの温度管 にCFDを活用することもできるようになってきた。そ
理にCFD
(Computational Fluid Dynamics:数値流 の結果、ラック単位で緻密な温度制御を実現できる
体力学)
が応用されだしたことが関係している。 ようになったというわけだ。HPやIBMがCFDに基づ
 空気の流れは可視化にしくいうえ、渦を巻いて反転 いたデータセンター向けのコンサルティング・サービス
するなど複雑な運動を起こす。そのため、空調の効果 を提供しているほか、国内ベンダーの日立もCFDに基
を直感的に把握することは非常に困難である。一般家 づいたサービスを提供している。
庭でエアコンを使って冷房する場合でも、部屋全体を
均一な温度にすることは難しく、場所によってバラツ ユニット・レベル
キが出るのは日常的に体験していることだ。 ──設計に工夫し省電力化
 データセンターでは、ずらっと並んだラックの発熱
量がそれぞれ異なるうえ、サーバの負荷状況も刻々と  より細かな単位としては、IT機器レベルでグリーン
変動していく。それにより発熱量も変化し、この状況 ITへの取り組みも行われている。
を正確に把握することも、その状況に合わせて最適な  省電力サーバというとプロセッサでの省電力化が
冷却能力を予測することも困難となる。とはいえ、サー まず思い浮かぶが、事実、サーバの消費電力に占め
バが安定稼働できる環境を用意する必要があるデータ るプロセッサの割合は30%程度に及ぶ。残り70%の
センターでは、結果的に過剰な冷却能力を用意するこ 電力は電源やメモリ、マザーボード、内部冷却ファン

図3:ラックに設置した温度センサーで緻密な空調管理を実現

吹き出し速度コントローラ センサー用ネットワーク

CRACユニット

冷却水供給ループ

システム管理コントローラ
センサー・ネットワーク/データ保管 ラック内温度センサー
システム・ステータス管理
サーマル・システム・コントロール
*資料:日本ヒューレット・パッカード

46 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

やHDD、
そして電源ユニットによって消費されている。 という問題もあったのだが、Intelは45nmプロセスで
現在主流となっているIAサーバの場合、プロセッサ High-K材料
(ハフニウム)
やメタルゲート・プロセスを
はIntelまたはAMD製がほとんどであり、この点では 採用し、大幅なリーク電流の軽減を実現している。
どのベンダーのサーバも大差はない。しかし、電源  また、サーバの負荷が低い場合にはクロック周波数
ユニットやマザーボードの設計では、省電力に配慮 を落としたり、プロセッサ内部を機能ごとにいくつか
した設計を行っているかどうかで意外に差が出ると 分割し、使用されていない機能を担っている部分の電
いう。 源を切ってしまうことでむだな電力消費を避けると
 電源ユニットを改良して変換効率を高めたり、マ いった手法も実装されるようになってきた。
つまり、
サー
ザーボードの設計を工夫してむだな電力損失を避ける バの演算処理に必要な分だけの電力消費量に抑える
よう配線長を最適化したりといった工夫は、地味では という方向では着実に効率化は進んでいる。ただし、
あるがサーバの実消費電力に少なからぬ影響を与えて このことがIT機器の買い替えに直結するとは言えず、
いる。一方、カタログに明記されるサーバの消費電力 ユーザーとしても
「買い替えの際には考慮する」
という
量はいわば最大値であって、実運用状況ではそれよ 程度になるだろう。
りも少なくなることが大半だ。そのため、運用状況に
即した電力消費量を明示しようという動きもあり、ユー ソフトウェアの活用も
ザーが消費電力を意識した機種選定を行いやすくな 有効な手段に
ることも今後は考えられる。
 基本的な考え方としては、今後市場に投入される  最後に、グリーン・データセンターの実現におけるソ
ほとんどのIT機器はグリーン化を意識した設計がなさ フトウェアの寄与についても簡単に触れておこう。
れる可能性が高く、その意味では最新機種に入れ替  サーバ・ルーム内での空調制御の緻密化にCFDが
えれば処理能力の向上と省電力化を同時に実現でき 大きな役割を果たしているのは前述したとおりだが、
る。とはいえ、
まだ使えるサーバを入れ替えるとなると、 それ以外にもさまざまなソフトウェアがグリーン化に
コスト面でメリットがあるかどうかは疑問符がつく。
ユー 寄与している。例えば、運用管理ツールの高機能化
ザーの基本的な対応としては、機種入れ替えの際に によって負荷の適切な分散や運用管理の自動化が実
消費電力についてこれまで以上に真剣にチェックす 現し、
サーバの稼働状況が最適化される。これも、
サー
る、という辺りに落ち着きそうだ。 バをむだに稼働させておく必要がなくなるという意味
でグリーン化にプラスの影響を与える。また、最近注

コンポーネント・レベル 目が集まるサーバ仮想化も、稼働率の低い多数の

──プロセッサの進化 サーバを統合することでむだな電力消費の削減に貢
献する。
 さらに個々の部品単位でも省電力化は進んでいる。  電力消費量を低減するためにデータセンターの運用
特に顕著なのはプロセッサだが、前述のとおりこの部 を停止することはありえない。したがって、最小限の
分は、
実は全体に占める割合は意外に低い。とはいえ、 電力消費量で運用することが、現時点におけるグリー
この点を意識して機種選定を行うことには十分意味が ン・データセンターの目標だと言える。こうしたギリギ
ある。 リの最適化を実現するためには、人手によるあいまい
 最新プロセッサでは45nmプロセスへの移行が間近 な運用管理を最終的には排除せざるをえない。電力
に迫っており、プロセスの微細化が進むごとに消費電 消費の効率化というとハードウェアや設備面にばかり
力は低減される傾向にある。一方、微細化によって配 関心が向きがちだが、ソフトウェアが果たす役割も非
線密度が高まったこともあり、リーク電流が増大する 常に大きいことを意識しておく必要があるだろう。

March 2008 Computerworld 47


Part

3
“ストレージのスリム化”
のための技術と運用管理手法

「グリーン・ストレージ」

取り組む
ストレージ・システムはサーバ・システムと同様、データセンターの
“主役”
である。よって、グリーンITの推進にあたっ
ては、ストレージの消費電力や廃熱、スペースの問題への取り組みが不可欠となってくる。本パートでは、ストレー
ジの省エネ/省スペース化
(=“ストレージのスリム化”
)に有効な技術を取り上げて解説していく。また、ストレージの
スリム化を進めるうえで欠かせない、効果的な運用管理のアプローチもあわせて紹介する。

Mary K. Pratt
Computerworld米国版

「ストレージのスリム化」
は 量のうち、40%をサーバが占め、次いでストレージが

ユーザー企業の必須課題 37%を占めているという。さらに、SANデバイスを含
むストレージ関連製品の消費電力が現在1kW以上に
 グリーンITに取り組むにあたって、企業のIT/IS 達している点も考慮すると、
“ストレージのスリム化”

部門は、サーバ・システムと同様、データセンターの すなわちストレージのエネルギー利用効率の改善と設
重要な構成要素であるストレージ・システムの運用管 置スペースの最適化は、データセンター全体の消費
理についても十分な検討と実践が必要となる。 電力
(および電力コスト)
を削減するために、もはや避
 ほとんどのITマネジャーは、サーバの電力消費量 けて通ることはできないことがわかるだろう。
については重要性を十分認識している。しかし、彼ら  以下では、ストレージのスリム化を追求し、
「グリー
が見落としがちなのが、ストレージの電力消費量であ ン・ストレージ」
を実現するのに有効と思われるスト
る。今や爆発的な勢いでデジタル・データは増え続け レージ技術を紹介していく。
ており、それを保存するためのストレージの台数も企
業内で増加の一途をたどっている。 ストレージのスリム化技術①
 米国の調査会社Forrester Researchのアナリスト、 ソリッドステート・ディスク
アンドリュー・レイクマン
(Andrew Reichman)
氏は以
下のように指摘する。  高性能と省電力を両立するストレージ技術として、
 
「確かに、ハードディスクの容量当たり単価は非常 フラッシュメモリなどの不揮発性メモリを活用したソ
に安くなった。だが、それをはるかに上回る勢いで企 リッドステート・ディスク
(SSD)
が脚光を浴びつつある。
業が管理すべきデータは増大し続けている。
その結果、 現在、SSDを採用した製品がAdtron、Samsung
企業がストレージの導入や運用管理に要するコスト Electronics、SanDiskといったベンダーから提供さ
は、以前にも増して膨れ上がっているのだ」 れている
(写真1)

 また、
米国の調査会社Gartnerの調査結果によると、  これまでのSSDに対する評価は、従来型のハード
データセンター内に設置された全IT機器の電力消費 ディスク・ドライブ
(HDD)
に比べて、高性能ではある

48 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

ものの価格が高いというネックを抱えているというも 写真1:Samsungは2007年10月に、64ギガビットのNAND型フラッ
シュメモリを発表している
のだった。
「そのため、
SSDのユーザー層も防衛、宇宙・
航空、またはビジネス・エンジニアリングなど特定の
分野に属する組織・研究機関に限定されていた」
と、
Gartnerのアナリスト、ジョセフ・アンズワース
(Joseph
Unsworth)
氏は言う。
 しかし、近年、SSDの低価格化が急速に進んでお
り、
同じくGartnerのアナリスト、
デイブ・ラッセル
(Dave
Russell)
氏によれば、2006年におけるSSDのビット
単価は、前年対比で66%も低下しており、2007年も
同60%の低下が見込まれているという。
 加えて、省電力性にも注目が集まり始めている。
SSDの場合、HDDよりも動作部分が少ないため、消 ストレージのスリム化技術②
費電力が小さくなるというメリットがある。ただし、こ 高密度ディスク
の省電力性が全面的にアピールして、今後、SSDが
企業のデータセンターのようなエンタープライズ領域 垂直ストレージ
において一気に普及が進んでいくといった可能性は低  高密度ディスク技術として注目を集めている技術
いようだ。その理由を、米国の調査会社Enterprise の1つに、垂直
(Perpendicular)
ストレージがある。
Management Associatesのアナリスト、マイク・カー  従来型のHDDは、記録メディア
(ディスク盤)
の記

(Mike Karp)
氏は以下のように説明する。 録面に対して、水平方向で磁気ビットを配置し、情
 
「確かに、データセンターに設置されているすべて 報を記録していく。これに対して、垂直ストレージは、
のディスク・ストレージをSSDに切り替えれば、エネ 磁気ビットをディスク面に対して垂直方向で配置する
ルギー・コストをある程度まで削減できるだろう。だが、 (50ページの図1)
。この垂直記録方式を採用すること
そのようなことを現時点で行えば、ストレージ・ハード により、ディスクの1平方インチ当たり容量が飛躍的
ウェアの導入コストがかさんで、かえってコスト高に に大きくなるのだ。この技術を用いた製品はすでに、
なってしまう。要するに、SSDの容量単価がディスク Seagate TechnologyやHitachi Global Storage
並みに下がらないかぎり、その省電力性は、サーバ・ Technologies
(HGST)
などから提供されている。
システムのTCO削減という観点から見て、それほど  垂直ストレージの有効性について、米国の調査会
魅力的なメリットではないというわけだ」 社Enterprise Storage Groupのアナリストであるブ
 もっとも、SSDの省電力性は、ノートPCの領域で ライアン L.ギャレット
(Brian L. Garrett)
氏は、以
は十分魅力的であるようだ。GartnerのUnsworth氏 下のような見解を示す。
は以下のような見解を示す。  
「垂直ストレージは、空間
(ストレージ・システムの設
 
「ノートPCの内蔵ディスクを、HDDからNANDフ 置スペース)
と価格の両面でユーザーに大きなメリッ
ラッシュ技術を用いたSSDに切り替えるだけでディス トをもたらす技術だ。その将来性は高いと思う」
クの消費電力を5〜10%カットできる。しかも、SSD  また、米国のコンサルティング会社The Clipper
はHDDよりも省スペースで高性能だ。これらの点を Groupのコンサルタント、
ダイアン・マックアダム
(Dianne
加味すれば、SSDは、ノートPC、とりわけ携帯性と McAdam)
氏も垂直ストレージのポテンシャルを評価
省スペース性を徹底的に追求したノートPCにはうっ している1人だ。
てつけのストレージと言えるだろう」  
「垂直ストレージによって、同じ物理空間における

March 2008 Computerworld 49


Part 3  「 グ リ ー ン ・ス ト レ ー ジ 」に 取 り 組 む

図1:垂直ストレージのメカニズム グラフィック・メモリは、2つの光レーザーを用い、光
水平磁気記録方式 ディスクのすべての層に対して立体的に
(3次元で)

従来のハードディスク・ドライブでは、
磁気ビットがディスク盤の記録面
(ディスク面)
に対して、

平方向で書き込まれていた 報を記録していくメカニズムになっている
(図2)

 
「とても斬新で画期的な技術だ」
と、Enterprise
書き込みエレメント
“Ring”
Management AssociatesのKarp氏は期待をかける。
ただし、そう言う同氏もこの技術の現時点における
“実
用性”
には懐疑的である。
記録レイヤ  
「ホログラフィック・ストレージはよく
“サイエンス・
フィクション
(SF)
的な技術”
と揶揄されるが、実際、
そう言われても仕方がない側面がある。というのも、
垂直磁気記録方式
垂直ストレージは、磁気ビットを
(ディスク面に対して)垂直方向で記録する
(もしくは、
配置す この技術はまだ発展途上段階にあるからだ。少なくと
る)
ことで、より高密度のデータ保存を可能にする
も、このストレージ技術が企業の中で広く用いられる
書き込みエレメント
“Monopole” ようになるのは、かなり先の話だ」
(Karp氏)
 わずかではあるが、ホログラフィック・ストレージは
すでに製品化がなされている。その1製品に、In
記録レイヤ
Phase Technologiesの
「tapestry 300r」
(写真2)

付加レイヤ ある。WORM
(Write Once Read Many)
記録方式を
採用した容量300GB対応のホログラフィック・ストレー
ジ・ドライブの価格は1万8,000ドルで、同ドライブ用
データの記録能力を従来のHDDの10倍以上に高め の直径130mm/厚さ1.5mmのホログラフィック記録
られる。データ保存/読み出しにかかるエネルギー/ メディアの価格は1枚180ドルとなっている。
電力消費量も大幅にセーブされ、ユーザーは多大な
メリットを得ることができる」
(McAdam氏) ストレージのスリム化技術③
HHD(Hybrid Hard Drive)
ホログラフィック・ストレージ
 高密度ディスク技術としては、ホログラフィック・メ  
「HHD
(Hybrid Hard Drive)
」とは、従 来 型の
モリを採用したストレージも注目を集めている。ホロ HDDに、不揮発性のフラッシュメモリを内蔵させたス

図2:ホログラフィック・ストレージのメカニズム

ホログラフィック・ストレージでは、光技術に
よって100万ビットのデータを1回の光フラッ
データの記録 データの読み出し 検出器アレイ
シュで読み書きすることが可能であり、何千も 記録媒体
のホログラムが、記録メディア(光ディスク)の
あらゆる層に(平面的には同じ位置に)記録さ リファレンス・ビーム リファレンス・ビーム
れる

ホログラフィック・ストレージにおける記 録
フェーズでは、2つの光ビームの交差によって ホログラム
明暗領域の干渉パターン (すなわち、ホログラ 記録データ・ページ
ム)が作り出される。そして、
そのパターンが感 干渉パターン
光性を持った記録メディアに記録される。 また、
データの読み出しが行われる際には、 ホログラ
空間光変調器
ムに対してレーザー照射され、 それによって生 (Spatial Light Modulator:SLM)
まれた光線から、データのパターンが再構成さ
れる仕組みになっている シグナル・ビーム

50 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

トレージを指す。現在、Seagate TechnologyやSam 写真2:InPhase Technologiesのホログラフィック・ストレージ・ドライブ


「tapestry 300r」
とホログラフィック記録メディア
sungといったベンダーがこの種の製品を出荷している
(写真3)

 HHDの仕組みはきわめてシンプルだ。それは、不
揮発性のフラッシュメモリを、データ保存・読み出し
を効率化するキャッシュ(バッファ)
として用いるとい
うものである。このコンセプトは決して新しいものでは
なく、周知のように今日、市場に出荷されている多く
のHDDがバッファ・メモリを装備している。
 ただし、それらのバッファ・メモリの容量はたいて
いの場合、4〜8MB程度だ。それに対して、HHDの
場合、1GBレベルのバッファ・メモリ
(不揮発性フラッ
写真3:Seagate TechnologyのノートPC向けHHD
「Momentus 5400 PSD」
シュメモリ)
を搭載している製品も少なくない。
 こうした大容量のバッファ・メモリにより、HHDでは、
データの読み書き時におけるディスクの回転数を、従
来型のHDDに比べて大幅に抑えることが可能であり、
結果として、
動作時の消費電力や発熱量も低減できる。
 
「これらのメリットから、近い将来、HHDがノート
PCやデスクトップPC、ひいてはエンタープライズ・ス
トレージの領域で広く使われるようになるだろう」
と、
The Clipper GroupのMcAdam氏は予測している。
 
「HHDのよさは、製品のコンセプトが明快である点
だ。ユーザーからも投資対効果が見えやすく、
ユーザー
の支持も集めやすい。その意味でかなり有望な製品
だと評価できる」
(McAdam氏) Transaction Processing)
アプリケーションなどでは、
MAIDストレージの活用が事実上不可能となる。
ストレージのスリム化技術④
MAID ストレージのスリム化技術⑤
省電力・省スペース設計
 
「MAID
(Massive Array of Idle Disks)
」は、
ストレー
ジの消費電力削減を可能にする技術で、COPAN  省電力・省スペースへの取り組みは、特にサーバ・
Systemsなどからこの技術を採用した製品が出荷さ ハードウェア製品で顕著だが、ストレージ専業ベン
れている
(52ページの写真4)
。 ダーも負けていない。例えば、複数のSAN
(Storage
 その仕組みは、データの読み書き要求があったと Area Networks)
ないしはNAS
(Network Attached
きのみ、
ドライブ内のディスクが回転するというもので、 Storage)
のフロントエンドとして機能するBlueArcの
通常のRAIDストレージよりも稼働に必要とされる電 ファイル・サーバ
「Titan」
シリーズは、ストレージ・シ
力が抑えられる。ただし、停止状態にあるディスクを ステム全体の電力消費量や発熱量を低減することを
回転させるまでの
“余分な時間”
が発生するため、例え セールスポイントとしている
(52ページの写真5)

ば、ディスク・アクセスを頻繁に行うOLTP
(On-Line  また、agami SystemsのNAS
「AIS
(agami Infor

March 2008 Computerworld 51


Part 3  「 グ リ ー ン ・ス ト レ ー ジ 」に 取 り 組 む

写真4:COPAN SystemsのMAIDストレージ・システム
「Revolution な利用率は40〜50%と言われている。逆に言えば、
220A」
と管理ソフトウェア
企業内のストレージの半分以上が遊休状態にあるとい
うことになる
(むろん、ストレージの安定稼働を維持す
るうえでは、リソースにある程度の余裕を持たせてお
くことが必須であるが)

 
「ともかく、ストレージの半分以上を遊ばせておくの
は、明らかにむだである」
と、GartnerのRussell氏は
指摘し、こう語る。
「少なくともリソースの利用率を
80%程度に高めれば、ストレージにかかる光熱費や設
置スペースを大幅に節約することが可能だ」
 この目的を達成するために必要な技術として挙げら
れるのが、SRM
(ストレージ・リソース管理)
だ。これは、
企業に設置された多様なストレージを仮想的にまとめ
上げ、単一のストレージ・プールとして集中的に管理
することを可能にするソフトウェア技術である。
 ForresterのReichman氏によると、企業にとって、

写真5:BlueArcのファイル・サーバ
「Titan」
シリーズ その導入効果はきわめて高いという。
「例えば、SRM
ソフトを使って、ストレージ・リソースの使用効率を
10%上げ、既存のストレージ・キャパシティを10TB
増やしたとしよう。今日、ハイエンド・ストレージ製品
のTB単価は7万ドルなので、それだけで70万ドル分
のコスト削減が実現される勘定になる」
(Reichman氏)
 また、最近のSRMソフトは、ストレージの設定やキャ
パシティ・プランニング、性能管理など広範な機能を
提供しており、
「ストレージを巡るあらゆる課題を解決
しうる能力を備え始めた」
と、Enterprise Strategy
Groupのアナリスト、ボブ・ラリベルテ
(Bob Laliberte)
氏は評価する。
mation Server)
」シリーズは省電力・省スペースの追  ちなみに同氏によれば、現在のストレージ管理にお
求をうたっており、同社によると、64ビットCPUを搭 いて特に重要性を増しているのが、キャパシティ・プ
載したモデルの消費電力は一般的なNAS製品の2分 ランニングの機能であるという。
「今日の企業システム
の1であり、設置スペースについても、同等の性能の は複雑な構造をなしており、どのシステムにどの程度
NASに比べ8分の1で済むとアピールしている。 のストレージ・リソースを割り当てておけばよいのか、
あるいは、全体としてどの程度のキャパシティ拡大が
ストレージのスリム化技術⑥ 必要なのかが把握しづらくなっている。その辺りの作

ストレージ・ソフトウェア 業を効率化してくれるのが、SRMソフトに備わるキャ
パシティ・プランニング機能だ」
(Laliberte氏)
SRM
(ストレージ・リソース管理)  この機能をうまく活用すれば、社内システムのスト
 今日の企業におけるストレージ・リソースの平均的 レージ・キャパシティのプランをきちんと立て、それに

52 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

沿って既存リソースの適切な配分を決めることが可能 努力も惜しんではならない。例えば、データを圧縮し
になる。その結果、ストレージ・リソースに対するむだ たり、同一データのコピーをいくつも作らないように
な投資も排除できるようになり、ストレージ・コスト全 心がけたり
(データ・デデュープ:データ重複除外)
体の削減につながるというわけだ。 といったことだ。これらの積み重ねで、ストレージ・リ
 現在、EMCやSymantec、Hewlett-Packard
(HP) ソースの消費量をかなり抑制することが可能だ。
などのベンダーがSRMソフトウェアを製品化している。  データ・デデュープは、最初のバックアップ・デー
タに対し、変更を加えたデータの中で共通している領
シン・プロビジョニング 域を除外することを可能にするバックアップ技術だ。
 各種アプリケーションからの要求に応じて、ストレー 共通しているデータ領域と共通していないデータ領域
ジ・リソースを動的かつ適切に割り振るシン・プロビ との関連性を管理することで、実際に保存するデータ
ジョニングも、ストレージ・リソースの消費量を抑える 量を減らすことができる、という発想だ
(図4)

うえでは非常に有効となる。システム管理者はこの技  現在、Data DomainやExaGrid Systems、Asi
術を用いることで、
「アプリケーションに対して、どの gra、そしてAvamar Technologiesを買収したEMC
程度のストレージ・リソースを割り当てるか」
といった といったベンダーが、この分野のソフトウェアを提供
キャパシティ・プランニングの手間も大幅に軽減する している。
ことができる。
*  *  *
 現在、
3PARdataをはじめとするいくつかのベンダー
が、シン・プロビジョニング機能を備えたストレージ管  以上、グリーン・ストレージを実現していくうえで有
理ソフトウェアを提供している。 効な6つの技術分野を紹介してきた。ただし、技術の
採用だけではこの課題に対する取り組みとしては不
データ圧縮/データ・デデュープ 十分であり、
次のページのSide Storyに示す、
ユーザー
 ストレージにかかるコストを削減したければ、スト 企業のIT/IS部門がとるべき運用管理面でのアプロー
レージ・リソースの消費量を抑えるための細々とした チもあわせて試みていただきたい。

図4:データ・デデュープのメカニズム

デデュープを行わない保存 デデュープを行う保存
最初の 最初の
バックアップ バックアップ
A A A A
B B
ファイル B ファイル B
C C
C C

共通
変更(C→D;AとBは不変) 変更
(C→D;AとBは不変)
データ

バックアップ・ バックアップ・
サーバ 変更点のみ保存 サーバ
(AとBを共通データとして除外)

A A

ファイル B D ファイル B
B 次の
D
D A D バックアップ
次の
バックアップ

March 2008 Computerworld 53


Part 3  「 グ リ ー ン ・ス ト レ ー ジ 」に 取 り 組 む

St o ry
Si d e

ストレージの電力効率を改善する
「7つの実践」
グリーンITという大きなテーマが叫ばれる中、ストレージ・ベンダー各社はこぞって、
「当社の技術や製品によって、ストレージの電力
消費や冷却にかかるコストを大きく削減することができる」
とアピールしている。ただし、ベンダーの提供する技術を採用するだけでは、
そうしたコストを大幅に減らすことはできない。以下、ストレージのスリム化に有効な運用管理のアプローチを7つ紹介しよう。

Dan Crain Robert L. Scheier


Network World米国版 Computerworld米国版

「単体で見るのではなく、全体で見よ」 ストレージ構成を最適化するサービスを提供しているとこ
 ストレージのエネルギー利用効率を改善する運用管理 ろもある。EMCはその1社 で、
「Energ y Ef ficiency
の手法にはどのようなものがあるのか。それを紹介する前 Service」
というサービス・プログラムを提供している。こ
に、まずはエネルギーの利用効率についての基本的な考 れは、ストレージに対する想定負荷を勘案しながら、同社
え方をおさえていただきたい。自動車と燃料の関係を例 製ストレージの特定のコンフィギュレーションで、どの程
にとって説明しよう。 度の電力が消費されるかを見積もるものだ。EMCによる
 電気自動車/ハイブリッド自動車/コンパクト自動車 と、このサービスを利用することでIT/IS部門は、電力消
が、大型自動車や輸送車よりも燃料効率が高いことは明 費量を考慮に入れながらILM環境のストレージ構成を最
らかである。しかしながら、例えば1度に大勢の人間を運 適化していくことが可能になるという。
ぶことができるバスの場合、乗客1人当たりの消費燃料は
少なくて済む。つまり、
「単体で見るのではなく、全体で ②システム統合時の機器配置に留意する
見よ」
というわけだ。この考え方は、現在のデータセンター  仮想化は、サーバやストレージの物理的リソースを論
においても、複数のデバイスを大きな共有型リソースに 理的なプール
(集合体)
に集約することでリソース利用率
統合するという手法で実践されている。 を高める技術である。この技術を用いて社内に分散した
 これはSAN環境にも当てはまり、個別に構築された サーバやストレージを統合すれば、ハードウェアの台数と
SAN環境を1つの大きな共有リソースとして統合すること 運用管理の手間を全社的に削減することが可能になる、
で、各SAN環境の配下にある個々のストレージの利用効 というのはよく知られているシナリオだ。
率を改善することが可能になる。そして、ストレージの利  ここで、分散したリソースをシステム的に統合するとい
用効率が改善されれば、運用コストの削減やむだな電力 うことは、物理デバイスそれぞれの処理能力を中央に集
消費の抑制につながる。このことは、データセンターにお 中化させることを意味する。したがって、システム統合を
ける電力消費量という観点からも非常に重要なポイントと 行う際、リソースの集約先とする機器には、相応の処理
なるのだ。 能力が求められ、しかも物理的に集中して配置する必要
が生じることになる。
①ILMを徹底する  システム統合を行う際は、ブレードに代表される高密
 情報ライフサイクル管理
(ILM)
というデータ管理方法論 度型フォームファクターの機器を用いて、サーバやスト
については、今やほとんどのITマネジャーが頭に入れて レージのリソースを密集させる手法が一般的に採用され
いることと思う。この方法論を採用することで、高価で電 ている。だが、リソースを密集させると、当然のことなが
力消費量も多いハイエンド・ストレージにほとんどアクセ ら発熱量が膨れ上がり、その冷却のために多大な電力を
スされなくなったデータを格納し続けるという
“リソースの 消費することになる。もちろん、密集した機器を動作させ
むだづかい”
を排除することが可能になる。 るだけでもかなりの電力が必要とされる。その結果、設置
 また、今ではILM環境の構築や運用管理を効率化する したラックに十分なリソースを集約させる以前に、データ
ためのソフトウェアやサービスが数多く用意されている。 センターの電力キャパシティが限界に達してしまうおそれ
ベンダーの中には、電力消費という観点からILM環境の すらある。ITマネジャーにとって、その辺りに対する十分

54 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

な配慮は欠かすことができないものだ。 なる冷却を必要とする機器は、電力消費量だけでなく、
予算にも著しく影響を及ぼす。例えば、上り坂を走り続
③SAN環境の統合を図る けるバスのように、空調システムを酷使し続けると電力消
 サーバやストレージ環境の統合を実践している企業は 費量および運用コストは上昇する一方だ。つまり、機器
多いが、SAN環境の統合・最適化にまで気を配ることで、 レベルだけでなく、物理インフラ全体の電力利用効率を
さらなる省電力化が可能になることはあまり知られていな 高めて空調システムの運用コストを抑制しなければならな
い。実際、電力会社との契約電力量を限界まで利用、あ い。データセンター内のホット・アイル/コールド・アイ
るいはその近くまで利用しているデータセンターにとって ルへの設置を考慮して設計されたストレージならば、物理
は、このアプローチは必要不可欠な措置と言ってよい。 インフラ全体における電力利用効率の向上に貢献するだ
 バスは一般的な自動車よりも多くの燃料を消費するが、 ろう。逆にホット・アイル/コールド・アイルを考慮しな
1人当たりの乗客にかかる消費燃料は自動車よりも低い。 いで設計されたストレージは、空調システムをむだに稼働
この考え方に基づき、SAN環境の統合をこれから行うな させることにつながりかねない。
らば、コスト効果の高い、スケーラブルなSANダイレク  現在、市場には機器やラックなどの温度を検知し、必

(電源などを2重化して可用性を高めたファイバ・チャネ 要に応じて効率的な冷却を行うシステムが多く登場して
ル・スイッチ)
の導入を検討するとよいだろう。これに対し、 いる。その1つがHPの
「ダイナミック・スマート・クーリング」
SANスイッチを個別に追加していく方法は、設定によっ で、同社はこのシステムの導入によって、データセンター
てはかえって電力消費量が増加する可能性がある。 全体の電力消費量を25%〜40%セーブできるとしている。
 また、電源も重要で、現在、複数のサーバ/ストレー
④省電力化が図られた最新の機器を利用する ジへの電力供給を最適化する集中型DC電源システムに
 ハイブリッド自動車は、ガソリンやディーゼルのような 注目が集まっている。この種のシステムはまだ発展途上
従来の燃料で走る自動車よりもクリーンである。ストレー 段階にあるが、実用レベルに達した製品が多く提供され
ジにおいても、省電力が考慮された最新の製品を導入し るようになれば、データセンターのグリーン化に大きく寄
て消費電力とコストを抑えることが望ましい。 与することになると予想される。

⑤休眠中のストレージの電源はオフにする ⑦Green Gridの参加ベンダーにコンタクトする


 使われていないストレージの電源は必ずオフにすること  The Green Gridは、データセンターおよびビジネス・
が重要だ。上に示したバスの例に当てはめて考えてみると、 コンピューティングにおけるエネルギーの利用効率向上を
使われていないストレージの電源をオンにしておくことは、 目的に発足した業界団体だ。世界を代表するITベンダー
車庫に入っているバスのエンジンをアイドリングさせてい が軒並み参加しており、標準規格/測定法/プロセス/
るようなもので、エネルギーの効率的な利用に結びつか 技術開発を通して、データセンターの総エネルギー消費
ない。 量の削減を目指している。Green Gridの参加ベンダーに
 しかし、幸運にも現在の新型ストレージ製品の中には、 コンタクトし、支援を得ることができれば、ストレージの
休眠中のハードディスク・ドライブのスピンドル回転を止 みならず、データセンター全体の省電力化をより効果的
め、消費電力を低減するMAID技術を搭載しているもの に推進することができるだろう。
がある
(51ページの
「ストレージのスリム化技術④」
を参
照)
。  これらの運用管理アプローチの実践で、個々のビジネ
ス条件に見合った省電力化をストレージおよびデータセ
⑥データセンター全体の冷却効率を考慮する ンター全体に施すことができるはずだ。データセンターの
 ストレージ機器レベルでの省電力・省スペース化はもち グリーン化は、単に電力消費量の低減や企業の基本方針
ろん重要だが、突き詰めれば、データセンター設備
(ファ に従うだけの取り組みではない。賢明な経営戦略であり、
シリティ)
全体での取り組みが必要になってくる。 これからは競合他社との競争優位性に結実していくこと
 放熱量の多い機器、あるいは可用性確保のためにさら だろう。

March 2008 Computerworld 55


Part

4
FAQと米国企業の先進事例に学ぶ

着手する前に知っておきたい
グリーンITの基礎知識
データセンターにおけるエネルギー効率化は、半導体レベルだけや施設面だけといった部分的な対策では実現できな
い。総合的な対策の中から、自社にとって最適なものを見極め、選択していくことが重要である。本パートでは、米
国の先進企業が自社のデータセンター運用の中から得たデータセンター省エネ化のベスト・プラクティスを紹介しな
がら、グリーンITの基礎知識をFAQ形式で整理してみたい。

Robert Mitchell/Robert L. Mitchell


Computerworld米国版

グリーンIT計画策定に役立つ 定に役立つ4つのFAQを紹介しよう。

4つのFAQ
なぜデータセンターを
 環境に配慮したグリーンIT
(グリーン・コンピュー
Q 「グリーン化」する必要があるのか?
ティング)
が大きな注目を集めている。だが、現在提 電力不足や熱問題、設置スペースに悩まされ
唱されているすべてのアイデアがデータセンターで実
A ているデータセンター・マネジャーであれば、
践可能なわけではない。ITサービス・プロバイダーの データセンターのグリーン化を推し進める動機をすで
米国Terremark Worldwideで施設計画担当シニア・ に持っているだろうが、
それ以外の多くのITマネジャー
バイスプレジデントを務めるベン・スチュワート
(Ben は、信頼性とパフォーマンスを最優先し、また電気料
Stewart)
氏は、
「グリーンITで言われていることの9割 金の請求書を目にする機会もないため、グリーン化に
はハイプ
(誇大宣伝)
だ」とし、太陽エネルギーや風力 関心を持っていない、と米国ニューヨークのデータセ
などを利用したグリーンITに懐疑的な姿勢を示して ンター設計会社EYP Mission Critical Facilitiesの
いる。だが、残りの1割は企業と環境の双方にとって CEO、ピーター・グロス
(Peter Gross)
氏は指摘する。
メリットのあるものであり、うまくすれば、エネルギー とはいえ、今後電力消費量が増え続けていけば、そう
効率の向上、温室効果ガス排出量の低減、そしてコ した状況も変わっていくはずだ。
ストの削減を実現できるという。  Gross氏は、
「現在、データセンターの電力コストは、
 米国IBMのGlobal Technology Services部門担 3年分ほどで大抵のサーバの調達コストを上回る。こ
当バイスプレジデント、スティーブ・サムズ
(Steve れは、データセンターの運用コストでは人件費に次ぐ
Sams)
氏によれば、グリーンITのための施策を評価 規模であり、これほど莫大なコストに目をつぶること
する方法は1つだけあるという。それは、投資に対し はできないはずだ。わたしの知るCIO
(最高情報責任
て最大のリターンが得られるのはどの手段かを考える 者)
や施設管理者、CEOは皆、データセンターのエネ
ことだ。そこでカギとなるのは、どこから着手すべき ルギー効率に懸念を抱いている」
と力説する。
かを理解することである。以下、グリーンIT計画の策  
「当社のCEOは、消費電力を抑えるよう盛んに呼

56 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

びかけている」
と語るのは、米国テキサス州サンアント 表1:電力使用量の削減効果
データセンターの要件
ニオに本拠を置くホスティング・サービス・プロバイ
面積 2万5,000平方フィート
ダー、RackspaceでCTO
(最高技術責任者)
を務める 1平方フィート当たりの使用ワット数 100
総電力使用量 2,500kWh
ジョン・エンゲイツ
(John Engates)
氏である。同氏に
エネルギー要件
よると、同社のデータセンターにおける電力消費量の
発電に必要な石炭の量 600万ポンド (約2720トン)
半分はIT処理のために使われ、残りの半分は電源装 年間電力使用量 2,190万kWh
電力コスト キロワット当たり12セント
置や冷却、照明などのインフラのために使用されてい 年間電力コスト 268万ドル

るという。
「電力消費量を抑えることができれば、その 電力使用量を50%削減した場合
年間電力コスト 134万ドル
分電力コストを減らすことができる。これも立派なビ 年間電力使用量 1,095万kWh
ジネスだ」
とEngates氏は語る。 発電に必要な石炭の量 350万ポンド (約1,590トン)

 しかしながら、電力消費削減のROI
(投資利益率)
を簡単に判断することはできない。データセンターの 前であるサーバ・マシンの電源効率は、通常55〜
IT担当者は通常、電気料金の請求書を目にすること 85%程度である。つまり、消費電力の15〜45%は、
がないからだ。Gross氏は、
「何よりも重要なのは、
デー IT処理の前に失われてしまうことになる。これよりも
タセンターの効率性を測定できる手段を用意しておく 新しいマシンの場合、電源効率は92〜93%であり、
ことだ」
と指摘する。 使用率が低い場合でも80%を下回ることはほとんどな
 データセンター全体のエネルギー効率を把握し、 いという。
規準となる指標を取得するための1つの方法が、専門  米国カリフォルニア州ロモランドのWebホスティン
家に調査を依頼することだ。Sams氏が所属するIBM グ会社、
Affordable Internet Services Online
(AISO)
のGlobal Technology Services部門でも調査を請け は先ごろ、仮想化技術を利用して、120台のサーバを
負っているが、その料金は、面積3万平方フィートの 4台の
「IBM xSeries」
サーバに統合した。
「これにより、
データセンターの場合で5〜7万ドルほどだという。 電力消費量と冷却コストを低減することができた」
と、
 ただし、米国Gartnerのアナリスト、ラケシュ・クマー AISOの共同設立者でCTOを務めるフィル・ネイル

(Rakesh Kumar)
氏は、格安な1日〜2日程度の調 (Phil Nail)
氏は満足げに語る。
査でも十分に成果を上げられるとしている。
「コンサル  また、ネットワーク・ストレージもエネルギー・コスト
ティング料金を低く抑えて、8割程度の精度の結果を の抑制に役立てることが可能だ。DAS
(直接接続)

得るだけでも、おおよその判断を下すことは十分可能 のストレージ・デバイスは、ディスク1台当たり10〜13
だ」
(同氏) ワットの電力を消費する。
例えば、
IBMのブレード・サー

「IBM BladeCenter」
の場合、56台のブレードに
データセンターにあるIT機器の効率性を 112台のディスクを搭載できるため、電力消費量は約
Q 向上させるには、何を行えばよいか? 1.2キロワットとなる。これを、12台のディスクを搭載
最も大きなコスト削減が見込めるのは、仮想化 するSerial Attached SCSI
(SAS)
ストレージ・アレイ
A 技術を利用したサーバ統合だ。これにより、 1台に置き換えれば、電力消費量は300ワット未満に
サービス提供に必要な機器の台数を減らせるだけで なる、とIBMのBladeCenterプロダクト・マネジャー、
なく、一般に10〜15%程度であるサーバの使用率
(負 スコット・ティーズ
(Scott Tease)
氏は説明する。
荷のレベル)
を向上させ、エネルギー効率を改善する  
「ITマネジャーは、データセンターのすべての機器
ことが可能になる。 について、もっとエネルギー効率のよい設計にするよ
 サーバを新しいマシンに統合することには別のメ うベンダーに求めていかなければならない」
とEngates
リットもある。Gross氏によると、購入が12カ月以上 氏は強調する。Rackspaceでは、スイッチをBrocade

March 2008 Computerworld 57


Part 4  着 手 す る 前 に 知 っ て お き た い グ リ ー ン I T の 基 礎 知 識

Communications Systems製のものに統一しているが、 同社技術情報グループの施設担当シニア・バイスプレ


これはEngates氏によると、エネルギー効率が高く、 ジデント兼マネジャー、ボブ・カルバー(Bob Culver)
そして
「環境にやさしい」
製品であることが理由の1つ 氏は説明する。
になっているという。  電力会社の米国Pacific Gas and Electric
(PG&E)
では、床下を走るケーブル群がエアフローの80%を妨
データセンターにある冷却装置や空調システム げていた。そこで、床下のケーブル配線の見直しと
Q の効率を向上させるには何をすればよいか? 還気プレナムの再設計を行い、
「穴あきタイル」
をコー
UPS
( 無 停 電 電 源 装 置 )メーカーの 米 国 ルド・アイルに設置したところ、15〜20%の電力コス
A Emerson Network Powerの一部門で、冷却 ト削減を見込めるようになったという。
装置の製造・販売を手がける米国Liebert Precision  ちなみに、穴あきタイルの選定はそれほど重要なこ
Cooling
(オハイオ州コロンバス)
のアプリケーション・ とではないように思われるかもしれないが、実際には
エンジニアリング担当マネジャー、
デイブ・ケリー(Dave これが大きな違いを生むことがある。
「冷気の給気効
Kelley)
氏は、基本に立ち返ることが重要だと指摘す 率は、タイルによって大きく異なる」
と、PG&Eのデー
る。
「立ち止まって、10年前には気にとめなかったさま タセンター・マネジャー、ジョゼ・アルジェナル
(Jose
ざまな物事を見直す必要がある」
とKelley氏。 Argenal)
氏は力説する。また、PG&Eでは、これら
 最大の効果が期待できるのは、エアフロー(空気の の対策を講じたことで、冷却装置やポンプ、パイプを
流れ)
の最適化を行うことだ。データセンターの各ラッ 増設せずに済むようになったという。特にパイプの敷
クでは、1キロワットの電力消費に対して1分当たり 設は、同社の古い地下データセンターでは問題となる
100〜125立法フィートの冷気が必要になる。Kelley 可能性があった。
氏によると、床下でエアフローが阻害されていたり、  さらに、回転数可変式のファンを使用してデータセ
ラック内に空気の漏れ口があったりすると、冷却効果 ンターの空調システムを最適化することもできると、
が大幅に低くなる可能性があるという。こうした問題 米国Hewlett-Packard
(HP)
のデータセンター・イン
があると、多くの場合、空調システムの検知温度が上 フラストラクチャ・テクノロジスト、ケン・ベーカー(Ken
昇して多大な電力が浪費されることになる。 Baker)
氏は助言する。同氏によれば、通常の空調シ
 ホット・アイル
(暖気通路)
およびコールド・アイル
(冷 ステムはデューティ比100%で動作しており、ファン
気通路)
を適切に確保する、あるいは、ケーブルの取 の速度も一定だが、HPの冷却システム
「Dynamic
り出し口を密封する、ブランク・プレートを取り付ける、 Smart Cooling」
はラック・マウントの温度センサーを
床下の障害物を取り除く、といった単純な対策でも、 使用しており、空調システムのファンが可変であれば、
やるとやらないとでは大きな違いが出る。エアフロー IT機器の稼働状況に応じて空調システムの電力消費
が改善されれば、空調システムの出力温度を上げる 量をきめ細かく変化させることができるという。また、
ことが可能になるのだ。 インテリジェントな制御ユニットにより、空調システム
 米国カリフォルニア州サンフランシスコに本部を置 のファン回転速度と温度設定の両方を管理すること
く大手金融機関のWells Fargoは、コンピュータを利 も可能だとしている。
用してデータセンターのエアフローを分析したあとに、  手軽ながら非常に大きな効果が得られる対策とし
まさにこれらのことを行った。
「多くのデータセンター ては、データセンターのサーモスタットの設定温度を
は、精肉をつるしておけそうなくらい強力に冷却され 上げるという方法が挙げられる。停電が発生した際、
ている。当社では、コンピュータ制御とすぐれた冷却 空調システムが室温を適正温度に戻すまでの間に機
システムを導入しており、冷やしすぎにならないよう 器がオーバーヒートしてしまうことを懸念して、多くの
データセンター内の温度を高めに設定している」
と、 データセンターでは、サーモスタットの温度を極端に

58 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

低く設定しがちだ。しかしBaker氏によれば、実際に 電力効率向上や電力コスト削減のために、
は室温がそれほど急激に上昇することはないという。
Q 配電システムに関して行える対策はあるか?
 データセンターが比較的寒い地域にある場合には、 データセンターでは、UPSが多数使用されて
冬の間は外気を利用する電力節減装置を導入して
A いる。Sams氏によると、
UPSの電力消費量は、
データセンター内を冷 却するという方 法もある。 データセンター関連機器の中では空調システムに次ぐ
Wells Fargoは自社のデータセンターにこのようなシ 多さであり、それゆえコスト削減の余地が最も大きい
ステムを導入している。この方法は、データセンター 部類に入るという。一般に、サーバの入れ替えサイク
を新しく建設する場合に特に有効と言えるだろう
(60 ルは3年から4年程度であるが、UPSの入れ替えサイ
ページのSide Storyを参照)
。 クルはこれよりもはるかに長い。またUPSは、必要な
電力に対してオーバー・スペックであることが多く、

mn
Colu
先進企業が講じた、グリーン化とコスト削減を実現する7つの策
環境への影響を緩和するために、必ずしもIT機器の効率性向上ばかりを追い求める必要はない。
Robert Mitchell
以下では、現在さまざまな企業が資源の節約、ひいてはコストの削減を実現するために行っている施策を紹介する。 Computerworld米国版

①太陽エネルギーの利用 万ドル節約できているという。
 AISOでは、再生可能エネルギーである太陽光による太陽電池を用いて
小規模データセンターを運営している。しかし実際のところ、このシステ ⑤遮熱材の設置
ムは決してコスト効率にすぐれているわけではない。同社のNail氏によると、  Wells Fargoでは、データセンターの屋根に反射板を設置して太陽熱
この方式を採用したのは、州の税制改正により優遇措置を受けられるよう を遮断することにより、冷却コストの削減に努めている。またAISOでも、
になったからだという。 カリフォルニアの陽光による温度上昇を防ぐため、データセンターの屋上
に断熱材として4〜6インチ厚の土壌を敷設している。ただし現在のところ、
②水道料金の節約 両社ともコスト削減効果は数値化できていないという。
 米国ペンシルバニア州ハリスバーグに面積2万8,000平方フィートのデー
タセンターを保有する医療保険会社のHighmarkは、硬水軟化装置を使 ⑥再生可能なバイオ・エネルギーの利用
用して冷却塔の水漏れ率を抑えるだけで、年間約1,855万リットルの水を  Rackspaceが英国バークシャー州スラウに建設した面積6万5,000平
節約している。同社インフラストラクチャ管理担当ディレクターのマーク・ 方フィートの新データセンターでは、再生可能エネルギーを利用する発電
ウッド(Mark Wood)
氏によると、これにより、以前と比べて水の使用量を 所から全電力の供給を受ける予定だ。英国の電力会社Slough Heat &
30%減らすことができたという。 Powerが運営するこの発電所では、木材チップなどのバイオマス資源を
 さらに、冷却塔で使用される水の一部は、建物の屋上から容量約38万 燃焼させて発電を行っている。RackspaceのEngates氏によると、同発
リットルの貯水タンクに貯められた雨水でまかなわれている。この装置に 電所では、石油などの枯渇資源ではなく、植物育成により得た再生可能
よって集められる年間約237万リットルの水は、建物のトイレ用水として使 な資源を利用しているのだという。
用されるが、その残りが冷却塔に回されるのである。またAISOでも、空
調システムから排出される水 (3時間で約76リットル)
を地下タンクに貯め、 ⑦コージェネレーション
(熱電併給)
の導入
修景用水として再利用している。  Terremark Worldwideでは、発電を行うと同時に排熱を利用して熱エ
ネルギーを供給するコージェネレーション・システムを、米国バージニア州
③自然光の利用 カルペッパーに建設中のデータセンターに導入することを検討している。
 AISOでは、ソーラー・チューブを利用して自然光をデータセンター内に このシステムでは、まず米国United Technologiesの天然ガス・タービン
採り入れ、照明コストを節約している。ソーラー・チューブとは、研磨され を利用して発電を行う。そしてその排熱を利用して、吸収式冷凍機でデー
た反射型のクロム板が敷かれた管のことで、これを通じて屋根から採光す タセンターの空調システムのための冷水を生成するのだという。
るのである。  各 ユニットでは、5,000トンの 冷 気 を 発 生させることができる。
Terremark WorldwideのStewart氏によると、2つのユニットのコストは
④消灯の習慣化 ディーゼル発電機よりも高くなるが、300トンの冷気を発生させるのに100
 米国連邦住宅抵当金庫 (通称:ファニーメイ)
がメリーランド州アーバナ 万ドルのコストを必要とする冷却装置が不要になるというメリットがある。
に保有するデータセンターでは、こまめな消灯を心がけるようスタッフを ただし、データセンター全体をこのシステムでまかなうことにはまだ不安が
啓蒙し、さらにセンサーによって不要な照明を自動的に消すようにしている。 あるという。同氏は、 「コージェネレーションは最先端の技術だ。実際に導
これにより、面積6万平方フィートのデータセンターで、照明コストを月3 入するなら、まずは局所的に試すことになるだろう」 と語っている。

March 2008 Computerworld 59


Part 4  着 手 す る 前 に 知 っ て お き た い グ リ ー ン I T の 基 礎 知 識

使用率が低い場合に効率よく動作するようには設計 の間の電力を供給するのにフライホイール
(弾み車)

されていなかった。
「古い製品では、使用率が低い場 使用する。Stewart氏によると、フライホイールは、
合の電源効率は70%程度だが、最近の製品では、使 最近のバッテリー式UPSと比べて必ずしもエネルギー
用率が低くても93〜97%の電源効率を実現している」 効率にすぐれているわけではなく、ユニット自体の重
(Sams氏) 量も相当なものになるが、設置面積が小さくて済み、
 Terremark Worldwideでは、一般的なUPSの代 また鉛蓄電池を廃棄せずに済むため環境に与える影
わりに、より環境に配慮したタイプのUPSを導入して 響が少ないのだという。
「マイアミのデータセンターで
いる。米国フロリダ州マイアミの同社データセンター は、6メガワットの電力を供給する発電機とUPSを、
に導入されていたすべてのバッテリー式UPSを、ロー 面積2,000平方フィートの室内に収容できている。バッ
タリー式にリプレースしたのだ。ロータリー式のUPS テリー式UPSの場合、バッテリー部分だけで3倍から
は、電力供給が失われ、発電機が稼働し始めるまで 5倍の面積が必要になっただろう」
(Stewart氏)

St o ry
S i d e

Wells Fargoのデータセンターに導入された
「フリークーリング・システム」
外気や冷却塔に貯めた水を利用する
「フリークーリング・システム」
が、
データセンターの冷却コストを削減するための手段としてにわかに注目を集めている。
Robert L. Mitchell
以下、同システムを導入した米国Wells Fargoの取り組みを紹介する。 Computerworld米国版

わずかな投資ですぐれた節約効果を実現 置を追加する予定としている。
 米国ミネソタ州ミネアポリスにあるWells Fargoのデータセン
ターでは、2006年から空調システムに水冷式のフリークーリン 課題は導入先の
「気候」
にあり
グ装置を使用することで、冷却コストを15万ドル節約した。同  このプロジェクトに携わったミネアポリスの技術コンサルティ
社のCulver氏によると、今年はさらに倍の額を節約できる見込 ング会社、米国Michaud Cooley Ericksonのバイスプレジデ
みで、この新データセンター(面積8万平方フィート)
の稼働率が ント、ジョン・スミス
(John Smith)
氏によると、このフリークーリ
上昇し続ければ、将来的には年間最大45万ドルを節約できる見 ング装置は外気の温度が13℃ほどになると稼働し始め、1.5℃
通しだという。これは、エネルギー使用量全体の15%に相当す 程度まで下がると冷却装置をバイパス可能になるという。
る額であり、2年前のデータセンター建設時になされた、建設費  ただし、水冷式のフリークーリング装置は気候が温暖な地域
用全体の約1%に当たる100万ドルの追加投資の効果としては悪 ではあまり効果が期待できず、また既存のデータセンターにはう
い数字ではない。 まく導入できない可能性がある。Culver氏は、この技術をWells
 水冷式のフリークーリング装置は、屋外に設置された冷却塔 Fargoの他の施設に導入することも検討したが、既存施設を改
と屋内に設置された
「シェル&チューブ式」
熱交換器の組み合わ 装して設置するのはやや費用がかかりすぎるので断念したという。
せで構成される。この装置は、1年の内の約4カ月間、外気によっ Smith氏も、
「既存施設に導入できたとしても、装置を収容する
て十分に冷却された水を供給することができ、これによって熱 ためのスペースが新たに必要となる。このスペースを既存施設
交換器は、冷却装置をバイパスして直接データセンターに冷気 内に確保するのはおそらく難しいだろう」
と付け加えている。
を送ることが可能となる。今年見込んでいる節約分は、
現在デー  一方、Wells Fargoの米国カリフォルニア州ローズビルにあ
タセンターに冷気を供給している2台の冷却装置を停止すること る施設では、空冷式のフリークーリング装置を導入している。
で得られるものだ。Culver氏は、データセンターがフル稼働す Culver氏によると、空冷式のフリークーリング装置は、冷却水
るようになる時期に合わせて、今後数年のうちに3台目の冷却装 式装置の導入が難しい温暖な地域でも問題なく機能するという。

60 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

 配電システムにおいても、効率向上を図ることは可 るため、電圧変更への投資はすぐに回収できる」

能だ。Kelley氏によれば、ほとんどのデータセンター Stewart氏は期待を寄せている。
では、480ボルトから208ボルト、そして120ボルトへ  グリーン化に向けて取り組むにあたり、どの方法が
と複数回にわたって電圧を変換しているが、480ボル 最適であるかは各データセンターの構成によって異
トの電圧を直接ラックまで供給し、そこで変換すれば、 なってくる。Gross氏は、グリーン化を成功させるた
電力のロスを小さくすることができるという。 めに重要なのは、大局的な視点から必要となる電力
 同じ理由からStewart氏は、より電圧の高い欧州 や冷却性能を見極めることだと助言する。
規格にシステムを移行することを検討している
(現在  
「まずは今ある機器を把握し、ベンチマークを測定
のほとんどのIT機器は、欧州で一般的な240ボルトの して、容易に効果が得られそうな場所を判別する。そ
給電に対応している)
。「これによって、4%の効率向 こから徐々に着手していくのが順当な方法と思われ
上が見込める。当社の電気料金は月40万ドルにもな る」
(Gross氏)

ただし、施設を冷却するのに直接外気を使用するこの装置は、  この点については、
Michaud Cooley Ericksonの社長、
ディー
ほとんどのデータセンターでは実質的な効果を上げることができ ン・ラファティ
(Dean Rafferty)
氏も、
「データセンター・マネジャー
ない。というのも、
屋内に採り入れる空気の湿度を調整するのに、 は、システムが複雑になりすぎるのを懸念しているのだ」
と指摘
節約分以上のエネルギーが必要になってしまうからだ。 している。
 
「ローズビルは空冷式のフリークーリング装置を使用するのに  実際のところ、Wells FargoのCulver氏でさえ、初めはフリー
最適な場所だった。穏やかな気候のおかげで、湿度調整が問題 クーリングの導入に乗り気でなかったという。
「当初、われわれは
になることはないからだ」
とCulver氏。なお、この装置では、冷 その実現性に懐疑的だったが、技術者たちが作ってくれた試験
却装置の負荷を低減してエネルギーを節約できるほか、場合に 環境で検証を行ってみて、導入を決断した」
(同氏)
よっては2台ある冷却装置の1台を停止することも可能だという。  Smith氏も、
「設計と運用が適切であれば、非常に高い信頼
 PG&Eの主席プログラム・マネジャー、マーク・ブラムフィッ 性が得られる。確かに運用スタッフには、フリークーリングと通

(Mark Bramfitt)
氏によると、同社の米国北部の施設では、フ 常運転の切り替え方法などについて理解してもらわなければなら
リークーリング・システムの導入により、冷却装置のエネルギー・ ないが」
と語る。
コストを最大で3分の1まで削減し、さらに既存装置の寿命を延  一方、
EYP Mission Critical FacilitiesのGross氏は、
フリークー
ばすことができたという。フリークーリング・システムは、商業ビ リーングは比較的寒い地域ではすでに普及の域に達しつつあると
ルではかなり導入が進んでいるが、データセンターでは、最近 見ている。
「当社が最近建設したデータセンターのうち、おそらく3
になってようやく使われるようになってきたところだ。 割ほどはフリークーリングを採用している」
と同氏。
 気候が温暖な地域では、そのメリットは小さいように思われる
ユーザーの抵抗をいかにして払拭するか が、それでも十分な効果が得られるとしてフリークーリーングの
 PG&Eでは、カリフォルニア州の企業に対して追加費用の最 導入を決断する企業もある。Terremark Worldwideは、
米国バー
大50%を補助し、導入企業が初年度で費用を回収できるように ジニア州カルペパーに現在建設中のデータセンターで、水冷式
しているにもかかわらず、フリークーリング・システムの導入に抵 と空冷式のフリークーリング装置を使用する予定だ。同社の
抗を示す企業が多い、とBramfitt氏は指摘する。 Stewart氏によると、フリークーリング・システムを導入すれば、
 そうした中でフリークーリングの導入を決断した企業の1つに、 比較的温暖なカルペパーでも寒くなる数カ月の間に3%のコスト
Hewlett-Packard
(HP)
がある。同社は先ごろ、フリークーリン 削減を見込めるという。
グ装置を設置した面積5万平方フィートのデータセンターをカリ  フリークーリングを導入するには、ある種の思い切りも必要だ
フォルニア州パロアルトに完成させた。Bramfitt氏によると、 とCulver氏は力説する。
「かつて、データセンターはコスト度外視
HPはそれにより年間100万ドルの電力コスト削減を実現してお で運用されており、ITマネジャーはとにかく安定稼働させることだ
り、PG&Eもそれに40万ドルの補助金を出したという。
「こうした けを考えていた。しかし今日では、安定性だけでなく効率性も求
成功事例があるにもかかわらず、企業はなかなかフリークーリン められている。フリークーリングを導入することで、企業は特段
グを導入しようとしてくれない」
とBramfitt氏は語る。 のリスクを負うことなく、省エネを実現することが可能だ」
(同氏)

March 2008 Computerworld 61


Part

5
ITが環境に及ぼす影響を軽減するための第一歩

グリーンITのアクション・
プランを作成する
今日、多くの企業が、自社のITオペレーションが環境に及ぼす影響を軽減しようと、グリーンITに取り組むことを検
討し始めている。だが、その取り組みをどのように進めればいいのか考えあぐねているケースが少なくない。グリーン
ITを実践するためには、まず第一歩としてアクション・プランを作成するところから着手してほしい。本パートでは、
グリーンITのアクション・プランを作成するにあたり、IT/IS部門が行うべきことを提示する。

Christopher Mines
米国Forrester Research

先進企業による ■CitigroupがCO2削減に500億ドルの投資

グリーン化の活動状況  Citigroupは、
CO2削減を目指す世界各国のプロジェ
クトに対して、今後10年間で500億ドルを拠出するこ
 まず、先進的な企業が取り組んでいるグリーン・イ とを計画している。同社は、
代替エネルギーとクリーン・
ニシアチブの例を紹介する。 テクノロジーの商用化および開発にこの投資を振り向
けるという。
■GEが意欲的なグリーン・アジェンダをスタート ■Wal-Martがグリーン化のサステナビリティに注力
 GE
(General Electric)
は、2010年に環境関連の  Wal-MartのCEOは、
「サステナビリティ(持続可能
研究開発費を現在の2倍となる15億ドルに増やす予 性)360」
というプログラムに取り組むことを明言して
定で、クリーン・テクノロジーを採用した製品/サー いる。このプログラムは、同社のグリーン化路線をサ
ビスの売上高も200億ドルに倍増させることを目指し プライヤーや従業員、地域社会、顧客にまで広げる
ている。同時に、2012年までに温室効果ガスの排出 ことを目指すものだ。
量を1%削減することも約束した。こうしたグリーン・
イニシアチブを推進しないと仮定した場合、同社が グリーン・イニシアチブは
2012年までに排出する温室効果ガスは現状よりも IT/IS部門の重要任務
40%増加すると推計される。
■Toyotaが北米で5カ年計画による環境目標を設定  こうしたグリーン・イニシアチブは、どのような面で
 Toyota
(米国法人)
が北米で発表した第2次5カ年 IT/IS部門とかかわってくるのか──実は、すべての
環境アクション・プラン
(2007〜2011年)
では、自動車 面において関係がある。構成員数や運営コストのわり
のライフサイクル全般にわたる新たな環境目標が設定 にエネルギー消費量が大きいIT/IS部門がグリーン
されている。この中で同社は、エネルギー、気候変動、 ITに取り組むことは、企業にとって重要な意味を持
リサイクル、資源節約、有毒物質の使用、大気汚染、 つ
(注1)
。近いうちにCIOは、IT/IS部門のリーダー
環境管理といったテーマに取り組むとしている。 として、同部門がいつどのような形で環境のための活

62 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

動に貢献するのかという問いを投げかけられることに ■目的の明確化
なるはずだ。  ものごとを実行するには、何を、どこまでやるかを
 企業がグリーンITに取り組みはじめる動機として 決める必要がある。グリーンITについても、
「自分たち
は、以下のようなものが想定される。 は何を達成しようとしているのか」
という基本的な命
題を明確にしなければならない。
■業績の改善 ■事態の予測
 ITの効率化は、ビジネスにもよい結果をもたらす。  アクション・プランは、社内の関係者に、何を、いつ、
グリーンITに取り組み、
エネルギー支出を削減するか、 実現できそうかを知ってもらうのに役立つ。
少なくともその上昇率を抑えれば、電力に関するコス ■信頼の獲得
トを抑えることができる。  グリーンITには多額の予算が必要になるが、その
■企業イメージの向上 成果は必ずしも目に見える形で表れるとは限らない。
 企業を評価する基準として、その製品/サービス 経営陣は節度ある支出と自社の優先課題に即した予
が環境に配慮しているかどうかということが重要な目 算配分を求めるものだ。アクション・プランを作成す
安となりつつある。また、環境への取り組みは、監督 ることで、ITの支出とプロジェクトをビジネス全体の
官庁からの改善命令やNGO団体からの批判などによ 視点から検討できるようになる。
る信用失墜というリスクを低減できる。 ■優先課題の見極め

「正しいこと」
の実践  アクション・プランを作成することで、すぐにでも着
 真剣に環境問題を改善したいという動機を抱いて 手すべきこと、後回しにしてよいこと、まったく必要
いる企業ももちろんある。 ないことを振り分けていく。そうすれば、目標を絞り
きれない場合でも、何がトレードオフとなるのかを見
 どのような理由にせよ、グリーンITはIT/IS部門の 極めることができる。
活動の中で、年々、優先順位が上がってきている。
ビジネス部門から困難なプロジェクトを押し付けられ アクション・プラン作成の
るのとは異なり、グリーンITはIT/IS部門が社内の模 4つのステップ
範となる格好のチャンスである。
部門内のオペレーショ
ンを率先してグリーン化し、社内全体のグリーン化に  アクション・プランを作成するには、以下で述べる
結び付ければ、単なるサービス部門だったIT/IS部 ようなステップを着実に踏んで、そのプランが成功に
門も、ビジネス戦略に深くかかわり業績に貢献する存 結び付くことを保証しなければならない。
在へと進化できる。今こそが、グリーンITイニシアチ
ブに取り掛かる時期なのだ。 ①グリーンITの目標を定め、優先順位をつける
 企業によって、グリーンITに取り組む動機が異な

アクション・プランを れば、その目標も当然異なる。Forresterがヒアリン

最初に作成すべき理由 グやクライアントからの問い合わせをまとめた結果、
グリーンITの目標は次の4つに大別されることがわ
 それでは、何から着手すべきか。まずはプランの作 かった。
成である。本稿の目的は、
このグリーンITのアクション・
注1:数字は業種と地域によって大きく異なるが、一般的にエンタープライズと
プランを作成する方法をお伝えすることにある。最初 呼ばれる大規模企業の場合、IT/IS部門の運営コストは全体の3%、人
数の比率も同程度とされている。また、IT/IS部門のエネルギー消費量の
にアクション・プランを作成することは、以下のような 正確な算出は難しいが、サーバ機器だけでも社内全体の電力消費量の
2%、PC、ストレージ、冷却/空調設備を加えると、ほとんどの大企業
理由から不可欠だ。 で全電力消費量の8〜10%を占めていると推計される。

March 2008 Computerworld 63


Part 5  グ リ ー ン I T の ア ク シ ョ ン ・プ ラ ン を 作 成 す る

■電力の消費量/コストの削減 ■社内の活動リスト一覧の作成
 グリーンITの目標のうち、最も定量化しやすいのは  Forresterがヒヤリングを行った一部の企業は、正
電力コストの削減だ。本稿で勧める最適化とアーキテ 式にグリーンITイニシアチブに着手したところ、すで
クチャの改善策の多くは、電力の消費量とコストを削 に取り組んでいるその場しのぎの活動の多さに驚いて
減することを目指している。削減量を見積もるには、 いた。個々の部門や地域で行われている活動は、全
絶対値を規準にする方法
(現在より将来の電力消費 社的なイニシアチブの一部として整理できるはずだ。
量を低くすることを目指す)
と、相対値を規準にする ばらばらな活動を見つけ、それぞれの目標と動機を理
方法
(将来の電力消費量を現時点の消費量から見積 解し、当初の意図をむだにすることなく、より大きな
もり、その見込み値より実際の消費量が低くなること 枠組みにまとめることが必要だ。
を目指す)
の2つが考えられる。 ■IT機器の基本電力消費量の調査
■IT機器の利用率の向上  この作業には設備部門の協力が必要だ。なかには
 電力に加え、サーバやストレージといったIT機器に 社内全体の電力消費量を詳細に計測している企業も
関する将来的な支出の削減も目標とするケースであ あったが、IT/IS部門と設備部門との間に協力関係
る。サーバの利用率を高めて必要なワークロードを処 がないケースがほとんどだ
(注2)

理する台数を減らせば、サーバが稼働する電力や冷  データセンターについては、設備全体の総電力と
却設備の電力も削減することができる。また、将来的 IT機器の総電力の比率を測定すべきである
(それ以
に購入するサーバの台数も少数で済む。 外の電力は配電盤、照明器具、冷却装置などの補助
■CSRと全社のグリーン化活動への貢献 的機器に使われる)
。データセンターの消費電力改善
 こうした企業努力の目標としては、従業員の生産 を推進する米国のThe Green Gridコンソーシアムは、
性と満足度の向上、優秀な人材の獲得と流出防止、 この電力利用効率
(PUE:Power Usage Effect
企業イメージやブランド力の改善、コンプライアンス iveness)
を次のように定義している。
違反やNGOの監視対象になるリスクの低減といった
ものが挙げられる。 PUE=IT機器の電力消費量÷設備全体の電力消費量

■税金と公共料金の優遇措置
 米国の多くの州は、エネルギー効率の改善や再生  同コンソーシアムは、
データセンターのPUEを
“good
可能なエネルギー源の利用といった環境保護策に対 (良)
”の1.3(データセンターに供給される総電力のう
して、固定資産税の免除や法人所得税の優遇措置を ち77%をデータ処理装置に使用)
から“poor
(不可)
”の
設けている。また、北カリフォルニアの電力会社であ 3.0(実際にIT機器に使われる電力は総電力の33%)
るPG&Eを筆頭に、仮想化などのエネルギー効率の までの範囲と推計している。また、IBMの推計では
改善につながる技術を導入する顧客に対してリベート 顧客のデータセンターのPUEは1.5〜3.5となるという。
を提供する電力会社も増えつつある。 ■全社におけるIT/IS部門の役割の確認
 グリーンITイニシアチブには、組織全体を見る視
②優先度の高い目標について現状評価を実施 点が必要だ。そこで重要になるのが、設備、人事、
 アクション・プランを作成する際は現状評価が不可 法務、マーケティングといった各部門に対し、IT/IS
欠だが、この作業は見落とされがちだ。特にベンダー
は、エネルギー効率の優秀性をうたう新製品を売るこ 注2:われわれは最近、マサチューセッツ州ケンブリッジのForrester本社近く
のある企業を訪問し、最先端のグリーン・ビルを見学する機会を得た。案
とばかりに力を入れている。IT/IS部門は、自社のテ 内してくれたのは、この企業の設備部門とビルのオートメーション・ベンダ
ーの担当者だった。その際、IT/IS部門がグリーン化にどのように参加し
クノロジーやアーキテクチャを刷新する前に、次のよ ているのかを尋ねたところ、彼らは言葉を濁し、IT/IS部門と設備部門の
連携があまりうまくいっていないことがうかがえた。これまでわれわれが見
うなことを行わなければならない。 てきたほかの企業も、だいたい同じような様子だった。

64 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

部門がどのような形でリーダーシップを発揮できるの プランの作成と並行して行ってもいいし、その一部に
かを示すことだ。また、グリーンITには、CSRやコン 組み入れてもいい。例えば、省エネ型の電球に変え
プライアンスなどとの整合性も求められる。加えて、 たり、両面印刷を心がけたり、消費財をリサイクルし
ビジネスの成長に寄与するために、IT/IS部門の予 たりといった活動は効果が見えやすいはずだ。加えて、
算と対応能力がどれだけ必要かを考慮しながら取り 以下のような活動も実施したい。
組まなければならない。
■調達/サプライヤー認定規準の文書化 ■使われてないIT機器の節電
 グリーンITのアクション・プランでは、環境にやさ  ほとんどのIT/IS部門には、まったく使っていない
しい製品、および環境に配慮しているサプライヤーを のに稼働しているサーバやプリンタ、ストレージといっ
優遇するように、調達の基準とプロセスを変更するこ た機器があるはずだ。
とが重要だ。そのためには調達とサプライヤー認定の ■照明、PC、その他の機器の節電
基準を文書化することが必要になる。  従業員が帰宅する際には、必ず消灯し、PCの電

「エコ・サービス」
の利用 源も切るように注意を促す。われわれがヒアリングを
 大型システムのOEMや一部のITサービス企業は、 行った企業の中には、
「Turn IT off!」
(ITの電源を消
グリーンITイニシアチブのパフォーマンスの評価や、 そう)
というポスターを目立つところに貼っているとこ
ROIの算出を行うサービス・チームを組織している。 ろもあった。
例えばBT
(British Telecom)
は、エネルギー消費量 ■周辺機器の電源管理機能の利用
と環境への影響の低減を目指す企業を支援するCO2  プリンタなどに省電力機能が備わっていても、それ
の影響評価サービスを実施している。 が無効になっているケースもある。マニュアルを参照
■潜在的な阻害要因の把握 して有効にするべきだ。
 グリーンITの活動を始めたら、さまざまな障害に出 ■Climate Saversへの参加
くわすことになる。開始前にできるだけ多くの反対意  Climate Saversとは、PCやサーバの省電力化な
見やリスク、障害物を想定しておくことだ。これらの どを目指す業界イニシアチブである。これに参加する
中には、システムのマイグレーションが従来のITメト には、全社的に
「Energy Star 4.0」
規格に準拠する
リクスに及ぼす影響のような技術面、あるいは資金面 PCとサーバだけを購入することが条件となる。現状
でのリスクもあれば、これまでの行動様式や手順を変 では、デスクトップPC1台当たり20ドルの追加料金を
えようとしないことから、グリーン・ポリシーとプラク 支払う必要がある。
ティスの採用が遅々として進まないといった問題もあ ■データセンターのエアフローの改善
るだろう。  新たな機器を導入したり作業手順を変えたりしなく
ても、室内を整理してハードウェアを移動し、吸排気
③すぐに効果が出る活動から着手する 孔をふさぐ障害物を取り除くだけでデータセンターの
 事前評価を終えたら、すぐに大がかりな変革プラン エアフローを改善できる。CRAC
(Computer Room
を作成したいと思うだろう。だが、初期段階で重要な Air Conditioner:データセンター用の空調設備)

のは成功を実証することだ。そのためには小さなプラ 消費電力は、すぐにでも低減できるはずだ。
ンから着手すべきだろう。効果が出やすい活動を選び、
全社的にその存在を知ってもらうことを心がける。こ ④アクション・プランの周知を徹底する
こでは、社内での関心度を高めて成果を期待させる、  アクション・プランの文書はグリーンITイニシアチ
幹部との信頼を構築するという2点が目標だ。 ブの試金石となる。この文書を活用して、創造的な
 短期間で成果が出る活動は、長期的なアクション・ 活動を促し、最も効果的な活動に専念し、社内の他

March 2008 Computerworld 65


Part 5  グ リ ー ン I T の ア ク シ ョ ン ・プ ラ ン を 作 成 す る

部門にIT/IS部門の意図と進捗状況を伝える。また、 ■標準的なアプローチ/ツールの採用
アクション・プランの周知のために、その方策を文書  組織変革は一筋縄ではいかない。従業員、
プロセス、
に盛り込んだり、マーケティング活動を実施したりし 文化を同時に変えることになるからだ。成功の保証が
ていただきたい。 あるわけではないが、常識的なアプローチで臨み、標
準的なツールを使うほうが好ましい結果を得られる可

「グリーンIT認定書」
の作成 能性が高い。
 グリーンITイニシアチブへの従業員の参加を促進
するために、
「グリーンIT認定書」
を作成する。従業員 アクション・プランの
が社内資料やプレゼンテーションを作成するときに利 主要セクション
用できるマークを定める。
■ブレーン・ストーミングの実施  ここではグリーンITのアクション・プランについて、
 経営幹部が参加し、表彰制度もあるブレーン・ストー 以下の4つのセクションに分けて解説する。
ミングを実施する。これを通して従業員の意識を高め、
斬新なアイデアを募る。 プロセスとメトリクスの改定
■従業員の意識向上の支援  プロセスとメトリクスの改定は、組織の変革に不可
 従業員がみずからの問題としてとらえ、解決策を考 欠な作業である。この作業は、従業員の行動様式を
えられるように支援する。CIOやITマネジャーの役割 変え、結果的にテクノロジーやアーキテクチャの変更
は、各地域や部門ごとのローカル・イニシアチブを奨 に波及する。最初にここに注力することで、環境対
励し、サポートすることである。すぐれた成果を挙げ 策をビジネスの
“おまけ”
にするのではなく、従業員一
た従業員への報酬も用意する。 人ひとりの業務に浸透させることができる。
 プロセスの改定はIT/IS部門以外にも及ぶ。その
表1:プロセスとメトリクスの改定
主な目標の1つは、
IT/IS部門がリーダーシップをとり、
●グリーン・サプライヤーを優遇するため調達基準を改定する アウトソーシング/ベンダー管理、設備/不動産など
・サードパーティ、CERESやグリーンピースなどのNGO、米国 の領域において、より緊密な協力関係を育成するこ
環境保護庁のClimate Saversなどから取り寄せたサプライヤー とにある
(表1)
。プロセスとメトリクスの変更に際して
の評価を調べる
は、次の点に留意してほしい。
・サプライヤーの持続可能性に対する取り組みを調べる (例:ISO
140001への準拠)
●グリーン・プロダクトを優遇するように調達基準を改定する ■期待される成果の明示
・Energy StarやEPEATなどの規格を使い、将来的に調達を検  グリーンITに関する評価基準は、既存のパフォー
討している機器のエネルギー消費量を測定する
マンス管理システムやバランス・スコアカードなどに組
・ライフサイクルが長いと見込まれる製品を選ぶ
・製造、梱包、流通過程でCO2の総排出量が少ない製品を選ぶ
み込むことができる。能力モデルと成熟度モデルを改
●消費財と耐久財と両方のIT資産に対してリサイクル・プログラム 訂してサステナビリティの項目を追加することで、従
を策定する 業員が自分の評価を把握し、次のレベルに進むには
●グリーン・イニシアチブに取り組むチームおよび個人にインセン 何が必要なのかを理解できるようにする。
ティブと達成目標を与える
■十分な準備期間の設定
●IT/IS部門と設備部門の関係を築く
・データセンターの内外に対し、IT/IS部門のエネルギー消費量の  目標とメトリクスを変更したら、従業員が新たな基
基準を設ける 準に適応するための時間が必要になる。新しい方針
・エネルギーの監視/管理システムを導入する や目標を義務づける前に、変更によって影響を受け
*資料:Forrester Research る人々に十分な準備時間を与えたい。

66 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

■IT機器の電力管理チームの結成 ラがある場合、
ユーザー教育が不可欠である。例えば、
 ITが使う電力を管理するチームを部門にまたがっ 仮想サーバやストレージ管理ソフトウェアを導入した
て結成する。このチームは、IT/IS部門と設備部門 ら、IT/IS部門にはそのための新たなプロセスが必要
の重要な架け橋となる。データセンターや各種IT資 となり、シン・クライアントに移行した場合は、その変
産の電力料金を正確に把握できるようになるなど、そ 化に従業員が適応することが求められる。
のメリットは大きい。
 多くの企業は、電力料金を見積もるのに、例えば1 既存IT資産の最適化
平方フィート当たりのコストで算出するといった方法  IT/IS部門がどのIT資産の最適化を優先するかは、
を用いている。ただし、この方法では実際の料金がそ グリーンITの目標、変革への熱意、現在のインフラに
の見積もりの10倍以上になったというケースもあった。 よって異なる
(表2)
。だが、何を優先するにしても、
 実際の電力料金がわかったら、メトリクスを変更す 以下の作業は必須となる。
る。その際、まずは現状維持を目指し、それが達成
できたら徐々に電力料金を減らすようにする。実現で ■個々の活動の効果測定
きたときにはチームに報奨を与える。  Forresterは、効率性とインフラのイニシアチブの
■調達基準の厳密度の設定 選択のためのガイドラインを提示している
(68ページの
 グリーン調達基準をどこまで厳守するかは企業に 図1)
。個々の活動がグリーンITの目標達成をどれだ
よって異なる。リサイクル性やエネルギー効率といっ け進められるか、そして、その変革を実現するために
た指標を参考程度にしか考えていない企業もあれば、 必要なコスト、複雑さ、期間はどの程度かということ
環境特性を絶対条件とし、すべての条件を満たして を見きわめてほしい。
ない製品は除外する企業もある。 ■万能型アプローチとの決別
 基準を設定する際には、調達担当者が、長年従っ  企業には、万が一の事態に備えてスペース、冷却、
てきた仕入れ基準と新しいグリーン・ポリシーのはざ 電力の容量を過剰に用意する傾向があることが、ヒア
まで苦しまないよう配慮したい。CSRと調達を1つの リングを通してわかった。このような万能型のアプロー
体系に統合し、環境とコストの両面の調達基準を取 チは、設備部門の主導でデータセンターを設計する
り入れれば、IT機器のコストとライフサイクルのどち 際によく見られるが、決別しなければならない。IT/
らを重視するかという葛藤を和らげられるはずだ。 IS部門と設備部門でデータセンター・チームを結成し、
■エコ・ラベルは慎重に扱う
表2:既存IT資産の最適化
 環境性能を保証するエコ・ラベルは、手っ取り早い
調達基準に見えるが、慎重に扱うことだ。エコ・ラベ ●データセンターの機器を構成し直す
・暖気通路と冷機通路の両方を配置する
ルはエネルギー効率などの一面を表しているのにすぎ
・空気孔の位置を変え、ふさがないようにする
ず、コストを抑える方法はほかにもある。そのため、
・ケーブル接続を簡素化し、できれば頭上に配線する
エコ・ラベル製品を調達する価値が本当にあるのかと ・電源と冷却の要件が近い機器をモジュール式にグループ化する
いう問いには、明快な答えがない。望むべき調達基 ●機器に温度センサーと消費電力センサーを取り付ける
準は、総合的な環境管理システムに結び付き、どの ●電源装置、電源コンバータ、UPS、CRACをアップグレードする
●冷却ファンの自動コントロール機能などを使い、データセンター
地域にも通用する標準フレームワークである。
内の発熱量を最適化する
■新たなプラクティスとプロセスの教育 ●サーバやストレージの仮想化、階層化、統合を行う
 新たなメトリクス、手順、ポリシーを日々の業務で ●ネットワーク内のPCに対する電源管理システムを導入する
習慣づけるには教育が必要だ。特に、グリーンITプ ●PCのライフサイクルを延ばす

ログラムの一環として新しいアーキテクチャやインフ *資料:Forrester Research

March 2008 Computerworld 67


Part 5  グ リ ー ン I T の ア ク シ ョ ン ・プ ラ ン を 作 成 す る

図1:グリーンITアクティビティのコスト・メリット・マップ の電力コストの削減になる。
高い 即効性のある対策 ■環境機能の面からの製品比較
既存資産の効率改善 データセンターを
統合する  グリーン化に役立ちそうな機能に
アーキテクチャとインフラの刷新
着目しながら製品を比較する。例え
使用してない ば、クライアント管理ソフトウェア
機器の電源を切る
Climate Saversに が備える電源管理機能をForres
参加する シン・クライアント・
環境への貢献度

データセンターの システムを導入する
エアフローを改善する
terが評価したところ、Wake On
サーバを LAN機能で最高得点
(5.0)
を獲得
IT消費財を 仮想化で統合する
リサイクルする PCとサーバに サーバを
電源管理機能を採用する アップグレードする したのはLANDeskとSymantecだ
プリンタのデフォルト設定を
両面印刷にする 電源装置を けだった。HP、IBM、CA、Novell
アップグレードする ストレージを
仮想化で統合する といった他の大手ベンダーは2.0、
データセンターの
データセンターの
冷却を最適化する
ケーブル配線を マイクロソフトの製品にいたっては
簡素化する
0.0だった。

低い アーキテクチャとインフラの刷新
低い リソースの必要量 高い
 プロセスの改定とIT資産の最適
*資料:Forrester Research
化だけでもグリーン化とコストの面
コミュニケーションとコラボレーションの円滑化を図る で十分なメリットがあるが、余力があれば、アーキテ
ことこそ、機器の再構成や発熱量の最適化といった クチャとインフラの刷新にも取り組めるだろう
(表3)

活動の開始点となる。  ただし、この取り組みは、IT/IS部門の都合とは無
■算式を用いた可能性の検証 関係に実施されることもある。例えば、不動産の整理
 電源管理機能による簡単なコスト削減策の例とし 統合、企業の合併、子会社の売却などに伴うケースだ。
て、電力会社のピーク時間帯に合わせてサーバの電  アーキテクチャとインフラの刷新は最も見返りが大
源を切るという方法がある。例えば、開発環境で使 きいが、一般的に以下のような課題がある。実施する
用しているサーバを24時間、つまり1週間で168時間 際には注意が必要だ。
つけっぱなしにするのでなく、週に70時間だけ電源を
入れるようにする。算式は次のようになる。 ■資金にまつわる問題
 刷新にあたっては、複雑で計画性のないアーキテ
電源管理を行わない場合のサーバ当たりの電力料金

(70時間×ピーク時電力料率×サーバの最大消費電力)+ クチャやインフラに突き当たることも多い。それらは、
(オフピークの98時間×オフピークの電力料率×アイドル・ 企業買収やシステムの拡張、運用上の危機、エンド
サーバの消費電力)
ユーザーが導入したIT資産などに起因するものだ。
電源管理を行う場合のサーバ当たりの電力代 対処に際して重要なのは、IT/IS部門と設備部門が

(70時間×ピーク時電力料率×サーバの最大消費電力)
+0
インフラ刷新の財務計画に協力して取り組むことだ。
 ピーク時の電力料金を0.14ドル/kWh、オフピー IT/IS部門による支出は設備部門の運用コスト削減
ク時を0.11ドル/kWhとし、サーバの最大消費電力 につながる。両部門で支出とそのメリットの全体像を
を0.5kWh、アイドル・サーバの消費電力を0.25kWh 明確にし、経営陣に説明できるようにしておく。
とした場合、オフピークの時間帯にサーバの電源を切 ■運用面でのリスク
る電源管理機能を使えば、週にサーバ当たり2.695ド  インフラの刷新は、財政面、環境面でのメリットが
ル、つまり電源管理を使わない場合と比較して35% あるとしても、移行後の運用にリスクが伴うため、そ

68 Computerworld March 2008


2008 年、

」に
ーンIT
特集
「グリ

取り組

の実施が遅れたり見送られたりすることもある。また、 表3:アーキテクチャとインフラの刷新

刷新した場合、アプリケーションの可用性やスルー ●デスクトップPCをシン・クライアント・システムにリプレースする
プットに関する従来のメトリクスをそのまま使えなくな ●古いサーバとストレージを省電力型のモデルにアップグレードする
るケースもある。
アクション・プランを作成するときには、 ●データセンターの統合/移転/アウトソーシングを実施する

リスクを最小限に抑えるために、システムのマイグレー *資料:Forrester Research

ション、ユーザー教育、システムのバックアップなど
表4:アクション・プランの全社レベルへの拡張
についても文書化しておくべきだ。
●紙の使用量を減らす
■プラン/実装作業の長期化
●ビデオ会議などのリモート・コラボレーション・ツールを導入して
 ほとんどのIT/IS部門にとって、データセンターや
出張を減らす
クライアント・システム・アーキテクチャの刷新は、長 ●サプライ・チェーンにおける輸送と梱包を減らす
期的なプランニングと実装作業を伴う10年に1度の大 ●在宅勤務のポリシーとツールを用意し、出勤を減らす
プロジェクトである。しかし、企業の組織変動や、デー ●自動化システムを構築してエネルギー使用量を減らす
●代替エネルギーの技術とサプライヤーを評価する
タセンターを拡張するスペース、電力の不足といった
問題に対処するために、実施のサイクルが速められる *資料:Forrester Research

ことがある。また、より早期もしくは完全に刷新する
ことが環境保護に役立つという判断から、早急に進 なことを考えている企業はまだ少数だろうが、頭の隅
められることもある。こうしたことからグリーンITは、 にとどめておいてほしい。
シン・クライアント・システムやデータセンターのアウト
ソーシングのような長期的なアーキテクチャ刷新作業 ■ライフサイクルでのCO2排出量の測定
に弾みをつかせる効果があると、Forresterでは考え  サーバが稼働中に消費するエネルギーによる影響
ている。 は、環境に及ぼす全体的な影響のごく一部にすぎな
い。実際にメーカーは、機器が消費するエネルギー
アクション・プランの全社レベルへの拡張 の大部分は製造段階で発生することを認めている。
 グリーンITのアクション・プランを、全社的なグリー メーカーは原材料から製造工程、輸送、梱包、リサ
ン・ビジネス・プラクティスに貢献するように拡張して イクルまで含めて、機器のライフサイクル全体での影
いく
(表4)
。他のイニシアチブ──例えば、ITのマー 響
(もしくはCO2の排出量)
を定量化する作業に着手す
ケティングや、ITからBT
(Business Technology)
へ べきだ。ただし、この分析には、現在定められている
の変容といったもの──と歩調を合わせて全社的な エネルギー規準だけでは不十分だと思われる。
グリーン・ビジネス・プラクティスを推進することで、 ■再利用とリサイクル
IT/IS部門のイノベーション実現能力を高められる。  あるメーカーの話では、IT資産の廃棄処分につい
率先して取り組めば、IT/IS部門は他部門の模範に て真剣に考えているユーザーはほとんどいないとのこ
なるだろう。 とだ。前述のライフサイクル全体にわたる影響分析で
は、機器の刷新頻度、アップグレード、他の機関に譲

グリーンITにおける 渡する方法などをすべて考慮に入れることになるだろ

次なるフロンティア う。メーカーは今日のような速い製品サイクルとますま
す短期化する刷新サイクルでなく、より長いライフサ
 本稿で紹介した取り組みを実践するには、プラン イクルと容易なアップグレードに重点を置くように、
ニングに数カ月、導入に数年は要するが、Forrester IT機器の設計手法を根本から考え直す転換期に来て
は次のフロンティアを視野に入れている。以下のよう いるとForresterでは考えている。

March 2008 Computerworld 69


特別
企画

本 格 普 及 へ の カ ウ ント ダ ウ ン が 始 ま っ た

ユニファイド
コミュニケーション
実用化時代
さまざまな通信手段を使い分けることで、効率のよいビジネス・コミュニケーションを実現するユニファイド・コミュ
ニケーション 。過去、何度かブームの予兆を見せたものの、本格的な普及には至らなかった。しかし近年、
(UC)
大手ベンダーが続々とUC市場に参入し、ようやく本格的な「UC実用化時代」を迎える準備が整ってきたようだ。
本企画では、日本国内におけるUCの現状を紹介するとともに、UC製品を提供する主要ベンダーの戦略にも焦点
を当てる。UCの導入を考えている企業は、ぜひ参考にしていただきたい。

March 2008 Computerworld 71


特別企画 ユニファイド・コミュニケーション実用化時代

Part
過去のブームとは何が違うのか/
1 導入のメリットは/普及への課題は……

ユニファイド・
コミュニケーションの
現状を探る
い ま

そもそもユニファイド・コミュニケーション
(UC)
とは何だろうか。あらゆる通信のIP化を図ることだろうか。いつでも、
どこでも、どんなデバイスからでもネットワークにアクセスし、コミュニケーションをとることだろうか。本パートでは
UCとは何かを明確にするとともに、国内におけるUCの現状と、本格普及に至る過程で克服すべき課題について見
ていこう。

岡崎勝己

ハード、アプリ、サービスの  中間層の「アプリケーション」には、コミュニケーショ

3層からなるUC ン機能を提供するサーバ・ソフトやクライアント・アプ
リケーションが含まれる。例えばパート2で紹介する
 まずはUCの定義を明確にしたい。 Microsoftの「Office Communications Server
 IT調査会社のIDC JapanはUCの定義を「ユーザー 2007」
をはじめ、無料で利用できるIMの「MSN Live
の状況に応じて、
“画像”
“音声”
“データ”の3つのコミュ Messenger」などが相当する。
ニケーション手段を使い分けることで、コミュニケー  最上層の「サービス」は、UCを手がけるハードウェ
ションの効率化/高度化を図る手法」
としている。 ア/ソフトウェア・ベンダーが提供する付加価値であ
 一口にUCと言っても、提供するベンダーによって、 る。UCのシステムは、一度構築すればそれで完了す
売りとなるサービスは
(若干の)違いがある。特にソフ るわけではない。企業のニーズに合わせ、機能の追
トウェア・ベンダーと通信ベンダーとでは、強みとなる 加やメンテナンスを行う必要があるからだ。
技術基盤が異なるため、導入を検討している企業へ  なお、UCの最も特徴的な機能となるのが「プレゼ
のアプローチも異なっているようだ。なお、IDC Jap ンス
(在席)
」である。連絡を取りたい相手がPCの前
anではUCの概念を、図1のような3階層で説明して にいるのか、外出しているのかといった状況をプレゼ
いる。 ンスによって確認し、最適なコミュニケーション手段
 最下層の「ハードウェア」は、UCを実現するための で連絡をするのがUCの基本となる。
システム基盤に位置づけられている。
インスタント・メッ
セージング(IM)
、電子メール、音声電話、ビデオ会 UC再脚光のキーワードは
議など、あらゆるコミュニケーション・ツールを稼働さ 小・中規模拠点へのアプローチ
せるための各種サーバ・マシンやIP-PBX、VoIPゲー
トウェイなどが含まれる。  UCの概念自体は新しいものではない。それどころ

72 Computerworld March 2008


Part
1
ユニファイド・コミュニケーションの現状を探る

かIM、ビデオ会議、ボイス・メールなど個々の機能は、 図1:IDC Japanの示すUCの概念。将来は最上位の「サービス」層が


拡大すると予測されている
10年近く前から登場している。すでにこれらを業務で
利用している人も多いはずだ。
サービス
 では、なぜ今、UCが再注目されているのだろうか。
メンテナンス、コンサルティング、SaaSモデルなど
 IDC Japanでコミュニケーションズリサーチマネ
ジャーを務める眞鍋敬氏は、
「VoIP機器ベンダーが小・
中規模の拠点(企業)
を対象に、積極的にUCのメリッ アプリケーション
(ツール)
サーバ・ソフト、グループウェア、
トをアピールしているため」
と、その要因を語る。 IM、電子メール、音声電話、ビデオ会議など
 データと音声を統合するVoIPは、企業の通信コス
トの大幅な削減を武器として、大規模拠点を中心に ハードウェア
ユーザー数を伸ばしてきた。眞鍋氏は、大規模拠点 サーバ・マシン、IP-PBX、VoIPゲートウェイ、
ビデオ会議システムなど
のVoIP導入が一段落したことで、今度は小・中規模
企業をターゲットとした新規ユーザーの開拓が進むと
指摘する。
 一般的に小・中規模企業は、利用する電話回線が おり、UC導入の敷居はかなり低くなっている。
少ない。そのため運用コストの削減を武器に、VoIP  もちろん、ネットワーク・インフラが整備されつつあ
機器の導入を訴えることは難しい。全体的にIP化は ることも、UCが再注目される一因となっている。ネッ
進んでいるというものの
(75ページのコラム参照)
、 トワークのブロードバンド化が進み、低価格で音声や
VoIP機器自体の価格は低下が進んでいる。こうした 映像をやり取りできる通信環境を享受できるように
状況を打破するため、
VoIP機器ベンダーを中心に“付 なったことは大きい。また、携帯電話と無線LANの
加価値の高いサービス”であるUCを提供しようという 両通信に対応した、モバイル・デュアル端末などの製
動きが活発化しているというのだ。 品も登場している。さらに2008年4月に商用サービス
 
「仮に小・中規模企業がVoIPに積極的になったと が開始されるNTTのNGN
(Next Generation Net
しても、VoIP機器の市場成長率が年率10%以上に work:次世代ネットワーク)や、日本政府のIT戦略
達するとは考えにくい。VoIP機器ベンダーがUCを 本部が掲げる
「テレワーク」の推進も、UCの実用化に
切り口にすれば、
“生産性の向上”や“コスト削減”と 追い風となっているようだ
(74ページの画面1)

いった付加価値をアピールできる」
(眞鍋氏)  これらを総合的に判断し、ベンダー各社は現在を
 言うまでもなくUC導入のメリットは、業務効率お UCの普及に向けた好機ととらえ、そのメリットのア
よび生産性の向上である。UCを導入すれば、在席 ピールに再注力しているというわけである。
しているかどうかわからない相手に電話をかけなくて  眞鍋氏は、
「UCはハードウェアとソフトウェアで構
済むし、連絡先を探すために名刺入れをひっくり返し 成されるため、市場の伸びしろも大きい。将来的には
たり、過去のメールを読み返したりする必要もない。 UC市場全体が年率30%で成長していく可能性もあ
さらにWeb会議を利用すれば、
“時間とカネ”をかけて る」
と話す。
会議に出席するといったことも不要になる。以前は、
こうした環境を享受できたのは、自社でIP電話を導 UC実用化時代に向けた課題は
入している大規模企業に限定されていた。しかし、 キラー・アプリとメリットの
“見える化”
最近では企業に必要なUCのツールをSaaS
(Software
as a Service)
モデルで提供するベンダーも登場して  
「UCは米国では浸透しても日本のビジネス風土に

March 20 08 Computerworld 73
特別企画 ユニファイド・コミュニケーション実用化時代

画面1:日本テレワーク協会のWebサイト。行政の動向を把握するのに 日本でも爆発的に普及する可能性がある」
(同氏)
は役に立つ (http://www.japan-telework.or.jp)
 そして、眞鍋氏はUCが一般企業に普及するため
には、キラー・アプリが必要だと指摘する。
 コンタクト・センターのような施設であれば、UC導
入の費用対効果は数字に表れる。しかし、一般企業
の場合は、UC導入によるメリットが数字として見え
にくい。
 例えば、相手が不在とは知らずにかけていた電話
が1人1日5回だったとしよう。通話時間が1回5分だと
して、UCの導入で社員1人当たり1日25分のむだな
時間を削減できるという数字は算出できる。しかし、
それが結果としてどのくらい生産性向上に貢献してい
るのかを数値化するのは難しく、経営者はUC導入の
決断をしにくいという現状があるようだ。
 
「それよりも、今まで“ネック”
と感じていたことを解
はなじまない──」 消するようなアプリが登場するほうが、UC普及の“起
 UCに否定的な見解を示す人は、
「日本と米国の文 爆剤”になる」
(同氏)
化の違い」
を持ち出すことが多い。  眞鍋氏はモバイル・デバイス向けアプリがUCの普
 確かに日本では「スケジュール管理は手書きの手帳 及に一役買うのではないかという見解を示す。
で」
という人が多い。Web会議よりもフェース・ツー・  
「基本的に外出先でのコミュニケーション手段は携
フェースのコミュニケーションのほうが“真心が通じ 帯電話に限定されており、それに不便さを感じている
る”と主張する人もいる。それに、自分のプレゼンス 社員は多いはずだ。その不便さをUC導入によって払
を公開することに抵抗を感じるという人もいるだろう。 拭できれば、UC普及の強力なサポートとなる」
(同氏)
 一方、米国はUCが普及しやすいバックグラウンド  実際、UC提供ベンダーも、モバイルとの連携を重
がそろっている。国土面積が日本の約25倍もあるため、 要視しているようだ。パート2で紹介するMicrosoft
移動を減らす、あるいは移動時の通信手段としてモ をはじめ、Cisco Systemsもスマートフォン端末から
バイル・デバイスを利用する人は多い。また出張に費 プレゼンスを確認したり、企業のサーバ内に蓄積され
やす時間やコストを削減する手段として、ビデオ会議 ているデータへアクセスしたりできる
「Cisco Unified
も日常的に利用されている。 Mobile Communicator」
を提供している。
 しかし、眞鍋氏によると、UCを手がける日本と米
国のベンダーに聞き取り調査をした結果、現時点で SaaSモデルの台頭が
は日米の“温度差”はほとんどないという。
「各ベンダー UC市場に変化をもたらす
とも市場が本格的に立ち上がる前のアーリー・ステー
ジだと認識している」
というのだ。  では、UCは将来的にどのような進化を遂げていく
 
「もちろん導入件数は、圧倒的に米国のほうが多い。 と考えられるだろうか。
しかし多くの日本企業もUCに関心を持っている。UC  眞鍋氏は、
「UCの普及は始まったばかりであり、そ
の導入で生産性が向上したという企業が登場し、モ の“姿”を大きく変える可能性がある」
と指摘する。具
デルとなるユーザー事例が複数紹介されれば、UCは 体的には前述したハードウェア、アプリケーション、

74 Computerworld March 2008


Part
1
ユニファイド・コミュニケーションの現状を探る

サービスの3層のうち、サービス層がハードウェア層 ればサービス自体の価格も下がり、利用する側は低
とアプリケーション層を取り込むというのだ。つまり いコストでUC環境を整備することが可能になる。双
UC導入企業は、
ハードウェアやアプリケーション
(ツー 方にとってサービス化のメリットは大きい」
(眞鍋氏)
ル)
を自社で所有せず、サービスの1つとしてUCを利  これまでにもUCベンダーは、さまざまなUCアプリ
用するというスタイルが拡大するというわけだ。 ケーションを開発している。今後UCがサービスとし
 実際、その兆候はすでに見え始めている。ある通 て普及すれば、こういったアプリケーションも再注目
信事業者は、小規模なコンタクト・センター向けに、 される可能性がありそうだ。
SIPサーバの機能やコンタクト・センター向けのアプリ  とはいえ、UCの普及はその兆しが見え始めたばか
ケーションをSaaSモデルで提供するビジネスを展開 りである。今後は早期導入企業のユーザー事例を参
している。 考に、
一般企業への導入が拡大してゆくと考えられる。
 
「UC提供ベンダーは、
ハードウェアやアプリケーショ 真鍋氏はUC市場が本格的に立ち上がる時期を、早
ンの機能を“サービス”
として提供することで、安定し 期導入企業の業務改善効果が明確になる
(であろう)
た売上げを見込むことができる。また、利用者が増え 2009年ごろと予想している。

Column
IP化の進展を背景に、
国内でも普及に向かうUC

 ガートナー・ジャパンのITデマンド・リサーチが2005年に実 あればIP化が急速に普及する可能性があることがわかる。
施した調査によると、IP-PBXなどを導入し、内線電話のIP化  また、日本企業における電話や電子メールなどの通信技術
を「すでに導入済み」
と回答した企業は全体の26.3%、
「今後3 の利用度(頻度)の変化からも、UCが普及に向かうさまが読み
年以内に導入予定」と回答した企業は全体の9.3%で、全体の とれる
(図A)
。2005年と2010年を比較すると、電話の利用度
4分の1以上の企業がすでにIP電話を導入し、3年後にはその は変わらないものの、電子メールの利用度は減少し、
「その他」
割合が全体の3分の1となることが明らかになった。 が伸びると予想されている。
「その他」には、音声会議、ビデオ
 また、具体的な導入予定はないが「興味あり」と回答した企 会議、IM、ブログなど、新しいコミュニケーション・テクノロジー
業は全体の41.2%に上った。この数字を見ても、きっかけさえ が含まれると見られている。

図A:日本企業における通信ツールの利用度の変化

100 1% 1%
17% 3%
19% 音声会議、ビデオ会議、IM、
30%
80 SNS、
ブログなど

1%
60 19%

40 81% 77%
■ その他
50% ■ ファクス
20
■ 電話
■ 電子メール
0
電子メール利用以前 2005年 2010年(予想)

※資料:ガートナー ITデマンド・リサーチ/調査:2005年

March 20 08 Computerworld 75
特別企画 ユニファイド・コミュニケーション実用化時代

Part
サーバ・ソフト、クライアント・アプリ、
Webカメラで構成される
2 UCプラットフォーム

マイクロソフトが提唱する
UC導入のメリットとは
昨今のユニファイド・コミュニケーション
(UC)
を語るうえで外せないのが、マイクロソフトの動向である。同社は
2007年10月に、
“世界同時”
という形でUC製品群を一挙に発表し、UC分野に本格参入することを
(あらためて)
表明
した。通信関連ベンダーが幅を利かせていたUC分野において、OS/オフィス・アプリケーション・ベンダーの雄で
あるマイクロソフトは、どのような戦略を展開しているのだろうか。

山口 学

UCの
“源流”は2000年。 サービスを他社が提供するUCツールと連携させ、
「企

以後コンスタントに製品をリリース 業規模でUCを実現する」
というところは、この時点で
も少数派だった。
 実のところ、マイクロソフトの
“UC史”
は古い。同社  このような段階を経て、マイクロソフトは2007年10
が2000年にリリースした
「Exchange 2000 Server」 月17日、
UCの中核となるサーバ・ソフトウェアの
「Office
には、ユニファイド・メッセージング、リアルタイム・カ Communications Server
(OCS)2007」
、OCS 2007
ンファレンシング、インスタント・メッセージング
(IM)
、 のクライアント・ソフトウェア
「Office Communica
ボイス・メール連携といった機能がすでに備わってい tor 2007」
、Office Live Meetingの後継となる
「Office
た。ユーザーは電子メールやグループウェアのウィン Live Meeting 2007」
、Web会議用パノラマ・カメラ
ドウから、これらの機能を利用できていたのである。 の
「RoundTable」
を一挙に発表し、UC分野にあらた
 また同社はビデオ会議用の
「Exchange 2000 Con めて本格的に注力していくことを明言した。これら製
ferencing Server」
も、Exchange 2000 Serverとほ 品群の発表会は、日本を含む全世界で開催された。
ぼ同時期にリリースしている。しかし当時、国内にお 同社会長のビル・ゲイツ氏も、
「(今回発表した製品群
いて、これらのサーバに備わる機能を活用し、UCを は)
ビジネス・コミュニケーションを飛躍的に進化させ
実現しようとするユーザー企業は少なかった。 るものだ」
と強くアピールしている。
 同社はその後も
「Office Live Communications  現在、マイクロソフトが提供するUCツールは、電
Server 2003/2005」
、「Office Communicator 20 子メール、IM、ボイス・メール、IP電話、音声会議、
05」
といった後継製品や、ホステッド型Web会議サー PC会議
(ビデオ/Web会議)
、モバイル連携である。
ビスの
「Office Live Meeting」
などをコンスタントにリ 同社のUC戦略は、これらのUCツールを水平型の共
リースしている。しかし、一部の製品
(機能)
を部分的 通プラットフォームに統合し、単一の共通データベー
に導入する企業は存在したものの、これらの製品/ スとして管理/活用しようというものだ
(図1)
。なお、

76 Computerworld March 2008


Part
2
マイクロソフトが提唱するUC導入のメリットとは

図1:マイクロソフトのUCは水平統合型の共通プラットフォームとして、メッセージング、プレゼンス、Web会議などのコミュニケーション手段をカバ
ーする 

今日のコミュニケーション手段 ユニファイド・コミュニケーション

エンタープライズ・テレフォニー
統合されたエクスペリエンス

電子メール/ IM

個別の管理
音声会議

ビデオ会議

Web 会議

共通のプラットフォーム
ボイス・メール

それぞれのツールは、ユーザー企業の利用目的に合 のの、SIPサーバを提供するベンダーごとに
“方言”

わせて柔軟に導入できるというのが同社のセールス・ 存在する。そのため企業がUCを包括的に導入する
ポイントだ。 場合には、異なるベンダーの製品を複合的に導入す
ることは難しく、特定ベンダーの製品を
“軸”
とするこ

UC本格普及のカギは とが往々にして求められていたのだ。

パートナー企業とのエコシステム  越川氏は、
「マイクロソフトはこの問題を是正するた
めに、パートナー・ベンダーと共同でフレームワークの
 ここで疑問になるのは、
「なぜ今、マイクロソフトは 作成に注力している」
と語る。実際、2007年10月の
UCを提唱するのか。これまでのUCと現在提唱して 時点で、
PBX
(構内交換機)
ベンダー 8社、
ソリューショ
いるUCとはどこが違うのか」
という点だろう。 ン・パートナー 9社、デバイス・パートナー 7社が、マ
 この疑問に対し、マイクロソフトでインフォメーショ イクロソフトのUCへの対応を表明している。
ンワーカービジネス本部ユニファイドコミュニケーショ  越川氏によると、
UC導入のメリットは、
「インフォメー
ングループ部長を務める越川慎司氏は、
「(マイクロソ ション・ワーカーの
“痛み”
を緩和できること」
であると
フト製品も含めた)
従来のUCソリューションは、異な いう。同氏が言う
“痛み”
とは、企業内で必要な情報
るベンダー間の相互運用性が十分に確立されていな が共有されないため、作業効率が向上しない現在の
かった」
と、過去の問題点を指摘する。 状況を指している。
 UCの技術基盤となるSIP
(Session Initiation Pr  
「現在のITは、業務自体の効率を向上させている
otocol)
は、IETF
(Internet Engineering Task For ものの、部門内/部門間のコミュニケーションやコラ
ce)
が標準仕様として
「RFC 3261」
を提唱しているも ボレーションを実現し、情報共有をサポートするまで

March 20 08 Computerworld 77
特別企画 ユニファイド・コミュニケーション実用化時代

図2:マイクロソフトが考えるコミュニケーション発展モデル「ビジネス生産性インフラストラクチャの最適化(BPIO)
」 

現在 目標

ベーシック スタンダード ラショナライズド ダイナミック


(合理的)

基本的な電子メール 安全な電子メール/ 通信チャネル ソフトウェアを活用した


IMに適した標準的な 統合の強化 VoIP
Web 会議 プラットフォーム
(ときどき利用) モバイル機器からの ファイアウォールを超えた
デスクトップ・アプリに アクセス シームレスな
個別の プレゼンス機能 コラボレーション
PBX 電話システム PCを利用した
IPテレフォニー IPテレフォニー 通信情報とポリシーの
(試用段階) フェデレーション
ユニファイド
メッセージング

には至っていない。UCソリューションを提供すること 手ごとに公開レベルを設定する
「アクセス・レベル」

でこの問題を解消し、インフォメーション・ワーカーの 能も用意されている。
“痛み”
を取り除きたい」
(越川氏)
 図2は、ITを利用したコミュニケーションの発展段 ②Officeアプリケーションとの機能統合
階をまとめた
「ビジネス生産性インフラストラクチャの  マイクロソフトのUCの最 大の売りとなるのが、
最適化
(BPIO)
」である。多くの企業は
「ベーシック」
も Microsoft Officeアプリケーションとの機能統合だろ
しくは
「スタンダード」
で止まっているはずだ。これを う。ユーザーにとってはOfficeアプリケーションの1
見るかぎりでは、企業におけるUCの導入は、まだ始 機能としてUCツールを利用する感覚なので、新たに
まったばかりだと言ってよいだろう。 操作方法を学ぶ必要は
(ほとんど)
ない。
「Outlook
 では、マイクロソフトが提供するUC製品の導入で、 2007」
の電子メールや、
「SharePoint Server 2007」
実際にどのようなメリットが得られるのか。同社はメ のワークスペースに相手のプレゼンスが表示されてお
リットを
「6つのシナリオ」
として例示している
(図3)
。 り、それをクリックするだけでIP電話やIMなどのUC
ツールが起動する。あとは、最適な通信手段で相手
①UCの“肝”
となるプレゼンス とやり取りすればよい。IMのウィンドウには、
「Excel」
 UCの最も基本的な機能となるのが、ユーザーの在 や
「PowerPoint」
などのデータを添付できるので、IM
席状況を表示する
「プレゼンス」
である。互いの状態を で会話しながら資料をやり取りするといったことも可
確認できる環境を提供することで、
「連絡したい相手 能だ。
がどこにいるかわからないのでコンタクトできない」

いう状況を回避できる。ただし、自分の状態を特定 ③低コストなビデオ会議システム
の人には公開したくないというユーザーのために、相  RoundTable
(詳細は後述)
とOCS 2007(もしくは

78 Computerworld March 2008


Part
2
マイクロソフトが提唱するUC導入のメリットとは

Office Live Meeting 2007)


を組み合わせれば、低 が不可欠だ。セキュリティ機能の核となるのは、Win
コストでビデオ会議が実現できる。1対1はもちろん、 dows 2000 Serverから採用されている
「Active Dire
1対nのビデオ会議も可能だ。 ctory」
によるユーザー認証と、情報を暗号化して送
信するTLS
(Transport Layer Security)
である。
④VoIP電話との統合  一般的にセキュリティが脆弱だと言われるIMも、
 IPネットワーク上で音声通話を行うIP電話機能は、 企業内に設置したサーバ間で暗号化メッセージをやり
Outlook 2007などのOfficeアプリケーションとも連 取りする仕組みなので、安全度は高い。さらに内容
携している。こちらもプレゼンス・アイコンをクリック をログとして残せるため、監査にも対応できる。管理
するだけで、音声通話が可能だ。 にはWindows Serverの標準的な管理ツールである
「Operations Manager」
が利用できるので、ほかの
⑤モバイル・デバイスとの連携 Windows製品との統合的な管理も可能だ。
 マイクロソフトのモバイル向けOSであるWindows
Mobileを搭載したモバイル・デバイス
(スマートフォン、 OCS 2007を核に、 複数の
PDAなど)
と連携ができることもメリットの1つである。 Windows Server製品で構成
IP電話、IMなどの機能も、モバイル・デバイスから利
用することができる。もちろん、ノートPCからのアク  次にマイクロソフト製品によるUCのシステム構成を
セスでは、オフィス内のデスクトップPCとほぼ同等の 見てみよう。
UC環境を享受できる。  中核を担うのは、OCS 2007と
「Exchange Server
2007」
の2つのサーバ・ソフトである。これに複数のア
⑥企業の要求をクリアしたセキュリティ/管理機能 プリケーション/ツールを組み合わせたものが、同社
 業務でUCを利用するからには、堅牢なセキュリティ の典型的なUCシステム構成だ
(80ページの図4)

図3:マイクロソフトが提唱する、UC導入の「6つのシナリオ」

プレゼンスから始まる
企業の要求に対応できる
新しいコミュニケーション・
マネジメント・セキュリティ
スタイルの確立

6 1
場所やデバイスを選ばない
モバイル・アクセス 5 2 Officeアプリケーションとの
親和性の高い機能統合

4 3

だれでもすぐに
業務効率を
かつ簡単に使用できる
格段に向上させる電話統合
PC 会議ソリューション

March 20 08 Computerworld 79
特別企画 ユニファイド・コミュニケーション実用化時代

図4:マイクロソフト製品を中心としたUCの典型的なシステム構成

インターネット

ワークスペース/ プレゼンス セキュリティ


共有文書 電子メール 情報 管理

Office SharePoint Exchange Office Communications Windows Server


Server 2007 Server 2007 Server 2007 (2000 以降)
Active Directory
サーバ

Office Outlook 2007


Office Communicator 2007 RoundTable Office Communicator 2007
Mobile Office Live Meeting 2007

クライアント

画面1:差出人のプレゼンスをはじめ、スケジュール、所属などが  SIPゲートウェイ・サーバのOCS 2007は、Exc


Outlook 2007に表示される
(拡大部分参照)
hange 2000 Conferencing ServerとOffice Live
Communications Serverの後継に位置づけられた
製品である。Exchange Serverなどのサーバ、Offi
ceなどのアプリケーション、SIP対応デバイスが実行
するSIPベースの通信を制御するとともに、SIM
PLE
(SIP for Instant Messaging and Presence
Leveraging Extensions)
を利用したプレゼンス情報
の管理も行う
(画面1)

 一方、Exchange Server 2007(およびOffice
SharePoint Server 2007)
は、利用者からのアクセ
ス要求をOCS 2007に取り次ぐ役割を果たす。グルー
プウェアや電子メールからのアクセス要求は、Ex
change Server 2007とそのクライアント・ソフトウェ

80 Computerworld March 2008


Part
2
マイクロソフトが提唱するUC導入のメリットとは

アのOffice Outlook 2007が担当する。なお、企業 画面2:ビデオ会議のウィンドウを表示するOffice Live Meeting


2007
内情報ポータルや文書管理システムからのアクセス要
求は、SharePoint Server 2007の担当だ。
 Outlook 2007以外のクライアント・ソフトウェアには、
ビデオ会議のウィンドウを提供する
「Office Com
municator 2007」
、インターネットを利用したWeb会
議サービスの
「Office Live Meeting 2007」
(画面2)

Windows Mobileデバイス専用の
「Office Communi
cator 2007 Mobile」
などがある。
 また、複数の拠点を結んでの会議を想定したビデ
オ会議用デバイス
「RoundTable」
は、同社の新UC戦
略の
“目玉”
と呼べるものだ。これはOCS 2007および
Office Live Meeting 2007に対応した全周撮影型の
パノラマ・カメラで、5点式カメラと鏡を利用し、360
度の全方位を単一の画面上
(パノラマ画像)
に表示す
ることができる
(写真1)

写真1 全周撮影型のパノラマ・カメラであるRoundTable。5台のカ
メラとミラーを組み合わせて360度のパノラマ撮影を行う。国

目標は、組織内の
内での価格は40万円前後

“情報の壁”を取り除くこと
 以上がマイクロソフトが展開するUCである。前出
の越川氏は、
「これらのツールを活用し、UCが企業に
浸透することで、組織内の
“情報の壁”
が取り除かれ
ると確信している。ユーザーがどこで仕事をするか、
どのようなツール
(インタフェース)
を使用して作業を
するかの選択肢を豊富に提供することで、インフォ
メーション・ワーカーやモバイル・ワーカーの作業効率
向上をサポートしたい」
と語る。
 サーバ/クライアント・ソフトウェアからモバイル・
デバイスまでを網羅したマイクロソフトのUC戦略は、
好調なスタートを切っているようだ。導入が公表され
ている国内企業/団体には、東京メトロ、日産自動車、
横河電機など9社が名を連ねている。もちろん、欧米
を中心とする海外では、それ以上の導入実績がある。
越川氏は
「今後はパートナー企業との協業を通じ、
UCのエコシステムを構築したい」
と語る。
 マイクロソフトのUC戦略が国内でのUC普及にどの
ぐらい貢献できるのか、今後に注目したい。

March 20 08 Computerworld 81
特別企画 ユニファイド・コミュニケーション実用化時代

Part
ビジネスの俊敏性を高める
3 ネットワーク・インフラを構築する

ユニファイド・コミュニケーション
[自社構築のシナリオ]
企業を取り巻く環境は目まぐるしい速さで変化している。製品ライフサイクルは徐々に短くなり、競合他社製品との
差別化を長時間維持することも難しくなっている。企業のIT部門には、より俊敏に業務を進めるためのネットワーク・
インフラの構築が求められており、その解決策の1つとしてユニファイド・コミュニケーション
(UC)
の導入という選択
肢が浮上している。本パートでは、普及期を迎えつつあるUCの導入メリットや、実際にUCを導入する際のポイント
などを解説する。

堀 勝雄
ガートナー ジャパン
リサーチ コミュニケーションズ リサーチ・ディレクター

俊敏な業務遂行のために さまざまな種類のアプリケーションが密接につながり

UCの導入が有効 合い、より俊敏に業務を遂行できる可能性が高まっ
ている。
 IPネットワーク上でデータ、音声、映像などを統  企業は今、ビジネスにおける俊敏性の確立を強く
合し、さまざまなコミュニケーション・ツールの連携を 求められている。例えば、
「クレームの発生から対処ま
可能にするユニファイド・コミュニケーション
(UC)
。 で」
という一連のビジネス・プロセスにおいて遅延が発
UCを使うことで、これまでは別々に機能していた、 生すれば、顧客満足度の点で競合他社に後れをとる
ことになるだろう。したがって企業のIT部門は、ビジ
表1:2008年以降にビジネスに影響を及ぼす「戦略的技術」
トップ10 ネスの俊敏性を向上させるネットワーク・インフラを構
築する必要がある。ガートナーでは、この俊敏性の高
グリーンIT
いインフラのことを
「リアルタイム・インフラストラクチャ
ユニファイド・コミュニケーション
(Real-Time Infrastructure:RTI)
」と呼んでおり、
ビジネス・プロセス・モデリング
UCの導入がRTIの構築を支える機能要件の1つとし
メタデータ管理
てきわめて重要になると考えている。
仮想化
 ちなみにガートナーは先ごろ、今後3年間に企業の
マッシュアップ
ITもしくは業務を大きく左右する可能性のある技術
Webプラットフォーム
トップ10を発表、その1つにUCを挙げた
(表1)
。世界
コンピューティング・ファブリック
中の企業を対象に行った調査を基に、
「PBXを設置
リアル・ワールド・ウェブ
する企業の20%がすでにIPテレフォニーに移行し、
ソーシャル・ソフトウェア 80%以上がUCを試験的に運用している。今後3年間
*資料:ガートナー に大半の企業がUCを導入する見通し」
との見解を発

82 Computerworld March 2008


Part
3
ユニファイド・コミュニケーション
[自社構築のシナリオ]

表している。 異なるサイズや色の在庫商品を店員に持ってくるよう
依頼することも可能になった。

UC成功事例:  この例では、1台のIPフォン上で
「通話」
という通信

UC導入で売上げが増加した三越 アプリケーションと
「在庫管理システム」
というビジネ
ス・アプリケーションが、一連のビジネス・プロセスの
 従来、UC事例と言えば、パート2でも紹介したプ 中で有機的に連携して機能している。これもまたUC
レゼンス
(在席情報)
機能の活用や、音声情報と文字 の1つである。
情報の変換を行うユニファイド・メッセージングをイ  当システムを導入したことで、この売り場の売上げ
メージすることが多いだろう。また、その導入効果も は半年で113%増加した。また、顧客が買い物に要
従業員の生産性向上といった指標で語られることが する時間は平均33%削減され、顧客の試着室の占有
多かった。しかし、
UCの活用事例はそれだけではない。 時間も平均20%削減されたという。
 図1で示すとおり、小売り大手の三越ではRFID
(IC
タグ)
搭載のIPフォンを用いて商品の在庫状況を顧 日本企業のUC導入率は低いが
客みずからが確認できるシステムを導入している。 2008年から普及段階に移行へ
 かつて同社の売り場では、試着室にいる顧客が別
のサイズや色の商品を試着したいと思った場合に、  こうした事例を通して、UCへの新たな期待を膨ら
顧客はいったん売り場に戻って商品を探し、あらため ませる企業も少なくないが、日本企業におけるUCの
て試着室を確保する必要があった。そこで同社はIC 導入率は低く、いまだ普及の初期段階にある。また、
タグ・リーダが組み込まれたIPフォンを試着室に導入 その普及のペースも緩やかである。その要因はいろい
し、顧客が商品のICタグをIPフォンにかざすことで ろと考えられる。例えば、ワーク・スタイルが多様化
試着室にいながら在庫状況を確認できるようにした。 していること、積極的なIT投資の意識が低いこと、
また、IPフォンを用いて試着室から店員を呼び出し、 プレゼンス機能のような新しいテクノロジーが十分に

図1:三越でのUC事例

デザインの詳細(文字と写真)
問題点 ●試着室にいる顧客が、別のサイズや色の商品を試着し
タッチ・スクリーン・ディスプレイ たいとき、フロアに戻って商品を探し、あらためて試着室
を確保して試着する必要があった
●試着室の数が限られていた 

解決策 ●RFID 機能搭載のIPフォンを試着室に導入し、顧客みず


からが試着室から在庫状況を確認できるようにした
●加えて、店員の電話での呼び出しを可能とした

結果 ●売上げが半年で113%増加
●顧客の購買に要する時間を平均 33%削減
●顧客の試着室の占有時間を平均 20%削減
店員の呼び出し 在庫状況の確認

*資料:ガートナー

March 20 08 Computerworld 83
特別企画 ユニファイド・コミュニケーション実用化時代

理解されていないこと、などである。 らない。業務のスピードアップに特に重要となるのは、
 しかし、こうした障害も緩やかではあるが徐々に解 ビジネス・プロセスに人が介在することで発生する遅
消に向かっており、実装の必要性や可能性が認知さ 延をいかに解消するかである。この実現のために、
れてきている。このことから、
2008年以降、
UCはグロー UCの導入はきわめて有効と考えられる。
バルで本格的な普及の段階へと移行し、国内におい  では、実際にUCを社内に導入するにはどうすれば
ても導入機運が徐々に高まるだろうとガートナーでは よいのか。ガートナーでは、単一のUCシステムが、
分析している。 さまざまなビジネス・ケースに対応できるとは考えてい
 UCが普及する下地が整いつつあることは、パート ない。ビジネス・ケースを明確にするために、またUC
1で紹介したように、日本企業のすでに4分の1以上が のメリットをよりわかりやすくするために
「パーソナル
何らかの形でIP電話を導入していることからもうかが UC」
「ワークグループUC」
「企業UC」
の3領域に分け
える。IP電話の導入予定はないが
「興味あり」
と回答 て導入の検証を行うべきである
(図2)
。以下、それぞ
した企業も全体の4割を占めていた。このことは、きっ れのUCについて説明しよう。
かけさえあればIP電話が急速に普及する可能性があ
ることを示唆するものであろう。このように、内線電 パーソナルUC
話のIP化が着実に進展することで、UCを実装しや  パーソナルUCとは、個々の従業員の生産性を向
すい環境が次第に整いつつある。 上させるためのものである。例えば、先に紹介したユ
ニファイド・メッセージングやプレゼンスの他、複数の

3つの領域に分けて コミュニケーション・ツールに対して統合的にアクセス

UCの導入を検証する 管理を行うデスクトップ・コミュニケータなどがある。
 ただし、こうした機能の一部はグループ・アプリケー
 近年、
WAN回線の広帯域化と低コスト化が進展し、 ションや企業アプリケーションの利用時にも役立つ。
帯域幅の問題はクリアされつつあるように見える。し 例えば、プレゼンス機能は、個人の生産性を高める
かし、それだけでは業務のスピードアップにはつなが とともに、コラボレーション業務や全社規模の業務に

図2:UCの3分類

UCの3つの領域
グループ内の
ワーク・フローでの活用
ワーク
パーソナル グループ
グループウェア連携、プレゼ
ンス管理、統合コンファレンス
UC UC など
ワーカー個人の
タスクでの活用 相乗効果
ユニファイド・メッセージング、
デスクトップ・コミュニケータな
ど 組織間、企業間での
活用
企業 UC 販売、マーケティング、開発、
製造、流通などの各ビジネス・
プロセス上での活用

*資料:ガートナー

84 Computerworld March 2008


Part
3
ユニファイド・コミュニケーション
[自社構築のシナリオ]

おいても活用することができる。 Process)
の実装の必要性を提唱している。CEBPと

「コミュニケーション・システムおよびネットワークと
ワークグループUC 直接統合できるビジネス・システム」
と定義される。す
 ワークグループUCとは、
チーム、
プロジェクトといっ なわち、一連のビジネス・プロセスの中で、ビジネス・
たワークグループにおける業務の効率を高めるもので アプリケーションとコミュニケーション・システム
(通信
ある。例えば、グループごとに分類されたプレゼンス アプリケーションなど)
とを有機的に連携させ、より業
情報を生かすことで仮想的に会議を開いたり、会議 務に即した形に最適化することを目指すものだ。前述
室を設定したりできるツールがこれに当たる。複数の のUCの3つの分類で言えば、主に企業UCにおいて
コラボレーション・ツールを同時利用すれば、音声会 この概念が反映されることになる。また、UC事例と
議とWeb会議のコラボレーションなどが実現する。ま して紹介した三越のケースも、原初的な形態ではある
た、チームやプロジェクトごとに利用する特定のアプ ものの、CEBPの一種と言える。
リケーションを、IM、音声通信、音声会議、Web会  従来、ビジネス・アプリケーションとコミュニケーショ
議に統合するという使い方もある。 ン・システムの統合には困難な問題が多く、CEBPは
限定的にしか実装されなかった。例えば、生の音声
企業UC とビジネス・アプリケーションを統合するためには別途、
 企業UCとは、パーソナルUCやワークグループUC CTI
(Computer Telephony Integration)
システムや
といった範囲を超えて、部署間や企業間での業務遂 ACD
(自動電話着信分配器)
といった専用の機器が必
行能力を向上させるものである。例えば、銀行が小 要であった。また、個人の居場所などのステータスを
売店などから顧客のクレジットカード認証のリクエスト 認識するプレゼンス情報も機能的に限られたもので
を受信した際、すぐにその認証処理を行う一連の業 あった。
務プロセスの中などで活用されている。企業UCでは、  しかし、そうした障壁は徐々に取り除かれつつある。
トランザクション処理の内容から不正使用の兆候を察 通信システムがIP化の方向に進むに従い、TCP/IP
知した際に、
電話や電子メールを通じてクレジットカー ベースでの連携を図ることが容易になってきたからだ。
ドの所有者、あるいは不正使用が行われた商店に直 また、通信アプリケーションのオープン・ソフトウェア・
ちに通知するといったことも行われている。 プラットフォームへの移行により、専用システムを実
 なお、UCを導入する際、企業はできるだけそのメ 装することなくビジネス・アプリケーションと統合する
リットを定量的に評価することが求められるが、それ ことも可能になってきた。さらに、ワイヤレス通信の
が難しい場合も多いだろう。最も効果的なアプローチ 普及によって、コミュニケーションの形態が時間と場
は、既存システムの大規模なアップグレードを行う中 所を選ばなくなってきたことも、CEBPの実装を後押
でUC機能をあわせて導入することである。UC導入 しする要因の1つとなっている。
に必要な費用は、多くの場合、大規模なアップグレー
ドの一部として予算を計上できるであろう。 導入事例で見る
CEBPのメリット
UCの上位概念「CEBP」

ビジネス・プロセスを最適化する  ここで、CEBPの簡単な事例を見てみよう
(86ペー
ジの図3)
。CEBPを導入していない歯科クリニックで
 ガートナーでは2006年より、UCの上位概念である は、患者に予約の再確認をしてもらうために予約表を
「CEBP」
(Communication-Enabled Business 毎日チェックし、患者に電話をかけるか電子メールを

March 20 08 Computerworld 85
特別企画 ユニファイド・コミュニケーション実用化時代

図3:歯科クリニックでのCEBP事例

患者に予約状況の再確認の連絡を入れるケース

CEBPを実装していない
歯科クリニック
患者の予約表を確認 患者に対して電話もしくは電子メールで再確認の連絡

CEBPを実装している
歯科クリニック

レベル1
(人が介在するタイプの CEBP) 予約表上でクリックするだけで
電話もしくは電子メールを自動送信

レベル2
(人が介在しないタイプの CEBP)
患者は、確実かつ適切な手段で
予約の再確認ができる
業務が ソフトウェアが毎日特定時間に自動的に
軽減される 予約表をスキャンし、電話もしくは電子メールを自動送信

*資料:ガートナー

手作業で送って注意を喚起しなければならない。こ 業務が軽減されるだけでなく、ユーザーである患者自
のケースでは、通信システムはビジネス・システムから 身にとっても、確実かつ適切な手段で予約確認がで
完全に切り離されている。 きるようになる点だ。有効なCEBPを実装した歯科ク
 一方、CEBPを実装した歯科クリニックでは、カレ リニックは、顧客満足度の向上、来院率の増加、そ
ンダー・アプリケーション上で患者の名前をクリックす の結果として売上げ増加も期待できるであろう。
ると、自動的にその患者に電話がかかるか電子メール
が自動送信される。つまり、カレンダー・システムと電 各ベンダーのUC製品を評価し
話および電子メール・システムが統合されている。 自社に合った製品を選択する
 ただし、このケースはプロセスに人が介在するタイ
プのCEBPである。人が介在しない、
つまりアプリケー  UCの実装に当たっては、どのベンダーの製品を選
ションによって実行されるタイプのCEBPでは、例え ぶかも重要なポイントとなる。主要ベンダーは通常、
ば毎日定刻に自動的にカレンダーがスキャンされ、患 コアとなる製品を持っている。例えば、音声製品なら
者に注意を喚起するメールが自動送信される。より N o r t e l、A v a y a、Si e m e n s、A l c a t e l - L u c e n t、
上位のCEBPでは、患者に予約を思い出させるのに NEC、データ製品ならCisco Systems、コンファレン
最良のアプローチ方法を見極めるべく、患者が希望 ス関連製品ならPolycom、電子メール関連製品なら
する連絡方法、過去に連絡なしにキャンセルした履 MicrosoftやIBMなどがある。各社とも自社のコア製
歴の有無、患者個人のステータス確認といった要素 品をベースに、より包括的で統合的なUC製品を展開
までをアプリケーションで処理することが考えられる。 してきているが、そのアプローチの違いによって、大
 ここで重要なことは、CEBPの実装によって単に きく3つに分類できる
(表2)

86 Computerworld March 2008


Part
3
ユニファイド・コミュニケーション
[自社構築のシナリオ]

表2:アプローチの違いで3つに分類されるUCベンダー

バンドル・アプローチ ポートフォリオ・アプローチ フレームワーク・アプローチ

シングル製品の中にほとんどの機 それぞれに独立した通信機能の 共通の通信フレームワークやミド


能を組み入れている。実装に要す 広範なポートフォリオを持ち、プレ ルウェアを提供し、直接関連のな
る時間、全体的なコストが少なく ゼンス、管理、ディレクトリのよう い複数の通信アプリケーションの
特徴
て済むため、部門やワークグルー なシェアード・サービスを通してそ 共用を可能とする。広範なビジネ
プへの製品提供も容易にでき、ト れらが連携する。実装の際に既存 ス・アプリケーションを有する環境
ライアルとしても役立つ システムを有効利用できる に有効である

Nortel、Siemens、 Microsoft、Cisco Systemsなど IBM、Oracleなど


主なベンダー
Interactive Intelligenceなど

 さらに各社製品には、オープン化の度合いやサード チ・プレゼンス、音声会議やWeb会議など複数のタイ
パーティ製品との統合の度合いにも違いが見られる。 プの会議機能の統合と連携を図るユニファイド・コン
例えば、ある製品は主に自社のIP-PBXやプレゼンス ファレンスなどである。ユニファイド・メッセージングも、
環境上での実装/運営が想定されている。また、あ 音声認識や検索技術の向上によって、より一般的な
る製品は複数の異なる環境の中で相互運用するよう ツールとして活用されようとしている。
に作られている。さらに、ある製品は他社の主要な製  アクセス・デバイスに関しても、PCに加えて、携帯
品上のポートフォリオの1つとして動作するように設計 電話やスマートフォンなどのモバイル端末での利用を
されている。 前提とした
「モバイルUC」
が展開されようとしている。
 このように各社製品にはそれぞれに違いがあるが、 モバイルUCは、
「BlackBerry」
に代表される企業シス
単一でベストな製品というものは今のところ存在しな テム連携のプッシュ型メール・システムや、特定の業
い。また、すべての機能を1社で提供できるベンダー 務アプリケーションのモバイル利用を目的としたモバ
も存在しない。 イルSaaS
(Software as a Service)
との連携および
 ユーザー企業は、現在の自社のニーズ、自社イン 統合化が進み、モバイル・ワーカーにおける生産性の
フラとの親和性、および自社ビジネスの長期戦略とど 向上とビジネス・プロセスの連携強化が図られること
の程度マッチするものであるかの判断を基に、さまざ になろう。
まな製品やオプションを評価し、意思決定をしなけれ  将来的には、ビジネスでの利用にとどまらず、家族
ばならない。また、ほとんどの企業が複数ベンダーの や友人とのコミュニケーション、趣味の仲間どうしの
製品を利用することになるため、実装にあたっては、 交流、地域活動への参加など、あらゆる生活シーン
異なるベンダーの製品間の相互運用性を必ず確かめ でUCが活用されるようになると考えられる。その場合、
る必要がある。 各個人はリスト
(社員、趣味の仲間、地域住民などの
一覧)
とプロファイル
(各個人の属性情報)
で管理され、

モバイルUCの進展により 所在場所や利用デバイスの種類にかかわらず、動的

モバイル環境での生産性も向上 にそれぞれのコミュニティに参加し、その役割に応じ
て適切なUC機能が提供される。これにより、たとえ
 UCは現在、個々の機能の進化とともに、複数機 遠く離れた場所にいたとしても、
より積極的に各コミュ
能の統合化が進展している。例えば、
複数の通信チャ ニティ活動に参加できるようになり、社会的な生活は
ネルや機器からの在席情報を一元的に管理するリッ いっそう活性化されることになるだろう。

March 20 08 Computerworld 87
TechnologyFocus
[テクノロジー・フォーカス]
「話題の製品の機能を詳しく知りたい」
「自社では、どのような技術を使
うのが最適なのだろうか」── 企業において技術や製品の選択を行う「テ
クノロジー・リーダー」
の悩みは尽きない。そこで、本コーナー
[テクノロジ
ー・フォーカス]では、毎号、各IT分野において注目したい製品や技術を
ピックアップし、その詳細を解説する。

A pplications [アプリケーション]

「シン vs.ファット」──MS Officeの


牙城に切り込むGoogle Apps

N etworks
実用化に向けて歩を進める
「ネットワーク・コーディング」
[ネットワーク]

March 2008 Computerworld 89


Technology Focus

A
pplications [アプリケーション]

「シン vs.ファット」── MS Officeの


牙城に切り込むGoogle Apps
Microsoftの“大艦巨砲主義”はついに終焉を迎えるか
オフィス・アプリケーション市場で今なお支配的地位を占めるMicrosoftの「Microsoft Office」に対し、
「Google
Apps」を武器に攻勢を強めるGoogle──。同市場における両社の競争は日に日に熾烈化している。はたして
GoogleはMicrosoftの牙城を切り崩せるのだろうか。本稿では、両社の対立の構図をクローズアップし、シン・ク
ライアント型およびファット・クライアント型アプリケーションの現状ならびに将来の展望を概観する。

Randall C. Kennedy
InfoWorld米国版

「シン vs. ファット」 企業がデスクトップに縛られた世界を変えようとした

長い戦いの始まり が、その試みは失敗に終わった。しかし、今回の流
れを主導しているのは、大きな夢を抱く小さな新興企
 
「シン vs. ファット」の戦いの火ぶたがいよいよ切ら 業ではなく、すでに資金も人材も豊富な大企業であ
れた。今まさにGoogleは、機能満載のファット・クラ ることが、以前と大きく異なる点である。
イアント型コンピューティングに総攻撃を仕掛け、  では、ファット・クライアントからシン・クライアント
Microsoftのデスクトップ支配を終わらせようとして への新たなパラダイム・シフトによって、Microsoft帝
いる。もちろんターゲットは「Microsoft Office」以外 国のアプリケーション支配に終止符が打たれ、われわ
にない。Googleが手にする武器はもちろん、
ブラウザ・ れが約20年間使い慣れてきたOfficeの命運がついに
ベースのシン・クライアント型アプリケーションだ。 尽きる日が来るのだろうか。その議論は、長期的ある
 インターネットを中心とする今日のIT環境において、 いは短期的な視点によって大きく分かれる。
デスクトップは単なる情報の玄関口程度の存在になり
つつある。なぜドキュメントやアプリケーションをPC Googleが直面する
のローカル・ディスク内にとどめておく必要があるのか。 大きなプレッシャー
それらをインターネット側に移せば、
いつでもどこでも、
どのデバイスを使っても自由に利用できるようになる  今やだれもが知る大企業となったGoogle。優秀な
ではないか。また、ドキュメントをPCの牢獄から解 人材にあふれ、資金も潤沢にある。もし同社が売り込
放すれば、コラボレーションもクリック1つで可能にな むWebアプリケーションを中心とした「クラウド・コン
る──こうした考え方が、まさにGoogleのアプリケー ピューティング」が実現すれば、Microsoftは危機に
ション戦略の根底をなすものと言える。 陥り、Googleが新たな王者としてアプリケーション市
 これと似たような兆候は、Webが登場したときにも 場でも覇を唱えるだろう。
見られた。当時、Netscape Communicationsなどの  Googleの戦略の中核は、アプリケーションとデー

90 Computerworld March 2008


Applications

Applications
タをホストし、インターネットというサイバースペース 画面1:
「Office Live Workspace」
(ベータ版)
の画面。同サービスは、
オンライン・ストレー
ジ領域にWordやExcelの文書を保管し、他者と共有できる環境を提供する
へのユビキタスなアクセスを提供する
“クラウド
(雲)

が担っている。複雑なデスクトップOSやアプリケー
ション・スイート、高性能な最新のハードウェアなどは
不要で、実にクリーンで信頼性の高い、革新的なア
プリケーション・デリバリ・モデルと言える。
 ただ残念ながら、この“クラウド”
も、現時点ではま
だ実用的ではない。グリッド・コンピューティングや
SaaS
(Software as a Service)
、アプリケーション・
デリバリの管理、グローバル規模でのアクセスなど、
ほとんどの技術がまだ幼年期にあるからだ。シン・ク
ライアント型アプリケーションも、初期のWebがそう
であったように、まだ先行き不透明な荒削りの欠陥製
品にすぎない。
 ただ、そうした限界はあっても、Googleはサーバ
や特殊なインフラを導入することなく、データを簡単
画面2:
「Google Gears」は、サーバと通信しながら動作するWebアプリケーションを、
に共有できるホステッド・モデルの強みを生かして全 オフライン状態でも利用可能にする技術。Google GearsをサポートするRSSリー
ダ「Google Reader」では、画面右上に表示される緑色のアイコンをクリックする
力を尽くさなければならない。Microsoftはすでに
(パ ことでオフライン・モードに切り替わり、フィード情報がローカルに保存される

スワードでプロテクトをかけたSharePointのワークス
ペースにすぎないとはいえ)Web経由でドキュメント
を共有できる
「Office Live Workspace」
(画面1)

ベータ版をリリースし、クラウド・コンピューティング
のトレンドセッターのポジションを奪い取る姿勢を見
せているからだ。
(もちろん、Office Liveという名称
にもかかわらず、Officeの全機能を提供しているわけ
ではないので、今のところそれほど脅威ではない)

 おそらくGoogleの究極の競合は、ユーザーが長年
慣れ親しむWindowsとOfficeを組み合わせた環境
の快適さと、ホスティング型アプリケーションのアドバ
ンテージを融合したハイブリッド・モデルになるだろう。
それこそがまさにMicrosoftの目指す方向なのだが、
皮肉なことに、Windows Vistaと
「2007 Microsoft
Office system
(Office 2007)
」の大幅なインタフェー
ス刷新、ならびにOffice 2007の不安定性に対する
不満が、IT部門のMicrosoft製品離れを引き起こし イートの「Google Apps」
をはじめ、オフライン対応の
ており、Googleに絶好のチャンスをもたらしている。 Webアプリケーション開 発 / 実 行 環 境「Google
 しかしGoogleは今、大きなプレッシャーに直面し Gears」
(画面2)への期待は大きいものの、実際のとこ
ている。企業向けホスティング型アプリケーション・ス ろ、どれをとっても不十分なものばかりであるからだ。

March 2008 Computerworld 91


Technology Focus

唯一「Gmail」だけは例外と言えるが、
全体的に見れば、 ビジョンを示すだけでは不十分で、それにはインセン
現行のデスクトップ・アプリケーションと比較して遜色 ティブが必要であり、Googleのクールな技術をユー
がないと言い切れるものはない。実際、まちがって ザーが求める革新的な商用アプリケーションに変換で
F5キーを打ってしまっただけで、時間をかけた労作 きる開発者の育成が欠かせない。もしGoogleがそう
がいとも簡単に消えてしまうなど、ビジネスで本格的 した環境を整備できれば、Office王国を打ち倒すチャ
に利用できるレベルにはまだ達していない
(こうした欠 ンスが必ずやって来るだろう。
陥は改善されつつあるが、Google Appsの未成熟さ
がいかんともし難いのは事実だ)

 もっともMicrosoftの製品も、最初から安定的なも なぜMicrosoftは倒れないのか
のはない。どの製品も熟成するまでにいくつものバー
ジョンがリリースされる。そう考えると、Googleも同  
「囲い込み」
と「拡張」──その善悪は別にして、こ
様に中長期的な視点で戦略を展開していけば、いず の2つこそがMicrosoftの長年にわたる基本戦略だ。
れはMicrosoftを追い落とすことができるかもしれな 台頭する標準技術を確認すると、同社はそのサポー
い。だが、欠陥を抱えたまま見切り発車するのは、必 トを表明するとともに、その標準を“強化”するための
ずしも賞賛されるやり方ではない。 プロプライエタリな拡張機能を追加し、市場を囲い込
 Googleはまず、
現行のサービスを強化すべきである。 むのである。
なかでもWebアプリケーションのオフライン時利用の  もちろん機能的に改善されたケースもある。ACPI
実現は、Google Gearsイニシアチブでようやく解決 (Advanced Configuration and Power Interface)
に向けて動き出した重要な技術的課題であり、この などのハードウェア技術では、Microsoftの推進のお
機能を「Documents」や「Spreadsheets」
、「Presen かげでWindowsプラットフォームの互換性と安定性
tations」の各アプリケーションに早急に拡張する必要 が向上した。しかし多くの場合、同社の囲い込みと拡
がある。ところが同社は、先ごろ打ち出したオープン 張の戦略は凄惨な結果を招いている。例えば、1990
ソースの携帯電話向けアプリケーション開発プラット 年代後半のブラウザ戦争の勃発は、Microsoftが先
フォーム「Android」プロジェクトによって、Google 行するNetscapeをたたくために非互換のHTMLタグ
Appsへの熱意が冷めてしまった感がある。Googleの やプラグイン標準を選択するよう開発者に迫ったこと
経営陣は、今一度Microsoft追撃に集中し、やみく が直接の原因とされている。
もに戦線を拡大しないよう気を引き締める必要がある  では今日、インターネットが発展し、伝統的なスタ
だろう。高いROI
(投資利益率)が見込めない無数の ンドアロン・アプリケーションとローカルにデータをス
サイド・プロジェクトに埋もれ、身動きが取れなくなる トアするファット・クライアント型のPCモデルが旧態
愚だけは避けなければならない。 化しつつある時代に、はたしてMicrosoftの戦略は有
 ただ、たとえGoogleでも、すべてを単独で成し遂 効だろうか。
げることは難しい。今の同社であれば、必要とする人  答えはおそらく
“Outlook Good
(前途良好)
”だ。こ
材を好きなだけ集めることは可能だろう。しかし、 れまでさまざまなミスを犯してきたにもかかわらず、広
Webはどこかの企業1社が自在にコントロールできる 大なハードウェア/ソフトウェア環境において、Mic
ものではなく、GoogleだけでWebの根源的な問題を rosoftは今後も絶大な支配力を維持し続けるだろう。
解決することはできない。この仕事を成し遂げるには アプリケーション・サーバからファイル圧縮ユーティリ
すぐれたチームを組むことが不可欠となる。その点、 ティに至るまで、Microsoftのプラットフォームはあら
Google1社だけでは心もとない。世界を変えるには、 ゆる開発者にとって第一のターゲットとなる。事実、

92 Computerworld March 2008


Applications

Applications
多くの商用ソフトウェア開発が、Windowsという大き 画面3:
「Zoho」は、
米国AdventNetが運営するするホスティング型オフィス・スイート。ワー
プロ、表計算、プレゼンテーション・ツールをはじめ、プロジェクトやタスクの管理ツー
なうねりに乗って拡大してきたのだ。 ル、CRMサービス、データベース構築など多彩なサービスを用意している

 その好例がMicrosoft Officeだ。これほど広く普
及しているにもかかわらず、ほとんどの人は「Word」
「Excel」
「PowerPoint」
といったスタンドアロン・アプ
リケーションの単なる詰め合わせと考えている。しか
し、Officeは、そうした単純なスイート製品にとどま
らない。Officeは統合化された堅牢なAPI
(VBA、
OLEオートメーション、
その他のアドイン・インタフェー
ス)のおかげで、それ自体が商用ソフトウェア開発の
有力なターゲットになっている。事実、Windows開
発市場に参入する最も簡単な方法は、Microsoft
Officeをターゲットにすることである。このスイートの
機能を新しくしたり、強化したりするすぐれた製品
を開発すれば、世界中の人々が売り場に殺到するだ 画面4:
「Windows Live Mail」の画面

ろう。
 もちろん、Officeは広大なWindows環境のほんの
一部にすぎない。
「SQL Server」や「Dynamics」

「Outlook」
、「IIS
(Internet Information Services)

などの製品も、多くの開発者たちの心を引き付けてい
る。また、IISにSOAPやWSDLを実装したものや、
メタデータを含んだSQL Serverを実装したもので
あっても、それらはそれぞれの環境において、Micro
softの囲い込みと拡張の戦略を相互に補強する仕組
みになっている。
 こうしたMicrosoftの相互補強戦略を崩壊させうる
1つの力がWebである。ブラウザ・ベースのシン・クラ
イアントとユビキタスな接 続 性の組み合わせは、
Microsoftの支配力を奪いつつある。しかし同社は、
愚鈍そうに見えて、実はこの脅威に敏感に反応して サービスなどを投入して、積極的に反撃している。
おり、ここでも有効性が実証済みの囲い込みと拡張  次に拡張だ。例によって、Microsoftは伝統的な
の戦略を推し進めている。いわばゆっくりとした足取 デスクトップOSやアプリケーション・プラットフォーム
りで、足早に逃げ回る獲物を追い詰めているわけだ。 に新しいサービスを組み込み、Office LiveとWin
 まずは囲い込みだ。Googleや新興勢力のZoho
(画 dows Liveサービスを拡張している。前述したOffice
面3)
などの成功を見たMicrosoftは、写真共有やブ Live Workspacesや、
「Windows Live Mail」
(画面4)

ログ・ツールといったコンシューマー向けのWindows 「Windows Live Writer」
(94ページの画面5)
などは、
Liveサービスや、契約管理、Webサイト設計といっ どれも成長著しいLiveアプリケーション市場をター
た中小企業向けのシン・クライアント型Office Live ゲットとしたものだ。いずれもWindows仕様であり、

March 2008 Computerworld 93


Technology Focus

画面5:
「Windows Live Writer」の画面 自のシン・クライアント環境とパートナーシップを速や
かに構築する必要がある。しかし、そうした努力を怠
らなかったとしても、Googleが大成功を収めるには、
Microsoftのミスを待つほかないのが実情だ。
 ただ、Microsoftの明確なミスと言えるものが1つ
ある。それはVistaとOffice 2007に対するユーザー
の冷めた反応だ。どちらの製品も当初約束していた
機能を実現しておらず、デザインの不備や安定性の
欠如がIT部門の仕事を増やしている。巨大なインス
トール・ベースのおかげで、Microsoftはなんとか面
目を保っているにすぎないのだ。
 さらに戦況を悪化させたミスとして、海賊版対策の
キャンペーン展開が挙げられる。そこでとった過剰な
措置が将来のWindowsユーザーを追い散らしている
ことに同社は気づいていない。問題は「WGA
(正規
Webとデスクトップの統合を実現する独自のハイブ Windows推奨プログラム)
」にある。Microsoftは
リッド・アーキテクチャを採用している。 WGAでアクティベート・プロセスとアクティベート・ス
 さらにMicrosoftは、近い将来、アプリケーション テータスの管理を複雑にしてしまい、結果的に新規
仮想化を通してWord、Excel、PowerPointの全機 ユーザー獲得の障害となってしまっている。実際に筆
能をシン・クライアントで提供し、ユビキタスな接続性 者が体験したケースでも、
WGAが原因のエラーによっ
を実現したいと考えており、高性能ファット・クライア て、システムに問題が生じて機能が低下したり、デス
ントに残された他のアプリケーションについても、スト クトップが完全にロック・アウトしたりしたことがあっ
リーミング・サーバの大規模分散ネットワークでサポー た。
トしていく姿勢を見せている。  Windowsに関するもう1つの弱点は、仮想化に関
 こうしたアプローチは非常に魅力的だ。Microsoft するものだ。Microsoftは近い将来、
同社のアプリケー
の最新のアプリケーションが低コスト、あるいはほと ション仮想化技術「SoftGrid」
を活用して、主要なア
んどコスト・ゼロでデスクトップに配信されるようにな プリケーションの全機能を月次または四半期ごとのサ
れば、わざわざAjax
(Asynchronous JavaScript + ブスクリプション・モデルで提供する見込みだが、も
XML)
アプリケーションを我慢して使う理由がなくな しMicrosoftがこの方式を採用すれば、ホスティング
る。それはGoogleに困難な課題を突きつけるはずだ。 型のアプリケーション配信が可能となり、Googleなど
のシン・クライアント陣営を結果的に助けてしまうこと
になる。その場合、MicrosoftはGoogleよりも安価
Googleに勝ち目はあるか ですぐれたサービスで勝負しなければならなくなる。
 もしMicrosoftが攻撃的な価格でOffice製品群の
 たとえMicrosoftが、Office製 品 群 をGoogle ストリーミング・バージョンを提供すれば、おそらく
Apps方式のシン・クライアント型サービスとして提供 Googleに勝つことができるだろう。だが、欲を出して
しないとしても、Googleは決して安閑としてはいられ 既存の収入チャネルの保護に走るようであれば、ユー
ない。自社のアプリケーションを早急に磨き上げ、独 ザーは一斉に“仮想Office”ソリューションではなく、

94 Computerworld March 2008


Applications

Applications
Google Appsなどの代替製品の採用を積極的に検討  もっとも、そうした条件が一度にそろう可能性は低
し始めるだろう。 いが、IT部門は少なくともGoogle GearsとOffice
 また、Googleが現行のサービスを強化し、新たな Liveを比較検討し、それなりにリスク・ヘッジをかけ
ISVコミュニティを構築するとともに、Microsoftが てくるはずだ。業界の専門家らが「革命的」
と興奮し、
今後も製品のアクティベーションに厳格な制約を課し 賞賛すればするほど、ユーザーは用心深くならざるを
続け、今後投入するサブスクリプションの価格設定で えない。結局、だれもが革命を望んでいるわけではな
ミスを犯せば、Microsoftの市場支配力と伝統的な く、われわれの多くは、使い慣れたPCの前で世の中
ファット・クライアント型のコンピューティング・モデル の変化を傍観しながら、時代の流れに乗り遅れない
が大きく揺らぐのはまちがいない。 ようにしたいと思っているだけなのだ。

COLUMN 2008年、
Googleが抱える戦略的課題──アナリストらが分析 Jon Brodkin
Network World米国版

創業10周年の節目を迎え、
引き続きライバルの挑戦を退けられるか

 米国Googleは、この10年の間にスタンフォード大学の地味な研究プ Yahoo!も数10億ドルの売上高を誇る有力企業であり、
モバイル・インター
ロジェクトから世界で最も有名なブランドへと発展し、ソフトウェア最大 ネット市場におけるシェア(25%)
も拮抗している。
手のMicrosoftと競い合うまでの存在になった。  Googleは健康管理ツールの分野でもMicrosoftと競争を繰り広げて
 セルゲイ・ブリン(Sergey Brin)
とラリー・ペイジ(Larry Page)の両 いる。
「Google Health」のプロトタイプは、ユーザーの健康情報のセン
氏によって設立されたGoogleは、今年で創業10周年という節目の年を トラル・リポジトリを提供できるようになっており、本人が望めば医師や
迎える。今後同社は、テレビ・サービスや個人の医療情報にアクセス可 家族との間でその情報を共有することも可能だ。しかし、元Web開発者
能なオンライン・サービスなど、さまざまプロジェクトに乗り出すと思われ で、
Googleの動向を追うブログ「Google Blogoscoped」
を運営するフィ
るが、安閑としてはいられない。2008年の最重要課題は、オンライン リップ・レンセン(Philipp Lenssen)氏は、
「Googleがこのサービスをど
広告市場における支配的な地位を脅かしかねない、さまざまなライバル のような形で提供するのか、はっきりとはわからない。このサービスはプ
の挑戦を退けることだ。 ライバシーのリスクが大きすぎる。だれかにハッキングされ、ユーザーの
 米国IDCのデジタル・メディア/エンターテインメント・プログラム担 医療記録が漏洩した場合、ダメージがきわめて大きい」
と指摘する。
当ディレクター、カーステン・ウェイド(Karsten Weide)氏は、
「Google  このほかGoogleは、
Microsoftの「Office」に対抗するホステッド・サー
にとって最も優先すべき課題は、収入源の多様化だ」
と指摘し、売上げ ビス「Google Apps」のアップグレード、Webアプリケーションをオフラ
の99.1%を検索広告に頼る同社の脆弱性に警鐘を鳴らす。 インの状態でも使えるようにするオープンソースのブラウザ拡張「Google
 Weide氏はGoogleの当面の脅威として、オンライン・ビデオ・コンテ Gears」
、新しいソーシャル・ネットワーキング・プラットフォームの開発
ンツに含まれる広告(オンライン・コマーシャル)
を挙げている。同社が など、複数のプロジェクトを推進すると思われる。すでに同社はアリゾナ
YouTubeを買収したのは、ビデオ広告事業を強化するためだったが、 州立大学でソーシャル・ネットワーキング・ソフトウェアのテストを行って
黎明期にあるこの市場は依然として流動的であり、巨額の収益をだれが おり、近い将来正式にリリースするとのうわさもある。
手にするのかはまだわからないという。  さらに、何らかの形でテレビ・サービスにも乗り出す可能性がある。詳
 コンテンツの中に違法なものや盗作などが含まれている可能性もある 細は不明だが、同社はテレビに対応するサービスを開発するためにソフ
ため、広告主はYouTubeへの広告に及び腰だ。また海賊行為の問題も、 トウェア・エンジニアのチームを雇っている。
商業コンテンツ・プロバイダーを遠ざける要因になっている。Weide氏は、  また、中国での事業拡大にも備えているようだ。Googleは中国で新
「来年には解決策が見つかるかも知れないが、実際に解決できるようにな たなWebサイトのテストを行っており、欧米スタイルのキーボードで入力
るまでにはしばらく時間が必要だろう」
と語っている。問題解決に時間が した文字を中国語に変換するための入力エディタもリリースしている。同
かかりすぎると、現在ベータ段階にあるビデオ・オンデマンド・サイト 社は、中国における自社の役割について、
「世界の情報を整理し、だれも
「Hulu」などの新しい勢力がGoogleを脅かす存在になるかもしれない。 がアクセスして、利用できるようにすること」
と説明しているが、コンテン
 Googleにとってもう1つの大きな課題は、モバイル広告市場だ。同社 ツについては、中国政府の機嫌を損ねないよう自主規制しているようだ。
の携帯電話開発プラットフォーム「Android」は順調なスタートを切った Lenssen氏は、
「中国政府におもねるようなことはあまりしたくないと考え
が、この分野ではライバルのYahoo!も攻勢をかけてくると思われる。カ ているのは確かだろうが、当面同社がその必要性を認識している間は、
バーするメディアなどの点で今のところGoogleのほうが優勢だが、 現在の姿勢を維持するはずだ」
との見方を示している。

March 2008 Computerworld 95


Technology Focus

N
etworks
[ネットワーク]

実用化に向けて歩を進める
「ネットワーク・コーディング」
期待が集まる次世代ネッ
トワーク技術の
“今の実力”
ここにきてMicrosoft、HP、Intelなどの大手ベンダーが、コンテンツ配信からワイヤレス・ネットワークに至るまで、
あらゆるネットワーク・システムのスループット、スケーラビリティ、効率性を向上させると目される、ある技術に注
目し始めた。それが、
「ネットワーク・コーディング」である。本稿では、この次世代ネットワーク技術について解説
するとともに、同技術に対するベンダーの取り組み状況や市場としての将来性などについて紹介する。

Jim Duffy
Network World米国版

研究・開発は進むものの  ネットワーク・コーディングは、ルータやワイヤレス

その可能性は未知数 機器などさまざまな製品に実装できるし、
「ネットワー
ク・コーダ」
という新たな形態を取る可能性もある。
 7年前、数人の研究者によって提唱されたネット  すでにIntelは、ネットワーク・コーディングをワイヤ
ワーク・コーディングは、これまで一般にはほとんど レス基地局の通信範囲拡大に利用することを検討し
知られることがなかったが、大学やベンダーの研究所 ており、Microsoftはこの技術の試験運用を行った
(99
では地道に研究開発が進められてきた。 ページのコラム)
。一方、Cisco Systemsは、
ネットワー
 まだ評価が確立しておらず、
「新たなネットワーキン ク・コーディングに関する計画を公表しておらず、広
グ革命を引き起こす画期的技術」
と賞賛する支持者 報担当も以下のようなコメントを出すにとどめている。
がいる一方で、
「既存のルーティング機構をベースに  
「ネットワーク・コーディングについては、多様なト
したアーキテクチャで採用される程度」
と冷ややかに ラフィックを識別し、それらに優先順位を付けてネッ
見る向きもある。ちなみに支持者側は、
この技術はネッ トワークのキャパシティを増大させる技術として研究
トワークのスループットを従来の2倍以上に向上させ を進めているが、まだ、ネットワーク・コーディング製
たり、信頼性や安全性を高めたりといった、すぐれた 品を提供する段階ではない」
特徴を持つと主張している。
 ネットワーク・コーディングの仕組みを簡単に説明す 複数パケットを混ぜ合わせ
ると、複数のメッセージを小さなビット単位の
「エビデ ネットワークの効率化を図る
ンス」
に分け、それを一塊にして送信し、宛先ノードで
復元するというのがその骨格である
(図1)
。複数のメッ  ネットワーク・コーディングは、ビット単位の
「排他
セージを混ぜ合わせるというシンプルな仕組みで、ネッ 的論理和
(exclusive or:xor)
」という演算子で、パケッ
トワークの強化が不要であることから、ネットワークの ト内のデータと別のパケット内のデータを操作する。2
効率性を高めるとされている。 つのビット・パターンで対応するビットごとに論理演

96 Computerworld March 2008


Networks

Networks
算を行い、対のビットが異なる場合は
「1」
、同じ場合 図1:ネットワーク・コーディングの基本的な仕組み


「0」
とする。この1と0がエビデンスとなる。エンドス ソース・ ソース・
1 エンドステーション エンドステーション 1
テーションあるいは論理演算を行う機能を持ったノー A B
2 2
ドは、エビデンスを基に送られてきたメッセージを復 A B
エッジ・スイッチ 3 エッジ・スイッチ
元する。こうすることで、パケット数やネットワークの ネットワーク・
コーダ
キャパシティを増やすことなく、宛先ノードで効率的
に複数のメッセージを受信できるようになる。 A+B
A B
 このような利点を
「データの代数的性質を利用する
ことで、
パケットを操作する自由が得られる。その結果、 ネットワーク・
コーダ
ネットワークを効率化する可能性が開ける」
と表現す 4
宛先スイッチ A+B A+B 宛先スイッチ
るのは、米国マサチューセッツ工科大学
(MIT)
電気
A B A B
工学/コンピュータ・サイエンス学科の准教授で、ネッ
5
トワーク・コーディング研究の第一人者としても知ら
れるムリエル・メダール
(Muriel Medard)
氏である。 宛先エンドステーション 宛先エンドステーション
 Medard氏のようなネットワーク・コーディング支持
1 AおよびBというメッセージがそれぞれのソース・エンドステーションから送信される。
なお、
エッジ側
者は、この技術は特にインターネットのようなルータ から宛先側に至る3つのルートはそれぞれ、同時に1つのメッセージを流すものと仮定している
このとき、真ん中のルートにネットワーク・コーダが
2 それぞれのエッジ・スイッチがメッセージを送る。
共有型インフラ、
ピア・ツー・ピア
(P2P)
コンテンツ配信、 存在しなければ、A側の宛先スイッチはメッセージBを受け取れず、
また、B側はメッセージAを受け
取れない
ワイヤレス・メッシュ・ネットワークなどで活躍すると 3 ネットワーク・コーダがメッセージAおよびBを混ぜ合わせ、両メッセージのエビデンスを1つのパケ
ットに入れて送る
している。また、
同氏をはじめとする研究者たちは、
ネッ
4 エビデンスを受け取った別のネットワーク・コーダが宛先スイッチにそれを送る
トワーク・コーディングはあらゆる形態の通信システム 5 宛先エンドステーションがメッセージAおよびBのエビデンスから必要な情報を推論する

の伝送速度と信頼性を劇的に向上させ、ネットワーク
分野に新たな革命を起こすと論文で述べている。な プットとしてマッピングしたりする機能は持ち合わせ
お、Medard氏によれば、ネットワーク・コーディング ていないのだ。
をどのような形で取り込むかは、個々のネットワーク  なお、Medard氏によれば、ネットワーク・コーダは
の目的によって異なるという。 ルータに取って代わるのではなく、オーバーレイ・ルー
 ちなみに、類似した高速転送技術に
「MPLSトラ ティングの機能を果たすものであるという。もっとも、
フィック・エンジニアリング」
があるが、これはパケット 将来的にネットワーク・コーディングがもたらすメリッ
にラベルを付加する技術であり、パケット内のデータ トがルータに不可欠な要素だということになれば、
ルー
を直接操作するネットワーク・コーディングとは本質 ティング技術そのものが本質的に変貌してしまう可能
的に異なる。
「ネットワーク・コーディングは、パケット 性も否定できない。
のフィールドではなく、
パケット内のデータを操作でき、
しかもそれを元どおりに復元する」
とMedard氏。 製品への実装は未定ながら
 ただし、現行のルータやスイッチでは、こうした操 実用化に歩を進めるHP
作は不可能だ。現行機器はパケットのソースと宛先
フィールドを基に同一ノード上でインプットをアウト  HPも、ネットワーク・コーディングがP2Pコンテン
プットへとマッピングし、トラフィックを振り分ける。 ツ配信を考える際のカギになると見ているが、HP
つまり、異なる2つのパケット内のデータを組み合わ Labsの研究者であるミッチェル・トロット
(Mitchell
せたり、あるノードのインプットを別のノードのアウト Trott)
氏は、
「具体的にどのような用途で活用できる

March 2008 Computerworld 97


Technology Focus

のかは、まだ不明だ」
と慎重な見方を崩さない。 34ノード構成のネットワークでUDPトラフィックを
 同氏によれば、ネットワーク・コーディングをネット 使って実験した場合は、4倍ものスループット向上が
ワーク・インフラに応用するのは、コンテンツ配信の効 認められたという。
率性を向上させることより
「難しい」
という。性能面で
の有益性を証明しなければ、インフラ・ベンダーが導 WiMAXネットワークでの
入に踏み切ることはないからだ。 利用を視野に入れるIntel
 
「問題の解決に使えるとなれば、インフラ・ベンダー
も喜んで採用するだろう。では、
ネットワーク・コーディ  2006年からネットワーク・コーディングの研究に着
ングが貢献できる問題とは何か。その代表はマルチ 手しているIntelは、この技術がWiMAX規格にさら
キャストと言われているが、今日、マルチキャストは なるメリットをもたらすと見ている。
ほとんど利用されていない」
(Trott氏)  Intel Researchのコーオペラティブ・ワイヤレス・コ
 マルチキャストにネットワーク・コーディングを使え ミュニケーション担当プリンシパル・インベスティゲー
ば、従来のルーティングを改善するのと同じ要領で効 ター、
サミート・サンドゥ
(Sumeet Sandhu)
氏によれば、
率化できる。マルチキャスト配信では、宛先へのリン IntelはWiMAXの基地局と中継局間を制御管理する
クが分岐する際にメッセージの完全なコピーが生成さ 「マルチホップ・リレー技術」
にネットワーク・コーディ
れるが、ネットワーク・コーディングでこの処理の負 ングを応用して基地局の通信範囲を拡大しようとして
荷を軽減できると、支持者たちは主張している。 いるという。基地局への無線バックホールとなる中継
 ネットワーク・コーディングを実装する際のもう1つ 局にネットワーク・コーディングを採用すれば、xor機
の問題点としてTrott氏は、既存のスイッチやルータ 能でパケット・ルーティングを最小限に抑えられると
の大半が10年ほども前から使われ続けていることを いう算段だ。こうした形でネットワーク・コーディング
挙げる。
「新技術に対応した機器へのリプレースには を適用した場合、単純な双方向ルーティングにおける
かなりの時間を要する」
と同氏。 スループットは25%〜50%ほど向上するとされる。
 このほか、ネットワーク・コーダを介してパケットと  
「エンド・ツー・エンドの双方向通信で4つのタイム・
ビット・ストリームの操作を追跡したり、近隣のノード スロットを使う場合、ネットワーク・コーディングを利
を識別したりするための制御/管理プロトコルなどの 用すれば、
そのうち1つのタイム・スロットは2つのパケッ
開発も必要になる。しかも、そうした機能を逐次追加 トを組み合わせたデータ送信になる。そのため、
タイム・
していくのでは、はっきりとした性能の向上は見込め スロットを3つに減らすことができる」
(Sandhu氏)
ないとのことだ。  ただし、WiMAXは、アドホック型ではなく、集中
 現段階でHPには、ネットワーク・コーディングを自 管理型のネットワークという特徴を持つ。
社製品に採用する計画はないようだが、Trott氏によ  
「WiMAXはさほどリッチなインフラではなく、ネッ
れば、将来的には前向きに検討する可能性があると トワーク・コーディングのような新技術を取り入れても
いう。同氏がこの技術を生かせる分野だと考えている 限界がある。そこで現段階では、
シンプルな双方向ネッ
のは、軍用アドホック・センサ・ネットワークのような トワークだけを視野に入れている」
(Sandhu氏)
ワイヤレス・メッシュ・ネットワークだ。実際にMITでは、  このほか、Intelでは、MIMO
(Multiple Input
ネットワーク・コーディングによって、ワイヤレス・ネッ Multiple Output)
環境における通信手法として、
トワークのスループットが
「数倍向上した」
との研究成 OSI参照モデルの物理レイヤにネットワーク・コーディ
果も出ている。MITの研究者の報告によれば、適用 ングを応用することも検討している。
範囲が小さいケースでもスループットは2倍に向上し、  Sandhu氏は、ネットワーク・コーディングを応用し

98 Computerworld March 2008


Networks

Networks
た製品の開発計画については明言を避けた。だが、 できない」
とMedard氏。さらに同氏は、P2P通信へ
現在Intelが、この技術をさまざまなデータ通信に応 の攻撃に対しても、ネットワーク・コーディングが威力
用する可能性を追求していることは認めている。 を発揮するとしている。
 だが、以上のことを踏まえても、セキュリティに関

賛同派はセキュリティ面で する懸念を完全に払拭できるわけではない。また、将

暗号化よりすぐれると主張 来的にネットワーク・コーダはインターネットのような
共有型の大規模インフラのルータに取って代わるのか
 ここまで見てきたネットワーク・コーディングの特性 という根本的な疑問をはじめ、解決が必要な課題は
から、この技術にはセキュリティ面の弱点があると見 多い。データの混ぜ合わせが不可能な共有型ネット
る人もいるだろうが、MITのMedard氏は、メッセー ワークでは、いつ、どのようにネットワーク・コーディ
ジを
“偽装”
するネットワーク・コーディングは、トラ ングを実行するのか。有線と無線におけるネットワー
フィックを解読不可能な代数ストリームに変換するこ ク・コーディングの微妙な差異をどう吸収するのか。
とで、暗号化よりはるかに強力なセキュリティを確保 キャリアの通信サービスでユーザーのトラフィックを
できると主張している。 混ぜ合わせた場合の課金はどうするのか──これら
 
「データを混ぜ合わせることはデータを隠すことと についても検討が必要だ。
同義だ。AとBという2つのビットにxor演算処理をか  Medard氏のような研究者たちは、ネットワークの
けると、どれがAでどれがBかわからなくなる。ビット 効率性をさらに高める努力を続けつつ、こうした課題
Bを完全に復元しないかぎりビットAを導き出すことは の解決にも取り組んでいこうとしている。

COLUMN ネットワーク・コーディングの実用化に積極的に取り組むMicrosoft
 ネットワーク・コーディングは、まだ一部のベンダーが研究所でひそか ルを通過するプロキシを設定する必要があった」
(Miller氏)
に応用方法を研究しているような段階にある先進技術だが、
Microsoftは、  ちなみに、Microsoftがネットワーク・コーディングの研究を始めたの
すでにそのプロトタイプの試験稼働を始めている。同社は、2007年7月、 は2004年初めのことであり、その年の後半にはPoC
(機能検証)
を実施
「Microsoft Visual Studio 2008」ベータ2のダウンロード提供にあたっ するところまで研究が進んだ。そして、同社独自のテストによって、ネッ
て、ネットワーク・コーディングを実装したコンテンツ配信システム トワーク・コーディングは移行が容易な技術であることが証明されたとい
「Microsoft Secure Content Distribution」(MSCD)のテスト運用を う。Microsoftのリサーチャー、クリストス・ガンツィディス
(Christos
開始したのである。 Gkantsidis)氏は、これまでの研究を振り返り、
「最初からうまく機能した」
 このテスト運用のために同社は、通常は4週間で打ち切るトライアル と満足した様子だ。
期間を11月まで延長した。その間にMSCDの公開テストを実施し、設計  
「以前からこの方向に可能性があることはわかっていた。だが、ネット
に関する評価を行うとともに、将来的な製品化計画の可能性を探る考え ワーク・コーディングに関する最初の論文を読むまでは、それが進むべき
だったわけである。ちなみに、
サーバからのダウンロードではなく、
P2Pネッ 道であるかどうか決断しきれないでいた」
(同氏)
トワークによる配布という同社初の試みだった。  以上見てきたように、Microsoftは最も積極的にネットワーク・コーディ
 英国ケンブリッジにあるMicrosoftの研究所でソフトウェア・アーキテ ングの実用化に取り組んでいるベンダーだと言える。だが、その同社を
クトを務めるジョン・ミラー
(John Miller)氏によれば、
テストの結果は上々 しても、いまだにMSCDあるいはネットワーク・コーディング機能を組み
で、
「当社のVisual Studioチームはテストの結果に満足している。テス 込んだ製品の開発計画を発表するには至っていない。Miller氏によれば、
トの参加者からはおおむね肯定的なフィードバックが寄せられ、トライア 先に実施したMSCDの試験運用で収集したデータを徹底検証したうえ
ル期間の延長に伴う労力も比較的軽いことがわかった」
という。問題は で、次のステップが決定されることになりそうだという。
ただ1つ、MSCDは企業のファイアウォールを通り抜けることができない  また、Gkantsidis氏は、
「将来的には、P2Pコンテンツ配信以外に、
ということだった。 ライブ・ストリーミング、ビデオ・オンデマンド、あるいはグループ共有や
 
「Visual Studioをダウンロードする企業のIT/IS部門が、社内と社外 フォルダ共有といったP2Pコラボレーションでネットワーク・コーディン
のアプリケーションでのP2P通信を可能にさせるために、ファイアウォー グが担うことになる役割にも注目している」
とのことだ。

March 2008 Computerworld 99


IT KEYWORD

36

JPEG XR
I T
K E Y W O R D

(JPEG eXtended Range)

高い圧縮能力と色調再現能力を備えた
次世代のJPEG規格
3 6

Computerworld 編集部

 JPEG XRは、Microsoftが開発した静止画像用 JPEGよりも高画質)


の両方がサポートされる。
の新フォーマットである。2006年5月にその概要が公  また、表現できる輝度/色の幅などの情報量につ
開された時には
「Windows Media Photo」
という名称 いても、JPEGでは1色/ 1ピクセル当たり8ビットな
だったが、2007年3月に
「HD Photo」
と名前を変えて のに対し、JPEG XRでは最大32ビットまで拡張され
正式に発表された。現在
(2008年1月初旬)
は、新し ており、より原画/被写体に近い色調が再現される。
いJPEG規格
「JPEG XR」
として標準化されつつある XR
(eXtended Range)
という名称は、この特徴を言
段階にあり、JPEG規格の策定委員会
「Joint Photo い表したものである。色の表示形式もRGBやCMYK
graphic Experts Group:JPEG」
で策定作業が始 など幅広く対応する。
まろうとしている。  ちなみにJPEGが2001年1月に規格化した
「JPEG
 HD Photo
(以下、JPEG XR)
では、現行のJPEG 2000」
は、JPEG XRに匹敵する圧縮効率を実現し
と基本的に同じ技術
(離散コサイン変換など)
が用いら ている規格だが、圧縮に高い処理能力が必要である
れるが、圧縮効率の高さはJPEGの約2倍に達する。 ことや、Windowsで十分にサポートされていないこと
そのため、JPEGのように画像の色情報を所々間引か などから、あまり普及していない。一方、JPEG XR
なくても大幅な圧縮が可能となり、高画質の画像をよ はWindows Vistaでサポートされているほか、Adobe
り小容量で保存できるようになる。つまり、JPEG のPhotoshopでJPEG XR形式の画像を扱うための
XRでは圧縮前後の画像情報が維持可能であり、圧 プラグインが最近、正式に投入されるなど、すでに普
縮前の画像に戻せるタイプの圧縮と、JPEG
(注1)
の 及の兆しを見せている。
ように圧縮前の画像に戻せないタイプの圧縮
(ただし 注1:スペイシャル方式は除く

JPEGとJPEG XR
(HD Photo)
の比較
JPEG
(注1) JPEG XR
(HD Photo)
圧縮形態 非可逆圧縮 可逆圧縮/非可逆圧縮
色調表現能力
(1色/1ピクセル当たり) 8ビット 最大32ビット
拡張子 jpg、jpegなど wdp、hdp
(現段階)

その他の特徴 ●画像の色情報を所々間引くことで圧縮 ●圧縮の過程で画像の色情報は間引か


れずに維持可能

●圧縮効率はJPEGの約2倍

●TIFFのように解像度、圧縮方式などの
情報が保持されるファイル構造

●圧縮データの状態で原画の回転、切り
JPEGでは画像の色情報が所々間引かれるが、 抜きといった操作が可能
JPEG XRではすべて維持できる

100 Computerworld March 2008


 2007年2月、評論家の池内ひろ美氏 ザーに向けて書いたものにすぎなかった
を匿名掲示板の2ちゃんねる上で脅した と弁明したという。自分の書き込みが、
男性会社員が逮捕・起訴されるという事 実は世間に広く公開されており、当の池
件が起きた。池内氏の名古屋市内での インターネット劇場 内氏や警察にも読まれていることに思い
講演の当日、
「会場を血で染め上げる」
「教 が至らなかったのだ。
室に灯油をぶちまき火をつければあっさ  後者の事件も同様だ。ミクシィは友人
り終了」
などと掲示板に書き込み、挙げ 間での会話をネット上で再現するサービ
句に有罪判決を受ける結果となった。 スであり、この高校生は、仲間からの
“ウ
 同年暮れには、SNSサイトのミクシィ ケ”
を狙った日記を書いただけだったのだ
で、ファストフード店でアルバイトをして
佐々木俊尚 ろう。だが日記は
「ミクシィ全体に公開」
いた男子高校生が
「店でゴキブリを揚げ T o s h i n a o S a s a k i に設定されており、この結果、日記の内
た」
などと日記に書き、大騒ぎになった。 容は世間にオープンになっていた。もし
このとき店舗側は
「事実無根」
と全面否定し、高校生も Entry 居酒屋や喫茶店で友人と盛り上がっているときだった
店を訪れて謝罪。挙げ句に高校生が、通っていた有名 20 ら、ひどいことを言っても事件に発展することはなかっ
パブリックとプライベートの境界線

校を自主退学するという事態にまで発展した。 ただろう。だれも居酒屋や喫茶店での会話が、パブリッ
 ネットを舞台とした
「荒らし」
「ノイズ」
にまつわる事件 クにつながっているとは考えていないし、実際つながっ
は、例を挙げていけばキリがない。これまでに何度も繰 ていないからだ。
り返され、毎年のように警察に摘発されたり、大問題
になって社会的生命を失ったりしている。なぜあいもか  だが、インターネットという表現メディアは、その性
わらず、同じような事件が繰り返されるのだろうか。 質上、プライベートとパブリックの境界線をあいまいに
してしまう。このことは、ネットの世界で個人の発言が
 
「メディア・リテラシーが低いのではないか」
と言って マスメディアと同じようなパワーを持ちうることにもつな
しまえばそれまでだが、そこにはもう1つの要因が隠さ がっており、ブログ論壇の台頭が示すようにポジティブ
れているようにも見える。それは、プライベート
(私的空 な面ももちろんある。だが、
ネガティブな面の表れとして、
間)
とパブリック
(公的空間)
の境界の問題だ。事件を引 前述の事件で池内氏は生命の危険を感じただろうし、
き起こした当事者たちはいずれも、
「仲間内での盛り上 ファストフード店は大きな風評被害を被った。
がり」
の気持ちで、気軽にネットに書き込んでいる。前  この特性を、大多数のネット・ユーザーがきちんと皮
者の池内氏の事件では、男性は法廷で
「池内さんに危 膚感覚として認識できなければ、ネットで誹謗中傷した
害を加えるつもりはなく、そういう内容とも思っていな り、個人のプライバシーをうっかり暴露したりするよう
かった」
と述べ、一連の書き込みは他の2ちゃんねるユー な事件は今後もあとを絶たないだろう。

PROFILE
ささき・としなお。ジャーナリスト。1961年
兵庫県生まれ。毎日新聞社記者として警視
庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件
や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材
する。その後、アスキーを経て、2003年2
月にフリー・ジャーナリストとして独立。以降、
さまざまなメディアでIT業界の表と裏を追う
リポートを展開。『ライブドア資本論』、
『グー
グル——既存のビジネスを破壊する』 など著
書多数。

March 2008 Computerworld 101


 私が最初にコンピュータに触れたの 同好の士と、自作ゲームを見せ合いな
は、6歳のころでした。ファミコンすら がら勉強そっちのけで遊んでいたもので
まだ世の中に存在しない当時、いとこは した。
カセットビジョンというゲーム機を持っ
ていて、それで遊べるのが楽しみで、い
IT哲学  その後、紆余曲折がありつつも、大
つもいとこの家に行っていました。 学や仕事でもコンピュータにかかわるこ
 その後、マイコンなるものがあれば自 とをやってきているので、
「将来の夢は
分でゲームを作れるということを知り、 ゲーム・プログラマー」
という子供のころ
家族でデパートに出かけたときには、自 からの夢に、それなりに忠実に生きてき
分だけ電器製品コーナーに行き、陳列 たと言えるかもしれません。
されている憧れのマイコンにワクワクし
江島健太郎
K e n n E j i m a

ながら、立ち読みならぬ
「立ちプログラ  しかし、野球少年がみなプロ選手に
ミング」
に興じていました。当時の外部記憶装置はカ Entry
なるわけではなく、
音楽大好きなバンドマンがみなプロ・
セットテープ。カセットを持参して、作業が進んだら 30 デビューするわけではないように、プロにはプロの職
子供のころからの夢

セーブ
(録音)
して持ち帰り、また翌週末にその続きを 業人としての苦しさがあります。好きなことをやってそ
開発する、という感じで、店員さんに白い目で見られ のパフォーマンスから生活するに足る収入を得られる
ながらも楽しい日々を送っていました。 人はほんの一握りだし、日々のトレーニングから成長を
 自宅でも、画用紙にマイコンのキーボードを書いて、 感じられない時期はとても苦しい。もしかしたら自分は
カタカタとタイプの真似をする遊びが好きで、本屋に この仕事にそれほど向いてないのかもしれない、と疑
行ってもプログラミングの本ばかり読む。そんなことを 問に思う瞬間もないわけではありません。
1年ほど続けるうちに、とうとう親が根負けして、NEC

「PC-6001mk2」
というマイコンを買ってくれたので  今、
シリコンバレーという、
コンピュータ界のメジャー
す。これが、私のコンピュータ人生の始まりです。 リーグで無我夢中でバットを振っている最中ですが、
こんな生活もいつまで続けられるかはわかりません。こ
 授業中にこっそりノートにプログラムを書いたり、 こぞというときに長打が出なければ、そのうちスポン
方眼紙にキャラクターの絵を描いたりしながら、プロ サーから見放されるでしょうし、そういう厳しい、怖い
グラミング雑誌に自分の作ったゲームを投稿したのが 世界であると承知の上でやってきました。
10歳のころ。その後、BASICを卒業してアセンブラに  しかし、そういう恐怖を感じるとき、いつも、
「子供
手を染め、中学校に入るころには、作りたいものを不 時代の自分をガッカリさせたくない」
という思いが心の
自由なく作れるようになり、当時、少ないながらもいた 支えになっているのです。

PROFILE
えじま・けんたろう。インフォテリア米国法
人代表/XMLコンソーシアム・エバンジェ
リスト。京都大学工学部を卒業後、日本オ
ラクルを経て、2000年インフォテリア入社。
2005年より同社の米国法人立ち上げの
ため渡米し、2006年、最初の成果となる
Web2.0サービス
「Lingr
(リンガー)
」を発表。
1975年香川県生まれ。

102 Computerworld March 2008


 私は、ITのすべての領域で動向を追っ 新たなコンピューティング・モデルを表
ているわけではないですが、2008年、 すのにソーシャル・コンピューティング
特にフォーカスしていきたい動向が3つ ということばを使うのは、対象を明確化
あります。 テクノロジー・ランダムウォーク するうえで有効だと思っています。
 まず1つ目は、グリーン・コンピュー
ティングです。これについては、本号の 消費者向け技術の活用
特集記事で書いていますのでここでは  ブログやSNSを企業内に取り込もう
繰り返しません。 という動きは2007年にも見られました。
 2つ目は、次世代のSaaSです。アプ いわゆる、エンタープライズ2.0と呼ば
リケーション機能をまるごとネット・サー
栗原 潔 れる動きです。しかし、単にツールとし
ビスとして提供する形態から、アプリ K i y o s h i K u r i h a r a てブログやSNSを採用するだけではあま
ケーションの部品
(サービス)
を提供した りメリットが得られないのが実情です。
り、あるいは、基盤部分だけを提供したりという新た Entry ソーシャル・コンピューティングという視点から、より
な方向性へのシフトが見られます
(ところで、こうした 30 大局的かつ長期的に考えていくことが必要だと思いま
ソーシャル・コンピューティングの
可能性

動きをつい
「SaaS 2.0」
と呼びたくなってしまいますが、 す。
もうそろそろこの言い方はやめる時期かもしれません)
。  例えば、
「Twitter」
に代表されるミニブログ、
「ニコニ
コ動画」
に代表される動画のアノテーション
(注釈)

 そして、3つ目の注目動向は、ソーシャル・コンピュー ど、インターネットの世界で一般化しつつある消費者
ティングです。このことばは、まだ日本で一般化して 向けのソーシャル・コンピューティング技術が、形を
いないかもしれませんが、簡単に言えば、
「人と人との 変えて企業内で活用されるようになる可能性は十分に
つながりに基づいたコンピューティング形態」
というこ あると思います。経験則から言って、消費者向けで成
とです。ブログ、SNS、ソーシャル・ブックマークな 功したテクノロジーが企業内でも活用される動き
(いわ
どが典型的な例として挙げられます。 ゆる、
「コンシューマライゼーション」
)は今後も続くと
 ここまで聞くと、Web 2.0と同義に思われるかもし 考えられるからです。
れませんが、Web 2.0は
(意図的に)
総花的な定義が
行われたことばであり、インターネットの新しい動向を  もちろん、ここで挙げたグリーンIT、次世代SaaS、
すべて包含することばです。ゆえに、AjaxやRIA
(Rich ソーシャル・コンピューティング以外にも重要なトピッ
Internet Application)
などのインフラ系のトピックや、 クは数多くあります。今年も、
あまり境界にこだわらず、
ロングテールなどのビジネス・モデル的なトピックも含 自分の関心
(とビジネス上のポテンシャル)
にまかせて、
まれてしまいます。そこで、集合知を活用するための いろいろと追求していきたいと思っています。

PROFILE
くりはら・きよし。テックバイザージェ
イピー(TVJP)
代表取締役。弁理士の
顔も持つITアナリスト/コンサルタント。
東京大学工学部卒業、米国マサチュー
セッツ工科大学計算機科学科修士課程
修了。日本IBMを経て、1996年、ガー
トナージャパンに入社。同社でリサーチ・
バイスプレジデントを務め、2005年6
月より独立。東京都生まれ。

March 2008 Computerworld 103

Vous aimerez peut-être aussi