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雨傘川端康成
ぬ はだ しめ きり はるさめ おもて か
濡れはしないがなんとはなしに肌の湿る、霧のような春雨だった。 表 に駆けだ
しょうじょ しょうねん かさ み あめ
した 少 女 は、 少 年 の傘を見てなじめて、「あら。雨なのね?」
しょうねん あめ しょうじょ みせ とお は かく
少 年 は雨のためよりも、 少 女 がすわっている店さきを通る恥ずかしさを隠すた
ひら あまがさ
めに、開いた雨傘だった。
しょうじょ みせ とお しょうねん み かみ なお ひま と
少 女 は店さきを通る 少 年 を見ると、髪を直す暇もなく飛びだしてきたのだっ
かいすいぼう ぬ みだ かみ しょうじょ き
た。海水帽を脱いだばかりのように乱れた髪が、 少 女 はたえず気になってい
おとこ まえ は げ けしょう
た。しかし、 男 の前では恥ずかしくて、おくれ毛をかきあげる化粧のまねもで
しょうじょ しょうねん かみ なお い しょうじょ
きない 少 女 だった。 少 年 はまた髪を直せと言うことは 少 女 をはずかしめると
おも
思っていたのだった。
けしょうしつ い しょうじょ あか しょうねん あか いち とも
化粧室へ行く 少 女 の明るさは、 少 年 をも明るくした一その朋ぢきのあとで、ふ
み よ な が い す
たりはあたりまえのことのように、身を寄せて長椅子にすわった。